氷の華は怒りに燃ゆる。

私の視界がボヤけた中で

複雑な虹彩を放ち美しく輝く

金剛鋼の片刃の剣を手にした

凛然たるレティシアの姿が見えた

彼女は冷たい視線でヴァイドを睨む

レティシアとその隣には

リュオンとヌールの姿も見えた。

レティシアを見たフランシアは叫ぶ。


「お姉様!!」


「フランシア、情けない顔はおやめなさい。

フリージア家の令嬢たるもの、何時

如何なる時も常に凛然としていなさい。」


「ごめんなさいお姉様…ですが、ノエルが…ノエルが!」


レティシアは倒れ震える私に視線を向け

即座にヌールへと指示を出す。


「…ヌール!フランシアを連れて

ノエルの治療を…猶予はありません

…急ぎなさい。」


「直ちに」


ヌールは倒れる私とフランシアの

元へ来ると私に耳元で囁く。


「ノエルさん、怪我は…酷いですね…

後はレティシア様に全てお任せしましょう。

フランシア様、お手数ですが

私と共にノエルさんの治療を

手伝っていただけますか?」


「は…はい、一緒に行きます!」


私はヌールに担がれ、フランシアと共に

その場を後にする、レティシアとすれ違う

間際、彼女はつぶやいた。


「…ノエル、フランシア、恐怖の中で

取り乱さずに良くぞ頑張りましたね。

…後の事は全て私に任せなさい。」


フランシアは微笑み頷く。


「待っていたぞ、レティシア!!

お陰で雑魚を殺す手間が省けたぞ!!」


「大分卑怯な手を施した様ですね…。

それに、その暴言たるや…呆れました。」


レティシアは深くため息を吐く。


「…レティシア様…ライオネル令息の始末は僕が付けますよ、増長させたのは王家の罪です。それに、僕の弟子であるノエルさんを

あんな目に合わせた者を許せません。」


リュオンが腰に携えた剣に手を掛けると

レティシアはそれを制止する。


「リュオン王子…今回の件はフリージア家に対するヴァイド・ライオネルの宣戦布告です。

グランバルト王家は厳正な処分をする

その一つ事だけに、今回は留まって下さい。

ライオネル家にはフランシアの友人である

ヴァレッタ伯爵令嬢も居ますので…

これは、私からのお願いです。」


レティシアの言葉に、リュオンは微笑む。


「…わかりました、でも、レティシアに

生命の危険が迫ったら、家柄など関係無く

リュオン個人として、貴女を護らせてもらいます。」


「ありがとう…リュオン。」


「良い加減ごちゃごちゃと!女々しい

やり取りは第二王子の専売特許か!!」


猛るヴァイドにリュオンは苦笑いで答える


「そう言う君は暴言が専売特許の様だね」


「お前…ッ!!」


「ヴァイド・ライオネル、貴方相手に

リュオン王子の手を煩わせる必要もありません。貴方の相手は私がします。」


激昂するヴァイドに冷ややかな視線で

レティシアはそう言った。


「フリージアの雌如きが

腕や脚の一本や二本

失った所で後悔するなよ!!」


「出来る事ならやってごらんなさいな。」


レティシアとヴァイドはそれぞれが

剣を手にして構えた。手にする剣が

まるでそれぞれを象徴する様だった

ヴァイドの無骨で巨大な大剣に対し

レティシアは細く鋭い片刃のサーベル

対峙する二人をリュオンは

自分の腰に吊るした剣の柄に手を添え

何時でも乱入する覚悟であった。


「レティシア、お前さえ居なければ

頭首が外遊ばかりし続けるフリージアなど

この国から消えて無くなる!!

この俺が消してやる!!

レティシア、お前はこの場で死ね!!」


「全く…」


レティシアはサーベルで空を斬る

その動作はまるで準備運動の様であった。

虹彩放つサーベルは鋭い音を鳴らし

ヒュンヒュンと空を斬る。


「弱い者程、強い口調で良く吠えるモノです。」


「何だと…?」


「弱いから法外の者達と徒党を組むのでしょう?そして刹那的な行動…真の強者なら

もっと余裕ある行動をするはずですからね」


冷たく言い放つレティシアに

ヴァイドは激昂した


「俺を弱者と馬鹿にしたな!!

絶対に許さんぞレティシアァッ!!!」


「許さない…?それは私のセリフです」


レティシアは冷たい瞳でヴァイドを睨み

切先を彼へと向ける


「私のフランシアを怯えさせフリージア家の

従者であるノエルに危害を加え、あろう事か

二人を殺害しようとした貴方の罪、万死に値します。ヴァイド・ライオネル、私が

貴方に今生の地獄を見せてあげましょう。」


「ほざけ!雌の分際で俺に勝てると思うなッ!!」


怒りに任せヴァイドが大剣を床に叩きつけると、それを合図にしてレティシアは剣を構え飛び込んだ。即座にヴァイドは体制を立て直し大剣でそれを受け止める。

鋭い金属音がエントランスに響き渡る


「ふん!その様な細腕で俺に攻撃が届くと思っているのか!!」


「頑丈さだけが取り柄の様ですね

ですが、私の手数はこの程度では有りません。」


レティシアはバックステップで距離を取ると

ヴァイドは大剣を頭上に振りかぶった

レティシアは体制を整えたのち

再度ヴァイドの胸元へと飛び込み

剣を構えて距離を詰めた。


「馬鹿の一つ覚えか!甘いぞ!もらった!!」


ヴァイドの大剣がレティシアを

頭上から両断する。彼女を両断した

刃は床をも豪快に破壊する。

大きな音を立てて砕けた

床の破片が宙を舞う。


「ふははは!!俺の勝ちだ!!

これでフリージアも終わりだ!!」


高らかに笑うヴァイド。

それに対してリュオンは微笑む。


「ライオネル令息、レティシア様は

この程度で終わる方ではありませんよ

油断しましたね、もう君の負けです。」


「…強がりを…!」


「…ええ、甘いのは貴方です

ヴァイド・ライオネル。」


両断されたレティシアは不敵に微笑むと

そのまま霧の様に消滅する。

ヴァイドはその光景に驚愕した


「な…幻影だと!?」


ヴァイドの上空周囲を取り囲む

無数のレティシアが一斉に襲いかかる。


「もう逃げられませんよ、ヴァイド・ライオネル」


無数の虹彩が無作為にヴァイドの

全身を駆け抜けた。

一閃一閃がヴァイドの身体を捉え

強力な一撃を与え続ける。


「ぐおおっ!?」


「なるほど、やはり頑丈ですね

さて、貴方がどれだけ耐えれるか

是非とも私に見せてごらんなさい。」


レティシアが放つ非情で冷酷な攻撃は

文字通りヴァイドが倒れるまで続いた。

刃を返した峰打ちではあったが

レティシアの攻撃は一発一発が重く

ヴァイドが撃たれた箇所の肌は

鬱血し、次第に腫れ上がって行く。


「さて、止めです。お眠りなさい

ヴァイド・ライオネル」


ヴァイドの脳天へ最後の一撃を撃ち込んだ。


「馬鹿な…この俺が…雌なんぞに…!」


ヴァイドは白目を向き、両膝をついて

彼の身体は、そのまま力無く

前のめりに崩れ、床に突っ伏した。


「見事です、レティシア様。」


「リュオン王子…後の事は任せても

良いですか…?」


「はい、後は僕の方で対処しますので

一刻も早くフランシア様の元へ行って下さい、きっと不安でしょうから。」


「ありがとう…リュオン。」


レティシアは微笑み、リュオンの頬に

軽く口づけをして、急ぎその場を後にした。


「…レティシアのおかげで…顔が、熱いや…」


リュオンは顔を真っ赤にして

レティシアの背中を見守りながら呟く

彼は彼女の唇が触れた頬を左手で

大事に大事に覆っていた。

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