暴虐のヴァイド
欲しいものは全て手に入れてきた
気に入らないものは全てぶち壊して来た
反論する奴を力で捩じ伏せ黙らせる
この俺に従事する者はコマとして使い
勢力を徐々に拡大して来た
力こそが正義、力こそが全て
逆らう者には、死あるのみ。
いずれは腑抜けのグランバルト王家を
下し、ライオネル家が…いや
絶対的な力を持つこの俺、ヴァイドこそが
国の頂点に立つのが相応しいのだ。
あの玉座は俺にこそ相応しいのだ。
腑抜けな第一王子のレイボルトも
女々しい第二王子のリュオンも
全て俺の目の前に跪かせてやる。
そして、筆頭貴族のフリージアも
セウディリムもブランドンも
ゴルダールもルーベンスも
バルバロイもモリアデンも
王家グランバルトも、それ以外の人間も
この世の全てを俺の足元に跪かせてやる
この世の全ては俺のものだ。
※
フランシアを攫ったヴァイドは
自分のコマである、ならず者の二人を
引き連れ、ライオネル家が所有する
街外れの古びた屋敷へとやって来た。
屋敷の壁は燻んでいる様に見えた
掃除が行き届いている訳でもなく
豪奢でしっかりとし建物なのに中は
埃っぽい、壁の四隅には蜘蛛の巣が貼られ
まるで打ち捨てられた廃墟の様だった
エントランスホールに入ると
何処から持って来たのか一つの椅子
ヴァイドは乱暴にその椅子の埃を払うと
それをフランシアに用意した。
「そこに座ってろ!騒いだらどうなるか
わかっているな?」
フランシアは頷く事もなく
黙って椅子に座る。
あのヴァレッタが勝てなかった
相手ならば、自分が抵抗した所で
無駄である事をフランシアは理解していた。
フランシアはヴァイドが自分を
攫った理由を静かに考えていた。
(…そもそも、ライオネル家とフリージア家は
直接的な関わりを持っていた訳ではないですし…それこそ、メルリナの計らいと、アガサの一件以降、ヴァレッタには大変仲良くしていただいていますが、それも最近の事…。)
更には、現当主との面識は王城主催や
他の貴族が開いたパーティ等
社交界程度での繋がりぐらいしかなかった。
ともなれば、フランシアに考え付く事は
たった一つしかなかった。
(…学園武闘祭で、ライオネル家が
フリージア家に負けた事をヴァイド令息は
逆恨みしているのですね…。すると
彼の目的は、恐らくノエルかレティシアお姉様…私はその為の餌ですね…。)
ヴァイドに指示されたならず者の二人は
エントランスの好きな所で待機し
彼自身はから入り口玄関を
睨みつける様に見ていた。
(…ノエル…助けて…。)
フランシアは目を瞑り、時が来るのを待った
あの危機の時の様に、必ず自分の想い人が
颯爽と助けに現れるまで、たとえ
どの様な辱めを受けたとしても
耐えて見せようと、フランシアは
自らがヴァイドに付いて行く時
既に、心の中で覚悟していた。
※
私はレティシアから貰った指輪を使い
攫われたフランシアを追っていた。
まさか、彼女達から離れた隙に
日中堂々とフランシアが攫われるなど
正直、予測をしていなかったのだ。
そして、彼等は他の令嬢にも被害を出した
これは近い内に国内や貴族会の大問題に
なる事も考えられる。一つ間違えば
お家断絶、ライオネル家は国家の逆賊として
王家に裁かれてしまう可能性もある。
そこまでして、フランシアを攫って
手に入れたい物とは何なのか。
ヴァイドの行動には不可解な点しか感じない。
「…ここにフランシア様が…」
指輪の指し示す光の先には
一見すると何の不思議もない
古びた豪奢な屋敷、周囲は手入れが
全くされておらず、殆ど人の出入りが
されていない事が伺えた。
しかし、最近出来たと見られる
乱雑に出来た足跡が、恐らくは
ここにフランシアが囚われている事を
確信が持てた。私は模造剣を抜き
警戒しながら屋敷へと入る。
エントランスの椅子に座るフランシア
その周囲には男が三人、一人は
かなり体格の良い、まるで獅子の鬣の様な
そんな頭髪をした男であった。
「フランシア様!!」
「ノエルッ!!やはり来てくれたのね!!」
どうやら男達はフランシアに
一切手を出していない様で
私は少し安心した。大男が一歩前に出る
「待っていたぞ、俺の名はヴァイド・ライオネル!お前がフリージアのメイドか!
ヴァレッタ如きを倒した所でフリージアが
ライオネルに勝ったなどと調子に乗るな!!」
私は驚いた、ここまで独善的で
自意識過剰で横暴を効かせる
常識はずれな考え方を持つ
貴族令息がこの国に居るとは
正直な所思いもよらなかった。
「今すぐにフランシア様を解放しろ!!」
「…良いだろう、さあ、立て!!」
「きゃっ!?」
ヴァイドはフランシアの右手を掴み
引っ張り上げた、彼女を無理矢理立たせ
そのまま、私の方へとフランシアを投げた
床に倒れ込むフランシアの姿を見て
私は怒りで髪の毛が逆立っていた。
「フランシア様に乱暴をするなッ!!」
ヴァイドは激昂する私に見向きもしない
フランシアはゆっくりと立ち上がる
そして彼はならず者二人に命令した
「やれ、フランシアを殺せ。」
ならず者達はニヤリと
不気味な笑みを浮かべた
「フランシア様ッ!!」
ならず者はフランシアに襲いかかる。
私は脇目も触れず無我夢中で飛び込んだ。
「へひゃひゃッ!!」
ならず者達が振りかぶった
二つの凶刃がフランシアの背中に
勢い良く振り下ろされる、
私はフランシアに向かって
まっすぐに手を伸ばした。
「きゃっ!?ノエルッ!!」
私はフランシアを突き飛ばし
一人の凶刃は虚空を切り裂き
一人の凶刃を自分の身体で受けた
切れ味の悪い斜めに斬られた身体に
熱く、鈍い痛みが走る
お気に入りのメイド服が
私の血で染まってゆく。
「ぐっ…うぅ…!あああッ!!」
「がふっ!?」「ぐえっ!?」
私は渾身の力を振り絞り、ならず者
二人をまとめて、横凪、そして
その返しの刃で弾き飛ばし
両方を気絶させた。
私の負傷を心配してフランシアが
私の元に駆け寄ってきた。
「ノエル!酷い怪我よッ!?」
「フランシア様、この程度大した事ありません。」
痛みが身体を走るが、私は
フランシアを安心させる為に
強がって、微笑んでみせた。
私がならず者達を叩きのめす
その光景を黙って見ていたヴァイドは
ゆっくりと納得した様に口を開く。
「…ほう、確かに、少しはやる様だな。」
「お前は、この様な事をして
タダで済むとでも思っているのか!!」
激昂する私を見てヴァイドは嘲笑う。
「さあな、どちらにせよお前達はここで
仲良く事故死する運命なのだ
それにお前の身体はもう動かぬ。」
「何だと…!」
その瞬間、私の視界が揺らぐ
私の身体は震えながら痺れ始め
額から脂汗が滲む、私は次第に
立っていられなくなりその場で跪いた。
「遅効性の麻痺毒だ、解毒しなければ
近いうちにお前は死ぬ、その場で
フランシアが死ぬ様を見ているが良い!!」
私の呼吸は荒れ始め、傷口から浸透する
痛みで身体が苦しい、私のその姿を見た
フランシアの顔が青ざめる。
「ノエル!ノエルしっかりして!!」
「ぐ…申し訳…ありません…フランシアさ…ま…どうか、お逃げ…下さい。」
息苦しく、声は掠れ、振り絞って出た言葉
フランシアがぽろぽろと涙をこぼして泣いている、今すぐにその涙を拭き取ってあげたいのに手に力が入らない。
「ノエル…ノエル…。」
「ははははは!!どうやらお前達は
自己犠牲の精神とやらが好きな様だな!!
安心しろ、二人とも纏めて俺のこの手で
仲良くあの世に送ってくれる!!」
静かに泣くフランシアと
高らかに笑うヴァイド
地に伏した私は立ち上がれなかった。
隣にいるフランシアだけは
自分の生命に変えても
絶対に護らなければ
頭ではそう考えてるものの
身体が言う事を聞かない。
「そのまま何も出来ずに死ぬが良い!」
ヴァイドがフランシアに歩み寄る
絶体絶命と思われたその時であった
「そこまでです、ヴァイド・ライオネル」
冷たい程の殺気に満ちた女性の声
エントランスの大扉には
気品に溢れるレティシアの姿があった。
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