花の香りに抱かれて。
私は朦朧とする意識の中で
私の名を必死に呼びかける
フランシアの声を聞いていた
傷口は熱く、手脚は痺れ、頭は重い
鼻先で香るフランシアの華の様な匂いが
私の気持ちを安らかに落ち着かせてくれた。
後悔など微塵もなかった、大切な人は
今も泣きながら私の名を呼ぶが
彼女の事を守れて、心の底から
本当に良かったと思っている。
朦朧とする私の意識は徐々に
暗い闇の中へと沈んでゆく。
恐怖など無く、実に穏やかな気分だ。
そう、彼女を守れた、それだけの事で
私は十分に満足していた。
※
「ノエル…」
フランシアは眼を赤く腫らしながら
献身的な介抱を続けている。
口移しで解毒剤を飲ませ
傷口の消毒すると、ヌールに
アドバイスを受けながら
的確に止血を行い、傷口を塞ぐ
「ノエル…お願い…目を開けて…」
ぽろぽろとフランシアの瞳から溢れる
大粒の涙が、私の頬や唇にこぼれ落ちて
少ししょっぱいのと暖かい温もりを感じた
ゆっくりと瞼を開けて、まだ視点の定まらない眼で私はフランシアを見た。
彼女は泣きながら笑っていた。
「ノエル…ッ!」
「フラン…シア…さま…ケガは…ありませんか…?」
フランシアは私の左手を握り
涙を流しながら微笑む。
「はい、ノエル、貴女のお陰で私は
どこも怪我をしておりません、だから
ノエル…貴女も早く良くなってくださいまし」
「そうです…か…良かった…」
私は微笑みながらそのまま眠りに就いた。
「フランシア様、ノエルさんは一旦は止血が終わりました、血を流し過ぎている故
今後も介抱が必要です。一度フリージア家の
寝台に運びましょう。」
「それでしたら、私の寝室に。
ノエルは私が責任を持って介抱致します。」
「御意に、レティシア様もフランシア様
ならばそうするだろうと、仰っていました
人を呼びノエルさんをすぐに運びましょう。」
ヌールはフランシアに微笑むと
すぐその後で私の身体はそのまま
フランシアの寝室のベッドへと運ばれた。
その日、フランシアは一睡もせずに
私の介抱に時間を尽くしていた事を
昏睡する意識の中で感じていた。
フランシアは私の名を優しく呼びかけながら
濡れた手拭いで私の身体を汚れを拭う。
食事も、午後のお茶も、日課の学業も
出来うる限りの全ての時間を
眠る私の隣でフランシアは過ごしていた。
フランシアが湯浴みを終え
日もすっかり落ちた頃、私の体調にも
変化が起きた、急激な寒気が私を襲う
「ノエル?どうしたの!?」
身体を震わせる私に異変を感じたのか
フランシアは私の額に手を触れた
ほのかに伝わる体温が暖かい。
「ノエルの身体がとても冷たい…
…どうしよう…どうすれば…」
フランシアは私を見つめながら
少しの間考え、意を決したのか
彼女は軽く頷いた。
「ノエル…私の身体で温めてあげるから…」
フランシアは服を脱ぎ落とし
下着すらも脱ぎ捨てると
寝台の中へと潜り込み
私の身体へとぴったり肌を寄せる
絹の様な滑らかで、マシュマロの様に
柔らかく、きめの細かい肌の体温が
冷たくなった私の身体を柔らかく包む。
「ノエル…私、こんな事ぐらいしか
出来なくて…本当にごめんね…。」
私はフランシアの身体に抱かれると
私の身体は震えも止まり、暫しの間
柔らかで、穏やかで、母の胸の中の様な
心落ち着く温もりに抱かれて安心して眠る
フランシアから香る花の香りは
私に幼い頃を思い出させ、私は静かに
すやすやと、赤子の様に寝息を立てていた。
あれからどれくらいの時間が経ったのか
私はゆっくりと瞼を開く、見慣れた天井
フランシアの寝室の寝台である事がわかった
「…あれ…?私…どうしてここに…?」
朧げな記憶の中でフランシアが
必死に介抱をしてくれた事だけは覚えている。
上半身を起こそうとして身体を動かすと
何か、フニッとした柔らかいものが
手にふれた、その時小さな声で「あっ」と
言う短く喘ぐ様な声が私に聞こえた。
声は毛布の中から聞こえてきた。
声に驚いた私は、痛む身体のことも忘れ
包帯だらけの上半身を起こす。
「…え…?…な…何…?」
私は恐る恐る、柔らかいものを感じた
手の方の毛布をゆっくりと持ち上げる
するとその中で、くの字にすやすやと眠る
眩いほど透き通った肌を顕にした
生まれたままのフランシアの姿
私が感じた柔らかさ、この愚鈍な
手が揉んでいたのはフランシアの
慎ましくも程よい形をした彼女の胸である。
私は思わず悲鳴を上げた。
「ふっ!?フランシア様ッ!?どうして私の隣でッ!??」
慌てふためく私をよそに、フランシアは
欠伸をしながら呑気に起き上がる
陽光を照らし返す彼女の肌は美しい。
「…ノエル…?ノエルッ!!」
フランシアは私に気がついた瞬間
目を見開いて、涙を流しながら
勢い良く、抱きついて来た。少しだけ
傷に響いたものの、フランシアの素肌の
柔らかさがとても心地よかった。
「ノエル!ああ、ノエル…!本当に良かった…」
「…フランシア様…ずっと私を介抱して下さっていたのですね…。」
「私、着替えてお姉様達を呼んできます」
「フランシア様」
私はその場から離れようとするフランシアを
抱きしめ、その場に留めた。私の行為に
フランシアは少し驚いて頬を染める。
「ノエル!?」
「心細いので…しばらくこのままで」
「…はい」
甘く香る花の香りを、暫くの間
私だけのものとして独占していたかったのだ。
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