ノエルとフランシアと学園武闘祭2

授業が一通り終わり

私達はレティシアに会う為に

意気揚々のメルリナを連れて

フリージア家に帰ってきた

私達三人が帰ってくると

ヌールが入り口で出迎えてくれた


「おや…?これはメルリナ様

お久しぶりでございます」

「ヌールさん、ごきげんようなのですわ」


ヌールはメルリナにお辞儀をし

それに対してメルリナは丁寧に挨拶をする


「ヌール、お姉様はいらっしゃるかしら?」

「はい、レティシア様はただいま庭園の

テラスで休憩されていらっしゃいます

こちらです、ご案内いたします」


ヌールの案内の元、私達はフリージア家の

庭園を歩く、途中で庭師のモーゼスが

通路の垣根を美しく丁寧に

刈り込んでいるのが見えた

レティシアは庭園のテラスで優雅に

穏やかにお茶を楽しんでいた


「レティシア様、フランシア様がお帰りになられました」

「お帰りなさい、フランシア…あら?

今日は珍しくメルリナも一緒なのね?」

「レティシアお姉様、お久しぶりでございますですわ」

「相変わらず元気そうね、メルリナ」


いつも通りの冷ややかで鋭い視線であったが

レティシアの言葉は穏やかであった

フランシアとメルリナはレティシアの

目の前に立つと、何かを察したのか

レティシアが静かに要件を尋ねた


「わたくしに何か用でもあるのかしら?」

「お姉様、学園武闘祭の事で少しお話が…」


フランシアは事の顛末をレティシアに

伝える、ヴァレッタやアガサの事や

メルリナが代理で出る事を提案した事等

あの場で起きた事を出来るだけ詳細に

レティシアに包み隠さずに話した


「…そう…メルリナは

何もメリットが無いけれど

それでも良いのかしら?」

「レティシアお姉様…あたくしの事は

あまりお気になさらず…ですわ」

「…フランシア」


レティシアは唐突に何かを思いついた様だ

鋭い目線で私とフランシアを見た


「…貴女もノエルと一緒に特訓しなさい

仮に武闘祭に出ないとしても

護身術として無駄にはならないわ

それと苦手を克服しておきなさい」

「…はい、お姉様」

「ノエル…くれぐれもヴァレッタ

…ライオネル伯爵令嬢を

並の相手と思わないように

今後の訓練はいつも以上に全力で臨むこと」

「かしこまりました、レティシア様」


真剣な眼差しのレティシアの言葉に

私は静かに頷く、それだけ

あのヴァレッタと言う令嬢は

武術に長けていると言う事なのだろう

私に話しかけた後レティシアは

メルリナの方へと身体を向けた


「メルリナと少し二人で話がしたいの

だけど…出来ればフランシア達は

席を外してもらえるかしら?」

「はい、わかりましたお姉様」

「では、失礼します」


私はレティシアに一礼して

フランシアと共にその場を後にする

レティシアがメルリナと何を話すのか

少し気になったが、フランシアの

お腹が空いたと言う事なので

私達二人はひとまず食堂へと行くことにした

二人が去ったのを見てレティシアは

メルリナに鋭い目線を向け

静かな口調で話しかける


「…ところでメルリナ、貴女は一体…

何の隠し事をしているのですか?」

「隠し事では無いのですが、少しだけ

友人達の仲直りの手伝いをしたいと

思っているのだわ」

「…仲直りですか…」

「レティシアお姉様に絞られて"彼女"も

とても反省しております、勘違いから

生まれた切っ掛けに過ぎませんが

上手く活かせればフランシアにとって

掛け替えのない財産になる筈だわ」

「ふむ…」


レティシアはメルリナの言葉に

顎に手を当てて少し考えていた

それ程時間は経たずに

レティシアは穏やかな口調で答えた


「…いいでしょう…メルリナ

貴女に任せます皆のサポートを

頼みましたよ」

「全力で頑張りますですわ!」


その後、私達が談笑をしながら食事を

摂っているとメルリナが食堂にやって来て

三人で賑やかな食事をする事となった

ユーズキーの作る料理は今日も絶品だった



リュオンとの特訓はレティシアの

指示もあり、私とフランシアの二人で

受ける事になった、レティシアは

メルリナと何か用事があるらしく

フリージア家で何か話し合っている様だ

フランシアはまだ慣れていないと言う事で

基礎訓練を私はリュオン指示の元で

新たな技術開発を行っていた


「今回ノエルさん達に教えるのは魔法刃と

呼ばれるもので、魔力の刃を自分の武器に

纏わせ格段に強化します、

理屈とコツさえ掴めば簡単に扱える

言わば魔法です、魔力は殆どいりません」

「しかし…リュオン王子…この国では

魔法を使える人なんてほとんど居ませんよ?私達でも出来るものなのですか?」


私の質問にリュオンは笑顔で答えてくれた


「元来、魔力と言うものは

産まれた時から私たち生物に

大なり小なり備わっています

ただ、魔法を使うにあたっての

チャンネル、出力系統、或いは

顕現する為の何かが足りないので

まともに魔法が使えないんです」

「…どうすれば使えるのですか?」


リュオンは静かに剣を抜く

煌めく刃を私に見せて

魔法の理屈を説明し出した


「現在で発見されている魔力鉱や

超希少金属のオレイルム鋼等と更に

聖霊の祝福を受けた銀等、特殊な金属

そして、私は先程、生物に大なり小なり

魔力が宿ると言いましたね?」

「はい…と言う事は植物とかにも…」

「御名答、木々や草花にも宿ります、

他にも色々有りますが骨や繊維の

一部が有名ですかね」


雑草を抜きながらリュオンは

穏やかに言葉を紡ぐ


「…確か武闘祭で実際に使うのは

木剣と聞きました」

「ノエルさん、勝敗のルールに

"武器破壊"が有りましたね?

つまり、魔法刃が扱えれば

確定勝利の条件が揃うわけです」

「相手を下さずに勝つ事が出来ると」

「扱いは簡単なのでフランシア様が

護身術として覚えるのも

意味があると思いますよ?」

「…なるほど…」


笑顔で静かに頷くリュオン

フランシアは妙に納得した顔で

頷いていた私はリュオンの説明で

学園武闘祭の効率的な戦術の様な

事まで考えていてくれた事に

驚き、呆気に取られていた


「…ですが、この搦手ではライオネル

伯爵令嬢は恐らく納得しないでしょうね

ですので、ノエルさんの実力は

底上げが必要です、特訓はキツイですが

最後まで耐えて下さいね」

「はい!師匠!!」

「わ、私も基礎訓練頑張ります!」

「ええ、フランシア様はゆっくり

確実に挑戦していきましょうか」


リュオンと戦闘訓練が激化する中

私を心配そうに見守りながら

フランシアは自身の基礎訓練を

国もせず地道に行い続けていた

私はリュオンと手合わせをしていると

彼の底知れなさに脱帽する

リュオンは明らかに手加減している

手加減しているのだが、私と同等か

それより一つ上ぐらいの繊細に

微調整して相手をしてくれた

慣れてくると更に上と緩やかに

実力のレベルを上げていく

容易に加減の調整が出来る

リュオンの底知れぬ実力は

私はある種の恐ろしさを覚えた

私達が本日、一通りリュオンとの

特訓を丁度終えた所に

砂煙を上げながら駆け抜ける

影がひとつ遠くの方で見えた


「おーっほっほっほっ!!」


明るく元気で、それでいて

聴いてて苦にならない高笑いが聞こえる

勢い良くやって来たその姿は

やはりメルリナだった


「あたくしがやって来たのですわ!」


私達の前でピタリと止まると

巻き上げた砂煙が風邪に流れて行った

いきなりやって来たメルリナに

リュオンは少し驚いていたが

微笑みを崩さずに彼女を見ていた


「メルリナごきげんよう」

「メルリナ様おはようございます」

「お久しぶりですね、メルリナ様」

「フランシアもノエルさんも

リュオン王子もごきげんようなのですわ!」


少し子供っぽいと言うか無邪気というか

そんな所も有るメルリナだが

細かい所は抜けておらず欠かさない

まるで幼くなって、それで明るくなった

レティシアを見ている様な錯覚に陥る


「レティシアお姉様と一緒に来たのですが…あれ…?お姉様は何処に居るのですわ?」


辺りを振り返るメルリナ

彼女が駆け抜けて来た道を

フリージア公爵家の魔導馬車が

ゆっくりと進んできた

やがて別荘の門の所で

止まると、馬車の中から

レティシアとヌールが降り立つ

このメルリナとか言う令嬢は

自らの脚で来た様だ…


「…ノエル、首尾の方は如何ですか?」

「リュオン王子のお陰で…なんとか

なりそうです、当日は必ず

ライオネル伯爵令嬢に勝ちます」

「ええ、必ず勝ちなさい、期待してるわ」


レティシアの激励の言葉で

私は一層気合が入った

たとえどの様な結果になろうと

学園武闘祭に全力で挑もうと

持てる力の全てを出し切ろうと

そう心の中で違ったのだ。


「それじゃフランシア、フリージア家に

帰って少し打ち合わせするのですわ!」

「そうね…お茶でも飲みながらしましょうか」


そう言いながらフランシアとメルリナは

ヌールの待つ魔導馬車へと向かっていく

私はレティシアに問い訊ねる


「レティシア様は…もちろん

明日お戻りって事で良いですよね?」

「…そ…そうね…」


私は少しニヤニヤしながらレティシアと

リュオンの表情を眺めていた

特にリュオンの表情は顕著で

頬が赤く染まっている様に見えた

お盛んだなぁ…私は少しだけ

二人の関係が羨ましくも思った

少々歳が離れているものの

そんな事は関係無しに

二人の関係は仲睦まじく思えた。


「レティシア様…その…」

「…ええ、リュオン王子…」

「レティシア様、どうぞごゆっくり」

「…ノエル…貴女も早く家に帰りなさいな」


私はレティシアの表情が

照れているように思えた

二人の姿を見届けて私も

フランシア達の待つ

フリージア家の魔導馬車へと

向かって歩く

レティシアとリュオンは

去り行く魔導馬車を見守っていた。

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