ノエルとフランシアと学園武闘祭

後日、ロロス・ルーベンスは

罪人としてリュオン率いる

王国騎士団に捕縛された

罪状は誘拐、強姦、殺人、遺体遺棄

そして、フリージア公爵令嬢

フランシアへの誘拐と暴行の

現行犯逮捕である

私とフランシアが立ち去った後の

小屋の中でレティシアとヌールが

ロロスに今日までの行方不明

女性に付いてどうやったのか

全てを吐かせたらしい

ルーベンス男爵はレティシアの話を

聞くや否や、あの小屋に私兵を派遣

王国騎士団と協力して小屋の周辺を

掘り返すと、複数の白骨化した

遺体が発見された、遺品も一緒に

埋められており、一部から行方不明に

なった女性が身に付けていたであろう

装飾品が同時に見つかったのだ

あの小屋と土地はルーベンス家の

所有物となっていたが

何一つ登録されておらず

ロロスが偽名を使って買い上げたらしい

もしも、私の到着が一歩でも遅れて

いたならば、フランシアも彼女達の

仲間入りをしていたのかもしれない

と思うだけで、今でも背筋が凍る

王国騎士団に捕縛されたロロスは

今や裁判による判決を待つ身で

ルーベンス男爵もその次男の

ロデリックもロロスを擁護や

弁護する気や行動を一切見せなかった

彼は全てを欺き、他者の弱みに漬け込み

己の欲のまま行動していたのだから

もはや、家族にすら見捨てられたのだ

王国騎士団に拘束されて連れて行かれる

ロロスの左手はレティシアとヌールに

何をされたのか想像もつかないが

右手の凡そ三倍近くまで

痛々しく紫色に腫れ上がっていた

目の下には隈が出来

お得意の作り笑顔をする余裕もない程

彼の顔は焦燥し切っていた

これから恐らく死罪もしくは

その身だけでの国外追放に

なるであろうと皆が予測する

彼の行いを鑑みれば正直なところ

同情の余地は一片も無いのだ

何よりもフランシアに手を挙げた

あの男を、私は一生許す事はないだろう



フランシア誘拐の件からレティシアは

私にフランシアの側を

絶対に離れてはない

と言う命令を下して来た

風呂の時も、トイレで様を足す時も

必ずフランシアの直ぐ側に色との事だ

それはなんと言うか、あまりにも

フランシアに過保護すぎやしませんか?

命令は下されたが、いざとなれば

指輪もあるから、フランシアが

窮屈にならない程度に、

程よい距離感を

保つ事を常に私は心掛けた

しかし、ある時フランシアが

お風呂に入ろうとした時


「…ノエルも一緒に入る?

…なんてね、冗談よ」


と頬を赤く染めて言って来たのは

レティシアの発言に影響された

所為だろうか?

四六時中一緒に居てフランシアは

嫌では無いのだろうか?

そして後日の事である

私はレティシアの命令で

フランシアの通う学園にも離れずに

付き添い一緒に通う事になった

フランシアは喜んでいた様だが

私自身はあまり勉学や学校の

授業言ったものがあまり得意では無い

学園には護衛やメイドを連れている

令息や令嬢は珍しいものでは無い様で

私が目立つことは無かった、むしろ…


「おーっほっほっほっ!!」


視線の先で一際目立つ高笑い

淑やかと言うには程遠いテンションの

令嬢が一人文字通り"飛んできた"

私達の目の前に華麗に着地をすると

何処からか煌びやかな扇子を取り出し

令嬢は格好良いと思っているのだろう

"とても素敵な"ポーズを決めた

何事かと他の学生達の視線を

その令嬢が一身に集めていた


「メルリナ・セウディリム

只今参上なのですわ!!」


周囲の眼差しを一点に集める

メルリナ・セウディリム公爵令嬢

何故か彼女は彼女の

近くにフランシアが居る事がわかると

特にテンションが楽しくなり

おかしくなる令嬢である

フリージア家の姉妹と幼馴染であり

この学園内で唯一レティシアが認めた

フランシアの無二の親友である

激しい情緒ながら、レティシアに憧れ

彼女を目指した結果

学園内でも文武両道の才女である

学園関係者からは落ち着きのない

レティシア・フリージアとも

呼ばれているらしい…そして

フランシアの事を見ると

このテンション…なんと言うか

メルリナはフリージア姉妹の事が

心底大好きなのだろう


「メルリナ様、今日もお元気そうで

何よりです」

「ノエルさんもお元気?

何時もお仕事お疲れ様ですわ」

「メルリナごきげんよう」

「フランシアもごきげんよう」


メルリナの朗らかな笑顔は嫌味が無く

此方まで心が晴れる気分だった

何と言うか、不安や疲れが

一気に吹っ飛びそうな

それぐらいの元気がメルリナにあった


「ところで…フランシア、此処であったが100年目ですわ!」

「…あの…メルリナ…昨日も私達

ここでお会いしてますが…」

「そんな昔の事は覚えていないですわ!

ええ!覚えていないのですわ!」


毎日この調子と勢いである

それでもフランシアはメルリナの事を

嫌がらずに毎日楽しそうに彼女と

一緒に遊んで(?)いるのだった


「フランシア、今日は学園の庭園に

ある物を絵描いて勝負するのですわ」

「…今日は絵ですか?メルリナは

絵を描くのが苦手なのでは…?」

「…フランシア、日々苦手なモノに

挑戦してこそ、あたくしの目指す

完璧と最善を尽くせるのですわ!」


それとコレとは話が違うと思うが…

このメルリナと言う令嬢

毎度会う毎にフランシアに

何かしらの勝負を仕掛ける

その勝負というモノがこう言った

絵を描いたり、文章を書いたり

お菓子を作ったりするのだが

毎度内容がメルリナが不得意で有る

モノだらけで、私は最初こそ

そのメルリナのテンションに

圧倒されたものの最近では

本当はフランシアと気兼ねなく

遊びたいだけなのでは無いかと

心の中で思い始め微笑みながら

毎日、二人の勝負を見守っていた


「審査員は恒例のノエルさんに

お願いするですわ」

「…あ、はい、いつも通りお二人とも

頑張ってくださいね」


それから数刻後…

フランシアとメルリナが

絵を描いたであろう画用紙を持って

戻って来た、二人とも笑顔である


「出来た!最高傑作ですわ!」

「私も出来ました」

「それではどうしましょうか…?

フランシア様から見ていきましょうか?」


メルリナは自信満々の笑顔で答える


「それで構わないですわ」

「ノエル、お願いします」

「では、拝見いたします」


フランシアから手渡された

スケッチブックには大輪の花が描かれていた

花壇に植えられた花々を描いた様だ

繊細なタッチで描かれており

鉛筆の濃淡を上手く活用して

陰影がしっかりと描かれていて

白黒ながら、まるで生きている様だ


「素晴らしい絵です、フランシア様」

「ふふ、ありがとうノエル」

「フランシアは絵が本当に上手ですわ」


メルリナは素直に良い物を褒める

例えそれが勝負事であろうとなかろうと

心の底から言葉が溢れ出していた

根本的に素直な性格なのだろう


「ありがとうメルリナ

次はメルリナの番ね」

「とくとご覧あれ!今回もまた

あたくしの最高傑作ですわ!」

「では、失礼します……こ……

…こ…これは…!?」


私は我が目を疑った

メルリナに手渡されたスケッチ

された画用紙に描かれた

複数の多足を持つ軟体生物?

目と鼻だろうか、それは顔を

持っている様に見えた

何とも形容し難い不思議な生物だが

意図されずにデフォルメされた顔には

何処と無く愛嬌があってそれは

とても可愛らしい不思議な生物であった

私はそこに何が描いてあるの

正直かわからなかった…

それとも、私が知らない生物

メルリナだけが知っている

生物なのだろうか…?

考えて考え抜いた結果私は

予測を付けで答えを捻り出す


「…これは…白い…イカ…

いえ…タコですか!?

とっても可愛いタコですね!?」

「ノエル…学園に海洋生物の

イカもタコも居ないと思いますが…」

「フランシア様…ですが…厨房なら…

いるかも知れません…」

「…ノエル…私もメルリナも庭園で

絵を描いていたのですよ…?」

「…そうですね…」


私は悩みに悩んだ

絵が上手い下手以前に

この微妙に可愛い生物が

一体何なのか悩んだ


「…ふっふっふ…二人とも

悩んでいる様なので正解を

教えて差し上げます

この絵は…"あの子"ですわ!」


メルリナが指で指した方向には

一匹の真っ白な美しい毛並みの猫が

心地良さそうに日光浴をしている

毛並みは艶やかで健康的に見える

にも関わらず首輪は付いて居なかった

誰かの飼い猫では無いらしい


「…タコ…じゃ無くて…ネコ…ですか…」

「ええ、ノエルさん…残念です…

実に惜しかったですわ…」

「…惜しい…え?メルリナ様…

これ何時からクイズになったんですか?」

「!?…そう言えば、

コレはフランシアとの

絵の勝負ですわ!?」


はっと驚くメルリナ、時折

天然の様な天真爛漫さが彼女にはあって

それを包み隠さないのは貴族の中でも

おそらくメルリナだけだろう


「…勝敗は…言うまでもありませんね…

フランシアの勝ちですわ!」

「…あっ…はい…」

「さあ、フランシア!勝者の権利です

今日はあたくしに何をして欲しいですわ?」


毎回、恒例行事の勝負が終わると

敗者が勝者の言う事に付き合うのだが

毎度フランシアが何をするかを考える

時間になって居た

大体、お茶をするか

何かしらのゲームや

勉強にメルリナを

付き合わせるのだが

メルリナはフランシアに

喜んで付いて行く

それはまるで姉妹の様に

私の目には見えた


「私が先程、クッキーを焼いたので

今日はお茶をしながら一緒に食べましょう」

「まあ、それは楽しみですわ!」

「ノエル、お茶の準備をお願いね」

「かしこまりました」


私は微笑みながらお茶の準備に取り掛かった

フランシアとメルリナが焼きたての

クッキーに舌鼓をうちながら

私の淹れた紅茶を楽しんでいる


「フランシアの焼いたクッキーは

当然の様に美味しいですわ!

それにノエルさんの入れた紅茶も

とっても素晴らしいですわ!」

「恐れ入ります、メルリナ様」

「ええ、ありがとうメルリナ」


メルリナの喜ぶ姿を見て

私達二人は微笑みあった

純粋に活気溢れるメルリナを

観察していると、とても楽しい

これで居て文武両道の

才女と言うのだから正直恐れ入る

行動はまるでフランシアの妹であり

お世辞にも同年齢に見えない

ただ、気の知れた幼馴染である

フランシア相手だからこそ

なのだろうか?と私は思う

和気藹々と三人で話していると

凄まじい剣幕で一人の令嬢がやってきた


「そこに居るのはフランシア・

フリージア公爵令嬢だな?」


金髪のショートヘアーで、色白の肌に

左目に泣きぼくろ、鋭く細い目付きの

凛とした女性だが、その表情は明らかに

怒っている様に私は感じた

フランシアは彼女の剣幕に

身に覚えがなく酷く困惑していた

こう言う時にメルリナは

何か騒ぐものかとも

思ったのだが、何も言う事をせず

ただ静かに見守って居た


「貴女は…ヴァレッタ・ライオネル

伯爵令嬢…?私に何か御用ですか?」

「アガサ・ブランドンは知っているな?」

「…ええ、まあ…」


私に紅茶をぶっかけた令嬢である

あの時の火傷の痛みとドレスの恨みは

私の中ではまだ消えて居ない


「フリージア家から帰った後

彼女の様子が酷くおかしいのだ

貴女の家で何かあったのだろう?」

「えっ…えっと…それは…」

「何も言えないのか?それとも

言えない事をしたのか?それならば…

私は友であるアガサの仇を

打たせてもらう!」


ヴァレッタは何処からか

一枚の紙を取り出す

何かの宣伝用紙である

紙には

"学園武闘祭女子の部参加者募集中"

と大きく書かれてあった

紙をテーブルに力強く叩きつけると

テーブルにおかれたティーカップと

ポットがその勢いで波に

揺られた様にグラリと揺れた

フランシアとメルリナに倒れなくて

本当に良かったと私は内心ホッとした


「フランシア・フリージア!そして

その従者!貴女達には私と勝負してもらう

学園武闘祭で決着を付けよう!」

「ですが…私は…」

「問答無用!私は必ず決勝戦で待ってるぞ!…貴女達がくれぐれも逃げない事を

私は祈っているぞ!」


言うだけ言って、ヴァレッタは去って行く

まるで嵐の様な令嬢である

こちらの言い分は全く聞く耳を持たない

少し猪突猛進的な感じがあった


「フランシア様…これは…困りましたね

ブランドンと言えば…あの時の」

「…本当に…困りましたね…それに

ライオネル伯爵家は武勇に優れた家柄です

ノエルならまだしも、私なんかじゃ

足元にも及びません…参加資格は

学生とその従者のみですし

…どうしましょう」


私達が二人で悩んでいると

今の今まで黙って居た

メルリナが静かに口を開いた


「…フランシア、学園武闘祭は家同士の

許可が有れば代理出場も可能ですわ」


メルリナは目を輝かせている

フランシアはその顔に何かを理解した


「…まさか…メルリナ…もしかして…?」

「あたくしがフランシアの代理として

ノエルさんと出場するのですわ!」

「メルリナ様…良いのですか?」

「親友が困っている時には

手を差し伸べるもの当然のことですわ!

早速、レティシアお姉様に許可を

頂戴しに行くのですわ!」


自信満々にメルリナは高らかに

宣言した、恐らく本音は

レティシアに会いたいだけなんじゃ?

と困惑する私とフランシアを他所に

メルリナはとてもワクワク

している様だった

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