ノエルとフランシアと学園武闘祭3

リュオンとの特訓漬けの日々が流れて

ついに、学園祭の日がやって来た

催し物は学園武闘祭以外にも

舞踏祭やらコンサートやら出店やら

本当ならフランシアと一緒に巡って

いたであろう楽しい事が沢山あったのに

学園武闘祭に出なければならない事で

それも叶わない、心の奥底から音叉の様に

悔やむ怨念の様な声が鳴り響いていた

私と共に学園の庭園を歩くフランシアは

自然と視線に入る出店に興味を示す

フランシアは少しソワソワしている


「ノエル…武闘祭まで少し時間があります

私と一緒にお店回ってくれませんか?」

「ええ、喜んで、行きましょう

フランシア様」


武闘祭の時間まで、私はフランシアとの

一時の穏やかな時間を過ごす

出店のお菓子に舌鼓を打ちながら

談笑し、今はただ、フランシアとの

デートを私は他の事を

一切何も考えずに楽しんだ



私達はメルリナと約束した時間に

待ち合わせた武闘祭会場の入場口前に

集まっていた、メルリナはやる気満々だ


「ノエルさん…本日はよろしく

お願い致しますですわ」

「メルリナ様、よろしくお願いします」

「二人とも…怪我をしないでね」


すると、レティシアがヌールを伴って

私達の元に静かに現れた


「お姉様…!」

「…わたくしとヌールは一般観客の席で

観戦します、ノエル、メルリナ

貴女達の活躍…期待していますよ」

「はい、必ず勝利して見せます」

「あたくしもノエルさんに

負けないぐらい頑張るですわ!」


レティシアはフランシアの方を見て

諭す様に穏やかに言う。


「フランシア…貴女は二人の闘いを

その目に焼き付けるのですよ

貴女にはその責任が有るのですから」

「はい、お姉様」

「…それでは、また」


レティシアは言い終えると

ゆっくり会場の中へと入って行く

それに続くメルリナを私は呼び止めた


「メルリナ様」

「ノエルさん、何か?」


私はフランシアに聞こえない様に

メルリナの耳元で小声で話す


「実は…」

「…ノエルは、それで良いのですわ?」

「はい、よろしくお願いします」

「ええ、わかりましたですわ

あたくしにおまかせですわ!」


メルリナは私の提案に

笑顔で了承してくれた

フランシアとひとまず別れ

私とメルリナは更衣室で

武闘祭運営委員が用意してくれた

訓練用の動き易い修練服に着替えて

戦いの場へと臨む



「フリージア公爵家代理、メルリナ・セウディリム公爵令嬢様と従者のノエルさん、間も無く試合です、試合会場へお急ぎ下さい」

「わかりましたですわ!」


メルリナは強くキラキラと輝く視線で

私を見た、彼女の視線に微笑み頷く


「ノエルさん、行きますですわ」

「はい、メルリナ様

勝ちに行きましょう!」


「それでは、次の試合はフリージア公爵令嬢代理対カルマッセ子爵令嬢となります!」


試合会場に訪れた私達は

カルマッセ子爵令嬢と対峙する

観客席は満席で盛大な歓声が響く

私はすぐにレティシア様の姿を探すと

オペラグラス使ってヌールと試合を

観戦するレティシアの姿を見つけた

フランシアは特別席で試合会場に

より近い席での観戦をしている

相変わらずとても不安そうな表情だ

私が木剣を手に構えるとメルリナは

静かに歩き出す、先程打ち合わせした通りだ


「それでは…あたくしはと…」


メルリナは武闘場の隅の方まで歩き出す

折り畳みの椅子を取り出して

武闘場の隅っこに座った

観戦する体制である

観客達はざわめき声が上がる


「…なに…?」

「我々を舐めているのか…?」


カルマッセ子爵令嬢とその従者は

血相を変え目に怒りの色が見える


「一人で私達を相手にすると…?

良いだろう、その思い上がりを

叩き折ってやる!」

「ノエルさん頑張るのですわ~」


何処からか派手に装飾された

扇子を両手に取り出して

ひらひらと動かすと、装飾が輝いて

少し綺麗に思えた、とても派手だが。

カルマッセ子爵令嬢と従者は

私に木剣の切先を向ける

まさに怒り憤慨していると言う凄い顔だ


「まあ良い、セウディリム公爵令嬢は

お前を倒した後だ!」

「…お手柔らかに…」


私は静かに木剣を握る、リュオンとの

特訓で使う模擬剣や真剣よりは軽いが

しっかりと手入れされていて、馴染む

昂る心を落ち着けて、静かに目を瞑る

足には石畳の感触、手には木剣の感触

ただ黙って試合開始の合図をまった


「試合開始!!」


私は目を見開いた、全てが止まって

見える様な、そんな感覚を覚えた。



蓋を開けてみれば、私達は順調に

勝ち進んでいた

相変わらずメルリナを

武闘場の隅で見学させ

私一人で二人を相手にしていたが

この戦いでの彼女達は正直言うと

リュオンの足元にも及ばない…

と言うより、リュオンの実力が

異常なのだろう、そして

そんなリュオンも認めるメルリナ

彼女の力を借りず、私がどこまで行けるか

そう言った好奇心も少しあった

初戦こそフランシアは不安そうに

私達を見ていたのだが

現在では歓声を上げて近くで

私を応援してくれている

何よりフランシアの応援の声を聞くと

力が無尽蔵に湧き出る気がした

私は彼女の為に必ず勝つ、そう思った。



遂に決勝戦へと上り詰めた私とメルリナ


「まさか、本当にここまで来るとは…

私達を楽しませてくれそうじゃないか?

なあ、ライラ」

「ええ、ヴァレッタお嬢様、本当に

楽しみですね」


二人はニヤニヤと笑いながら私達を見ている

その笑顔をコレからどうやって

歪ませてやろうか、私は闘志を燃やす

私とヴァレッタ、メルリナとライラ

互いに対峙し剣を構え、その時を待つ

この戦いで、初めてメルリナが剣を抜く

両手に木剣を握るメルリナは

二刀の使い手らしい

私達はただ無言で目の前の相手と見合う


「…決勝戦…試合開始!」


合図と共に私とヴァレッタの剣が

激しい音を立ててぶつかり合い

互いに譲れぬ鍔迫り合いが始まった


「ヴァレッタお嬢様!加勢いたします!」 

「おっと、それはいけませんですわ」


試合開始後、メルリナから

すぐに視線を外しヴァレッタの元へ

向かおうとし駆け出すライラ

それを見逃す事なく遮るメルリナ

微笑む表情の中にライラを見据える

強い決意を持った視線があった


「…貴女はあたくしと此処でノエルさん

達の一騎打ちを見学するのですわ」

「何を馬鹿な事を…!」


ライラは木剣を鋭く突き出すも

メルリナの高速で放つ目視できない

剣風に阻まれる、弾かれた衝撃で

ライラの右手が小刻みに震えていた

剣速も凄まじいが何より剣圧が

怪物である。メルリナの実力は

恐らくヴァレッタ以上ではないかと

ライラは本能で理解していた


「…どちらにせよ、あたくしを

倒さない限り、貴女がヴァレッタの

元へ向かう事は不可能!

ケガをしたくなければ大人しく

している事ですわ」

「…ふざけるなぁっ!!」


ライラは剣を構えてメルリナに仕掛けるも

メルリナの両の剣から繰り出される

乱れ打ちを捌くのに手一杯で

前へと一切進むことが出来ない

高速で打ち出されるメルリナの防御の剣は

まさに難攻不落の"剣の壁"であった


(…ふざけた物言いで侮っていたが

メルリナ・セウディウム…

まさか…此処までの使い手とは

レティシア・フリージアは

これ以上だと言うのか…!?)


ライラの頬を冷や汗が伝う

自身の力ではメルリナを突破する術を

一切持ち合わせていなかったからだ


「…早々に諦めて下さると

あたくしもノエルさんの一騎打ちを

ゆっくり、観戦出来るのですが…

その顔は諦める気が無いようですわ…」

「当たり前だ!ヴァレッタお嬢様が

諦める前に従者が諦めてなるものか!」

「…ヴァレッタは良き臣をお持ちですわ」


メルリナは軽く笑い、ライラに剣を構える

微笑を浮かべるもののメルリナの視線は

鋭く、ビリビリと空気が張り詰めていた


「…ですが、あたくしも友と

約束しているので絶対に

貴女を通しません、まあ、好きなだけ

気が済むまで、挑戦すると良いですわ」

「ぐっ…!」


ライラは再度突撃するも

メルリナの攻防一体の剣の壁に弾かれた

技がどうとかそう言った話では無い

メルリナとライラの力の歴然とした差を

まざまざと見せられて、ライラは焦っていた

そして理解した、ヴァレッタと束になっても

メルリナには勝てないだろうと



ノエルとヴァレッタの勝負は

あまりにもあっけなく

唐突に一瞬で決着が付いた

一瞬のフェイントの後

ノエルの横薙ぎの一撃が

ヴァレッタの木剣を綺麗に

一直線に斬り落としたのだ

木剣を斬り落とし、地に落ちた瞬間

会場は盛大な歓声に包まれた

起こった出来事を理解出来ないヴァレッタ

その表情を見てノエルは不敵に笑う


「…なん…だと…?」

「私達の勝ちだ!」


ノエルの突き出す木剣の剣先を

青ざめた表情で見つめ

呆然とするヴァレッタ


「…こんな…この様な事で…!」

「思った通り納得いってない表情ですね

いいでしょう」


私はヴァレッタから一度離れ

審判の男性に耳打ちをすると

男は一度その場を離れた

私は再度ヴァレッタの目の前まで行き

怒りに燃える彼女の目を見て言う


「ヴァレッタ・ライオネル伯爵令嬢

私は貴女に再度、一騎打ちを申し込む!」

「なんだと…?」

「貴女にもう一度チャンスを与える

搦手は無しだ、全力で相手になろう!」

「その言葉…必ず…公開させて…やる!!」


審判から新しい木剣を受け取った

ヴァレッタの右手は怒りで震えていた

彼女にとって最大の屈辱だろう


「さて、あたくしの出番はここまでですわ

ほら、貴女も早く下がりなさい」

「…くっ…」


メルリナは足早に試合会場を降りて

フランシアの方へと駆けて行った

一方のライラはヴァレッタに

何か謝罪な様な事を行なっていたが

ヴァレッタは首を横に振り

ライラに微笑みかけて頷いた

するとライラは涙を流しながら

その場を後にし、試合会場から降りた

一間の休憩の後、私とヴァレッタの

一騎打ちが始まる


(さあ、ノエル…此処からが本番だ!)


気持ちを切り替え剣を構える

高鳴る心臓を抑えて

対峙するヴァレッタを見据える


「それでは…試合始め!!」


私は石畳を全力で蹴り上げ駆け出した



互いの木剣が弾かれると

まるで打楽器の様に

軽快なハーモニーが奏でられた

ある程度硬い木で作られている為

身体を捉えられたならば

ひとたまりもないだろう

何よりヴァレッタの剣圧は凄まじく

何度も受けている訳には行かない位

木剣にダメージが蓄積されて行く

ヴァレッタの練り上げられた剣は

努力と才能、そして鍛錬の時間

全てが備わって積み上げられたものだ

本人の根気が無ければここ迄のものには

ならなかったであろう、そう思った

何よりも剣筋が愚直な迄に素直で、まるで

ヴァレッタと言う人物を表している様だった

故に、実力差の有るフランシアを

戦いに引き摺り出そうとする思考が

私には理解できなかった

憂さ晴らし?フリージアに対する威圧?

それとも全く別の何かなのか?

そもそももっと本当に単純な事なのか?

剣を交えながらヴァレッタの行動の

不可思議さが頭の中を過ぎる


「考え事とは…随分と余裕そうじゃないか!」

「…ヴァレッタ様の剣筋はとても素直なので、受けるのは楽ですよ」

「言うじゃないか!!」


憎まれ口を叩いて、ヴァレッタの攻撃を

受け流す、ボロボロになった木剣も

間も無く限界だろうか、この辺りで

そろそろ勝負を決めるしかない

私は一度ヴァレッタと距離を取った


「…次の一撃、私の全力をぶつけます

覚悟して下さいね」

「面白い事を言うじゃないか…

是非受けてたとう!」


互いに体勢を整え剣を構えた

ヴァレッタは上段に振りかぶる

私が飛び込んだ瞬間に合わせて

撃ち落とそうと考えている様だ

あえて、その考えに真正面から挑もう


「…では行きますよ」

「来い!」


私はヴァレッタとの距離を音も無く

一瞬で詰めた、その瞬間

私の周囲から音が消え、時間が止まる

まるで、全ての物事が切り取った絵の様に

停止して見えた、その場で動いているのは

唯一私だけの様な感覚を覚えた


「なっ!?」


その目にも止まらぬ速度に驚いたのか

ヴァレッタは木剣を振り下ろす

木剣を翻し一気に振り上げると

激しい衝撃音と共にヴァレッタの木剣が

後方の彼方へと飛ばされて行った

少しの静寂の後、石床に落ちる木剣の音が

響き渡り、私の勝利を伝えてくれた

盛大な歓声が巻き起こる


「…そんな…ヴァレッタお嬢様…」

「…これで…決着ですわ」

「ノエル…!凄い!凄いわノエル!!」


嬉しさと喜びと悲しみと悔しさ

色んな感情が渦巻く歓声の中で

完敗を喫したヴァレッタはその場に跪く

私はただ黙ってその姿を見つめていた

するとメルリナが試合会場に登り

いきなりヴァレッタに問いただした


「ヴァレッタ、貴女は何故フランシアを

闘いの場に引き摺り出そうとしたの?

フランシアに勝って貴女は嬉しいの?」

「…それは…アガサの仇を打とうと…」

「…何故?ブランドン家とフリージア家の

問題ならば当家同士、アガサとフランシアの

問題ならば当人同士で話し合いなり

なんなりで決着を着けるべきですわ!

そうは思わない?」


メルリナの強い口調に押され気味の

ヴァレッタ、私との戦いに負けたのもあって

完全にメルリナに圧倒されている

まるでこの状況をメルリナが

望んでいた様に私は思いはじめていた


「そ…それは…」

「そもそもヴァレッタは根本的に

勘違いをしているのですわ

それをこれからこの場で

はっきりとさせるのですわ!!」


メルリナはフランシアとアガサに

目配せし高らかに叫ぶ

今迄私とヴァレッタが戦っていた事など

忘れてしまいそうなぐらい唐突だ


「フランシア!アガサ!あたくし

メルリナはセウディリム公爵家として

宣言します、貴女達の確執を

取り除く為、また、今後の憂いを

残さない為今すぐに

二人で一騎討ちをしなさい!」

「なに!?メルリナ、一体何を…」

「…敗者はお黙りなさい、ヴァレッタ

事の解決は当人同士に委ねるべきですわ!」

「ぐっ…!うぅ…!」


唸るヴァレッタはメルリナに

何も言い返せずそのまま黙った

場は騒然となる、セウディリムの

公爵令嬢がまた問題行動を起こしたとか

有る事無い事、色々なヤジが飛ぶ

私はフランシアの元へ向かい

先程まで使っていた木剣を手渡す

審判は慌てふためいているが

メルリナに何かを言われて

その場に止まる様だった


「…いけますね?…フランシア様」

「ええ、でも…ノエル、貴女の勇気を

少しだけ分けて頂戴」

「…大丈夫…フランシア様なら

全て上手く行きますよ」


私は両手でフランシアの掌を優しく包んで

自分の額でフランシアの額に触れた

フランシアは目を瞑って

高揚する精神を落ち着かせる


「ノエル…ありがとう、私も持てる力で

最善を尽くすわ」


次に目を開いた時のフランシアは

決戦に向かう戦士の様相であった

一方、ヴァレッタに話しかけられ

木剣を手渡されたアガサは暗い表情であった

彼女は何を思っているのだろうか?

武闘場で木剣を構え

対峙するフランシアとアガサ

強い決意を秘めた眼差しのフランシア

弱々しく暗い表情で目が泳ぐアガサ

まるで対照的な印象の二人

はっきりと明暗を分けていて

勝負の結果は安易に予想できた

しかし、時間がないからと言って

令嬢二人はドレス姿で試合会場に

上がらされていた、メルリナも

いささか強引だなぁと私の頬に

少々の汗が流れる


「試合始めっ!!」


審判が叫ぶ、フランシアは木剣を上段に

手早く振りかぶり、即座に振り下ろす

木剣が描く軌跡の中で木剣は微かに

魔力の輝きを放ちアガサに襲い掛かる

これで仮にアガサが防いだとしても

木剣は破壊されて、フランシアの勝ちである

…私はそう確信した、しかし

アガサは私の予想とは違った行動に出た

構えていた木剣を静かに下ろしたのだ


「アガサ!何をしているの!防御しなさいっ!そのままでは…!!」


叫ぶヴァレッタ、その言葉をアガサは

聞かず、震えながら目をゆっくり瞑る

まるでフランシアの剣をそのまま

受けるとでも言うようにアガサは

真に無防備であった


「アガサッ!!!」

「ッ!!!」


フランシアの木剣がアガサの頭部を

捉える直前、ピタリと止まった

木剣は魔力の輝きを失っていた


「…何故、止めたのです…」

「何故とは私のセリフです、ブランドン

伯爵令嬢…何故剣を下ろしたのですか?」


アガサは持っていた剣を落として

その場に跪く、頬からは涙が流れていた


「私は貴女に…刃を向ける資格は…

…有りません」

「…」


フランシアもそのまま剣を下ろし

アガサの姿をじっと見ていた


「私は、貴女に、とても酷いことをしました、知らなかったとはいえ、貴女のお母様の、それも形見のドレスを汚し、従者の

女性に怪我まで負わせてしまいました」


アガサはそのまま、床に手を付き

観衆達の面前で首を垂れる


「ごめんなさい、私の行いは決して

謝って許させる事では無いけれど

私は貴女にどうやって謝れば良いのか

ずっとずっと、今まで考えていたの…

本当にごめんなさい…」

「それが、貴女の本音ですか?

ブランドン伯爵令嬢」

「はい…ヴァレッタにも言い出せなくて

彼女を誤解させ、メルリナにも相談して

結局、皆んなを巻き込んでこの様な形でしか

貴女に謝れなくて、弱くて情け無い私で

本当に…本当にごめんなさい…」


フランシアは木剣を置き

ドレスが汚れる事も厭わず

その場に跪いてアガサを包む様に抱擁する

まるで泣いてる我が子をあやすかの様に

その姿はまるで慈悲深い聖母の様でもあった


「…アガサ…もう良いのです…全て…

…全てメルリナから聞きましたから…」

「…フラン…シア…」


涙でぐしゃぐしゃになった顔のアガサを

微笑み抱きしめるフランシア


「…アガサ…貴女が辛い時には私達を

頼って良いの…決して一人で抱え込む

必要なんて何処にも無いのよ」


フランシアはアガサを立ち上がらせ

武闘場を後にした、二人に付き添う様に

メルリナとヴァレッタが付いていく

勝敗の結果も有耶無耶になって

騒然とした特別試合となってしまったが

結果としては良かったのでは無いかと

私は考える、しかし、全てがメルリナの

手の中で動いていた様に考えると

やはり彼女は末恐ろしい存在であると思う

少なくとも、メルリナが敵で無くて良かった

事後処理を行う武闘祭運営の人間達が

忙しなく行ったり来たりしていた

私は観客席をゆっくりと見上げて

おそらくフランシアを

見守っていたであろう

静かに座るレティシアを見ると

彼女は私に向かって微笑み頷いた

私もそれに呼応し静かに頷く

レティシアのその表情には

「良くやりました」といった

満足気な表情だった様に私は感じた

レティシアのその表情が

私にはとても誇らしく思えた

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