第36話

 すみません、完全に妖怪をナメてました…。まさか毎日昼夜問わず、これでもかって程大勢の妖怪達が全国からやって来るとは…。恐るべし妖怪達‼︎

 あぶジィに記帳係をしてもらい一反木綿にはスケジュール表と整理券を配ってもらって、走り回っても対応しても仕切れない。

 世にも珍しい百鬼夜行を見ながら、

《幻想的で、すごく綺麗だなぁ…》

と見惚れていられたのは最初だけ…。

 やって来る妖怪達の数は日ごとに増えていき、とても三人だけでは無理なので猫の手を借りるよりも暇そうにしている妖怪に手伝ってもらおうという事になった。

 塗壁と白坊主、川男、豆腐小僧、三吉鬼を新たに助っ人に加えたがそれでもギリギリなのだった。

 休日返上で早朝から深夜までの大宴会に毎日忙しいったらありゃしない!皆んな私をお祝いをしに来てるので無下にはできないし何しろ様々なプレゼントを抱えきれない位貰っているのだ。貰う度に「ありがとう」とお礼を言って回る。

 しかし時間に捉われない妖怪達は、まだ日の出ていない真っ暗な早朝からやって来て日付が変わるまでずっと宴会し続ける。海に駐車場と家を寒空の下何往復もして、睡眠時間を削って私はできるだけ顔を出すようにしていた。

 十二月になっても、途切れることのないお祝いという名の宴会…。

《これだけの妖怪、普段全国のどこに潜んでるのよ

⁉︎どうしよう、果てしなくて終わりが全く見えないわ…》

 毎日妖怪達の宴会に付き合い、仕事をこなしていた私は過労と寝不足、寒空の下走り回った為に肺炎になりかける程酷いインフルエンザに罹りとうとう倒れてしまった。

 その事に激怒したのが山ばあちゃん。

「このバカ共がー‼︎お前達のせいで楓子が病気で倒

 れちまったじゃないか!物事には限度ってモンが

 あるだろ。朝早くから夜中まて楓子を付き合わせ

 よってからに。もう宴会は終わりだ!二度とここ

 で宴会するんじゃないよ!さもなくば…分かった

 なら今すぐ帰りな‼︎」

と出刃包丁を振り回し、宴会をしていた妖怪達全員をボコボコにした…らしい。

 後に三吉鬼はこう語った。

「おっかなかっただ。般若の顔して、包丁を振り回

 してただ。殺されるかと思っただよ。」

 その日のうちに妖怪達がやって来て宴会をする事はピタリとなくなった。そして山ばあちゃんとあぶジィの献身的な完全看護が始まった。

 熱でうなされる私の横に何と自分の布団を敷いて

夜中何度も私の額に冷たいタオルを乗せ氷枕を作ってくれるあぶジィに、通いで身の回りの世話をしてくれる山ばあちゃん。

 ありがたいと思いながらも私の高熱は一向に下がらなかった。

「小豆さんとおはぎを作るって約束したのに、本当

 にごめんね。」

と解熱効果のある薬草をわざわざ持って来てくれた小豆さんに熱にうかされながらも謝る。

「おはぎはいつでも作れる。楓子、早く治ると良い

 ね。」

小豆さんはとても心配してくれた。

 寝込んでいる間、驚きの事実が判明した。どうやらウチに来るとばぁちゃんも妖怪達と会えるのだ。

 その為私を心配してウチに来たばぁちゃんと山ばあちゃんは感動の初対面を果たした。

 その事実が分かり、私はばぁちゃんに小豆さんとの約束の話をして「どうか私の代わりに小豆さんとの約束を守って欲しい」と必死の思いで約束を託した。ばぁちゃんは笑って「任せとけ」と快諾してくれ、俄然張り切る。

 小豆さんの持って来た大納言小豆を見て、

「これば本当に使ってよかとね?もったいなかよ」

「楓子と宝物、半分こしたから良い。使って。」

「ほんなら、うまか赤飯とおはぎば作ろうかねぇ」

せことキジムナーのチビッコ達も加わって、まず赤飯を作った。出来立ての赤飯を食べて小豆さんは、

「楓子のばぁちゃん、赤飯作るの上手だ。」

大満足して、最高の可愛い笑顔を見せてくれる。その笑顔にばぁちゃんもすごく嬉しそうに笑っていた

「いつでも作ってやるばい。こん次はおはぎば作る

 とすっかね。何のおはぎがよかと?」

「粒あんとこしあんのやつ。」

「きな粉もだぴょん」「きな粉大好きだぽん」

「ほんなら、小豆洗いはこしあんのあんこば作りな

 っせ。」

 皆んなでキャッキャッと楽しそうにおはぎを作る様子に、医者から絶対安静と言われている私は寝ているしかできないのが寂しい。仲間に入れて欲しいと思うのだが、高熱が下がらない私は動くことができなかった。それに山ばあちゃんに「大人しく寝ときな!油すまし、しっかり楓子を看ときなよ」と言われたあぶジィがずっと側にいてくれる。

《う〜辛いよぉ。頭痛も酷いし身体中が痛い〜!仲間に入れて欲しいのに…》

 おはぎを食べた小豆さんは、ばぁちゃんに

「おはぎもとても美味しい。また作ろう。」

「おう、まだまだ小豆はあるけん赤飯もおはぎもい

 っぱい作れるばい。小豆洗い、残っとる赤飯とお

 はぎば持って帰りなっせ。」

「良いの?」

「良かよ。小豆洗いの為に作ったとやもん。楓子と

 の約束ば代わりに守ったけんね。そいに楓子が小

 豆洗いが持って帰れるようにしてくれって言いよ

 ったばい。お土産に持って帰りなっせ。」

「うわ〜い!ありがとう‼︎今度は楓子も一緒に作ろ

 う。」

「フウも一緒に作ろうぴょん。フウとも一緒に作り

 たいぴょん。」

「フウも一緒に作ったらもっと楽しいぽん。」

「そうやねぇ。今度は楓子も一緒に作ろうかねぇ。

 あん娘も皆んなと作りたがっとったけん。」

ばぁちゃんと小豆さん、せことキジムナーのチビ達から「今度は一緒に作りたいから早く治ってね」と優しく励まされ、嬉しくて泣きそうになった。

 長いこと熱が下がらず、熱が下がったと思ったら次は激しい咳に襲われ何とか仕事復帰できるようになったのは、年が明けてからだった。まだ本調子じゃないけれど館長も谷口さんも木本さんもずっと心配してくれていたので、感謝の言葉を述べる。


 こうしてまた元気になって毎日ウチにはあぶジィが居て、たくさんの妖怪達と一緒になって笑ったりケンカしたりする私の日常を送っている。そんな日常がとても幸せだと思いながら。

 全国の妖怪達がお祝いしにわんさか来る日々や寝込んでいる間に色々な事がありました。こっぱもちを作る為にチビ達と一緒に皮を剥いたさつまいもを蒸した直後、何人かの妖怪が全部食べてしまいこっぱもちが疲れなくなった事。よっぽど食べたかったのかあぶジィが拗ねて、何日も食べた妖怪達と口も聞かず顔も合わせないという意外な一面に驚きましたが、もっと驚いたのはあぶジィが洗濯機を使って洗濯をしている姿を見た事です。

 私はあぶジィという新しい家族ができ、毎日たくさんの妖怪達に囲まれて今とても幸せですよ。皆んなの事をたくさんお話したいのですが、いつか機会があれば詳しくお話したいと思います。そう、いつかの機会にでも…。

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