第35話

 そう思いながらテーブルの上を片付けていると、他の妖怪達が次々に自分へのプレゼントをせがんできた。

それを見た私は一言。

「もう無いよ。」

{はぁー⁉︎}

 プレゼントの順番待ちをしていた妖怪達からブーイングの嵐が…。

「あのねぇ妖怪達全員にプレゼント買ってたら私、

 あっという間に破産しちゃうじゃない!第一私は

 妖怪を区別しないけれど、えこ贔屓はする人間で

 す‼︎」

「うわっこの娘、気持ち良い位ハッキリ言い切っち

 ゃったわ…。」

雲外さんは一気に凍り付き、他の妖怪達を見渡す。

すると倉ぼっこが大笑いしながら、

「こんなにハッキリ言われると、何故か逆に清々し

 いぞよ。楓子らしいぞよ。」

そう言って倉ぼっこが大笑いしていると何故か他の妖怪達も大笑いし始めて、しばらく皆んなで大笑い

していた。

「あのさ、全く何もプレゼントしない訳じゃないん

 だよ。ちょっと待ってて。」

また押し入れの奥から中ぐらいのスライド式食器棚を引っ張り出した。

《キャスター付いてて良かったぁ》

そこそこ重い食器棚の扉を開けて、妖怪達に言い聞かせる。

「これは皆んなの食器棚だよ。中にはマグカップや

 湯呑み、コップが入っているから自分の好きな物

 を選んで。選んだ物が自分専用にならからね。」

そう聞いた途端食器棚に集まり、自分専用のマグカップや湯飲み、コップをあれでもない、これでもないと真剣に選び始めた。

《私、百円ショップで万札を出すとは思ってもみなかったわ…》

「チビ達のは落としても割れないプラスチックのコ

 ップにしたからね。山ばあちゃんとあぶジィはも

 う専用のがあるから良いとして、小豆さんはどう

 する?」

「飲みやすいから、今持ってる湯呑みで良い》

《まぁ何て謙虚なんでしょう!目の前の妖怪達は取り合いしてるというのに…。アンタ達、小豆さんを見習いなさいよ!》

「多分数が足りないと思うから、その分は後日買っ

 てくるから心配いらないよ。後ケンカしない事。

 ケンカしたら没収するからね。」

 一番最初にコレが良いと決めたのは、少し大きめのマグカップを持った鵺だった。それから次々に決めていき、ほぼ全員が決めたところで、

「他の妖怪のと間違えないように、それぞれの底に

 油性ペンで自分の名前を書く事。分からなかった

 り書けない者は山ばあちゃんとあぶジィに教えて

 もらいながらちゃんと自分で書くんだよ。」

「ねぇ楓子、この湯呑みにも自分で名前を書きたい

 から教えて。」

小豆さんのお願いにキュンとしながら、油性ペンで紙に「あずき」と「小豆」の二つを書いた。

「小豆さんは、どっちが良い?」

「えーっとね、こっちが良い。」

と「小豆」の方を選んだ。ペンを渡すと、小豆さんは一生懸命見本を見ながら書いている。

《うー何とまぁ可愛いんだ小豆さん!小豆さんも私の家族になって欲しい‼︎》

「出来た!楓子、これで良い?」

「上手に書けたね。大丈夫、合ってるよ。これでこ

 の湯呑みは小豆さん専用になったね。」

照れ笑いする小豆さんを見て

《一つ一つの仕草や表情だけでキュンとなるわ。もう小豆さんったら可愛すぎるよ》

小豆さんとほんわかな会話をしているが周りでは悪戦苦闘しているらしく、山ばあちゃんとあぶジィがあちこち動き回りながら教えている。

 しばらくすると、ほらっと妖怪達が思い思いに書いた名前を見せに来た。川男はやっぱり透明なコップで「川1、川2」と書いてある。

《どっちが1でどっちが2なの⁉︎何かの暗号みたい》

他はというと、チビ達のは「せ」が逆だったり「キジム」だったりと可愛らしかった。河童がもの凄く達筆だったのには驚いたけど…。

 自分専用のマグカップや湯呑みができて、妖怪達は嬉しそうに食器棚に戻していく。

「足りない分はちゃんと買ってくるし好きなお茶と

 かも用意しとくから、次からは自分の分は自分で

 入れて後片付けもするんだよ。分かった?」

「ハーイ」と元気な声で妖怪達は返事をし、ふぅと安心の溜め息を吐いていると雲外さんが、

「ちょっとあんた!何のんびりしてるのよ‼︎これで

 終わりと思っちゃダメ。なんせ油すましが井戸の

 神に聞いた事、全国の妖怪達に言い回ったんだか

 ら、明日から今日以上にたくさんの妖怪達が来る

 から覚悟しときなさい。」

妖怪達だけでなく、お稲荷さん達まで頷いている。

「ワシらは別に妖怪代表で来た訳じゃ無いだす。他

 の妖怪達も祝う気満々だす。明日からずっと大宴

 会続きだす。ちゃんと精力つけとかにゃ妖怪の宴

 会は人間と違うだす。とんでもないだすよ。」

「まさに祭りそのものだがね。遠慮もしなけりゃ加

 減もせんだがね。思い切りドンチャン騒ぎをする

 だがね。妖怪は宴会が大好きだがね。今日の何倍

 以上の妖怪達が毎日来るだがね。覚悟しとった方

 がええだがね。」

「あはは、いくら全国の妖怪だとしても私の事知ら

 ない妖怪の方がたくさんいるからそんなに大袈裟

 にはならないでしょう。」

「バカだねぇ、あんたの事知らない妖怪なんざいな

 いよ。妖怪の中で今一番の有名人なんだから。あ

 んたに会いたがってる妖怪も数え切れない程多い

 しこの家だって観光名所みたいになってんだ。妖

 怪をナメちゃいけないよ!」

「はい?何故私の知らない所でそんな事になってる

 の⁉︎有名人に観光名所って…。」

「全部油すましが言いふらしたからよ。今まで来た

 がってた妖怪達が、ここぞとばかりに押し掛けて

 来るでしょうね。」

「…例えば?」

「輪入道やら火車と…」

「あの、輪入道って何?何の妖怪?」

「火の点いた輪っかの妖怪で、火車も似たようなモ

 ンね。」

「火の点いた輪っか⁉︎ダメ!ダメ!ダメ!ウチが燃

 えちゃうじゃん‼︎特に古いんだから、よく燃えて

 全焼しちゃう。焼け出されたらどこに住むのよ?

 火の妖怪全員却下。」

「フウ、海坊主と舟幽霊も行ってみたいって言って

 たぽん。」

「海坊主と舟幽霊もわざわざ海ブドウを探してくれ

 たから、きちんとありがとうを言いたい。でも家

 の中には入れないからウチから近い海に来てもら

 おう。幸いウチは一分もかからず海に行ける。そ

 こまで来てくれたら、私の方から行くよ。後、で

 っかくて重い妖怪だと床が簡単に抜けちゃうから

 ウチの隣の駐車場に集まってもらう。うん、そう

 しよう。」

《こりゃ、明日から忙しくなるぞ〜!》

「どんな妖怪が来るか想像も出来ないし名前も知ら

 ない妖怪もたくさんいるから、あぶジィとふんど

 し妖怪はしっかり働いて手伝いなさいよ。分かっ

 たわね。」

 時計を見ると、十一時をとっくに過ぎている。

「うわっ、もうこんな時間だ!チビ達は急いで帰り

 な。今日はありがとう。河童、冷蔵庫の中の漬け

 物を忘れちゃダメだよ。鵺、まだ一目入道の足下

 がふらついているから肩を貸してあげて。山ばあ

 ちゃん、小豆さん二人のおかげで後片付けがあっ

 という間に済んじゃった。ありがとうね。雲外さ

 ん、最高のプレゼント本当にありがとう。絡新婦

 さん、今度梅酒の作り方をばぁちゃんに聞いて教

 えるから。皆んな、本当にありがとう。気を付け

 て帰ってね。」

そう言いながら、皆んなを見送った。


 急にシーンとなった部屋。でももう寂しいシーンとした部屋じゃない。

「やっと、ゆっくりできるぅ〜。楽しかったけとや

 っぱり疲れるなぁ。あぶジィお茶でも飲もうか」

あぶジィが頷くと、台所へ行き入れ立ての玄米茶をお盆に乗せて運んできた。熱いから気を付けてと湯呑みを手渡し、隣に座る。

「ふふ、こういう風にあぶジィと並んでお茶飲むの

 って久しぶりだね。」

「すまん、こんなに大事になるとは思わなんだ。」

「あはは、もういいよ。言っちゃったものは仕方な

 いもん。それにあぶジィは、私を喜ばせる為にや

 ってくれたんだから嬉しいんだ。皆んなの楽しそ

 うな顔もまた見れたしね。」

「楓子…。」

「ただし、明日から来る大勢の妖怪達への名前書き

 とかしっかり頼んだよ。あの金魚のフンのふんど

 し妖怪はあぶジィの言う事なら聞くから二人で協

 力し合って私を助けてね。」

「分かった。」

「さて、寝ましょうか。っとそうだあぶジィさぁ、

 明日カップ酒買ってくるから井戸の神様にありが

 とうって伝えて渡してくれる?いっぱい色々な事

 教えてもらったんでしょう。私も思いがけずたく

 さんのプレゼント貰っちゃったから、ちゃんとお

 礼しないと。カップ酒で申し訳ないんだけど、何

 も無いよりは良いかと思って。それに…なんたっ

 てあぶジィの大切な友達なんだもん。それこそき

 ちんと『ありがとう』って言わなきゃ!私も直接

 お礼を言いたいんだけど、長野まではちょっと…

。だからまた一反木綿に乗って神様に会いに行き

 なよ。その時はよろしくとも伝えてね。」

「良いのか?」

「えっ、何が?」

「井戸の神にまた会いに行っても良いのか?」

「良いに決まってるじゃん。ついでに久しぶりに会

 だたんだろうから、ニ、三日泊まって遊んでくる

 と良いよ。積もる話もたくさんあるだろうし。」

「でも、またワシが家におらなんだら楓子は寂しく

 て泣くんじゃないか?」

「もう寂しくて泣いたりしないよ。」

「本当か?」

「だって必ず帰って来てくれるんでしょう?それに

 あぶジィは私の新しい家族だもん。ずっと側に居

 てくれるって言ってくれた。だからもう寂しくな

 いよ。信じてるから私は大丈夫!」

そっとあぶジィの両手を握ってにっこり笑うと、あぶジィも握り返してくれた。

「あぶジィの布団、天気が良い日は干してたからふ

 かふかで気持ち良いよ。」

「ありがとう。」

「どういた…ってマフラーしたまま寝るの⁉︎」

「ワシの大事な宝物だ。」

「いやいや、宝物って言ってもらえるのは嬉しいん

 だけど、寝る時位は外した方が良くない?寝苦し

 いと思うよ。」

「このまま寝る。」

「あぁ…そう、あぶジィが良いなら…。」

少し心配しつつ苦笑しながら、あぶジィの布団を敷いて「おやすみなさい」と言って自分の部屋に戻り私も布団に潜り込んだ。

《やっぱり、あぶジィも寝るんだなぁ…》



































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