第34話

「あーしんどかったぁ。もうこんな疲れる事二度と

 しないわ。ねぇ、どうだった?ちゃんと話せたか

 しら?」

私は無言で雲外さんに抱きつき、ボロボロと涙を流す。

「雲外さん…」

「ビックリしたでしょ!これがあたしからあんたへ

 のプレゼントよ。気に入ってくれた?」

「雲外さん、こんなに最高のプレゼントありがとう

 ‼︎もう二度と会えないと思ってた家族に会えるな

 んて思いもしなかった。会えたよ。話せたよ。み

 んな雲外さんのおかげ…。本当に本当にありがと

 う‼︎」

そしてもう一度雲外さんを抱きしめた。

「あんたが喜んだら嬉しかったりしてくれたなら、

 あたしはそれで良いのよ。ただし、泣かずに笑い

 なさい。」

「まさに楓子の親って感じだったでごんす。」

「楓子と一緒で、ワシらの事全然気にしとらんかっ

 たぞよ。…というより楓子の友達で、妖怪だとは

 思っとらんぞよ。まさしく楓子の親だぞよ。」

妖怪達全員が納得して、頷いている。


 雲外さんのサプライズプレゼントがとても嬉しくてしばらく泣いていたけれど、また洗面台で涙でぐしょぐしょの顔をバシャバシャ洗う。少しの時間でどれだけ泣いてここで顔を洗っただろう。

《父さんや母さん、遼ちゃんのお葬式でもほとんど泣かなかったのになぁ。あの時は、泣いてる場合じゃない。私が父さん達を天国まで送らなきゃ、私が一番しっかりしないとダメだと言い聞かせてたから

…。だからこんなに泣いたのは生まれて初めてかも知れないなぁ》

 部屋に戻ると、父さんに言われた渡したかった物を押し入れから次々と取り出した。

 たくさんの渡したかった物を全部広げて妖怪達に言う。

「これみんな、クリスマスプレゼントとして渡した

 かった物なの。ちょこっとずつ買い集めてた物な

 んだよ。まさかこんな形で渡す事になったけど、

 今からプレゼント貰ってくれるかな?」

そう言うと妖怪達は、笑顔全開で喜んでくれた。

「まず最初はあぶジィからね。はい、マフラー。」

あぶジィの首に赤と白のしましまのマフラーを巻いてあげると、長さがピッタリだった。

「良かった。頭が大きいからすごく長めににしたん

 だ。うん幅も丁度良いしとっても似合ってるよ」

「なぁ、そのマフラーとやら半分近くボロ雑巾みた

 いになってるのは何でだす?」

朱の盤がつまみ上げながら尋ねる。思わず赤くなって、

「う、うるさいわね。初めて編んだんだもん。一応

 私の手編みなんだからね。ボロ雑巾とか言わない

 でよ!私が一番分かってるんだから…。多少の事

 は大目に見てよね。はい、つぎは小豆さんだよ」

小豆さんに両手を出すように言うと、その両手に手袋とハンドクリームを乗せた。

「小豆さんは、どんなに水が冷たくても小豆を洗う

 でしょう。冷たい水だとしもやけやあかぎれにな

 って指が切れたりしたら、小豆が洗えなくなっち

 ゃう。だからこの丸い入れ物には、しもやけやあ

 かぎれを治したり、なりにくくするお薬が入って

 いるの。良く効くから私もいつも使ってるんだ。

 薬草とかで治してるかもしれないけど、良かった

 ら使ってみて。この薬を塗ったら、この小豆色の

 手袋をはめてね。そしたら早く治るから。手袋も

 私の手編みだからちょっとはめてみてくれる?」

両手に手袋をはめた小豆さんは、ニコニコで私に「これはめると暖かいね。寒くないね。」と大喜びしてくれた。

「どう、大きさは?ぶかぶかじゃない?」

「うん、平気。大丈夫だよ。楓子ありがとう。この

 薬を塗った後にはめれば良いんだよね?」

「そうだよ。そうすれば手荒れが早く治るからね」

「こっちはちゃんとした手袋だ。まともだぞ。ボロ

 雑巾じゃない。」

「こらっ河童!小声でも聞こえてるわよ!次は山ば

 あちゃん。山ばあちゃんもハンドクリーム。そし

 てこの割烹着四枚。」

「山婆なら、割烹着ぐらい何着も持っとるじゃい」

「違うのよ、一反木綿君。この割烹着は山ばあちゃ

 んの身体の大きさに合わせてウチのばぁちゃんが

 作ったんだよ。着てみて。」 

「おぉ、本当じゃい。いつもの小さい割烹着じゃな

 いじゃい!山婆にちゃんと合ってる割烹着なんじ

 ゃい。」

「ばぁちゃんに言ってみたら、喜んで作ってくれた

 よ。調子に乗って四枚も作ったんだから。それに

 胸元にはホラッ!」

「鈴?それと『山ちゃん』って縫ってあるべし。」

「そう。鈴はばぁちゃんが考えて縫ったの。『山ち

 ゃん』もばぁちゃんが分かるようにって。ばぁち

 ゃんも自分の割烹着にも色違いの鈴を縫って『ス

 ズちゃん』って自分の名前まで縫ったんだよ。だ

 から二人はおそろいの割烹着なんだ。」

「これ、スズちゃんが作ってくれた上おそろいなの

 かい?」

「うん。山ちゃんは畑仕事するからって四枚も作っ

 ちゃった。ついでに自分のもっておそろいにした

 んだって。」

「さっそくスズちゃんにお礼の文を書かないと。」

「便箋と筆ペンはいつもの所にあるから。さて次は

 …あぁコレ、コレ。チビッコ達の昼寝用のブラン

 ケット。寒くなってきたから、風邪引かないよう

 に厚くて大きめのブランケット見つけたから買っ

 たの。ほら、柄もピンクと黄色の花柄で可愛いで

 しょう?これだったら、私も一緒にチビ達と寝れ

 るからね。」

「フウと一緒にお昼寝できるぴょん?」

「そうだよ。私の仕事が休みの日は一緒にお昼寝し

 ようね。たから寝相の悪い子はブランケットから

 はみ出しちゃうぞー!」

「うわーい、フウとお昼寝ぽん!フウが一緒に添い

 寝してくれるぽん。嬉しいぽん、嬉しいぽん。」

「雲外さんには凄くピカピカになる鏡拭きと絡新婦

 さんにはかんざしと櫛だよ。」

「あらっ、この鏡拭き本当にピカピカになるじゃな

 い!良い物貰ったわ、ありがとう楓子」

「このかんざしも櫛も丈夫そうで、柄も綺麗だし気

 に入ったよ。」

「見つけた時、絡新婦さんの長くて綺麗な黒髪を結

 ってこのかんざし付けたら絶対似合うと思ったん

 だぁ。」

「じゃあ、さっそく結ってみようか。」

そう言うと器用に髪を結っていく。色白のきれいな

うなじを少し見せる感じに結い終わると、最後にかんざしで飾った。

「うわぁ、絡新婦さんは元々とっても美人さんだけ

 ど髪を結うとまた違う艶っぽい美人になるんだね

 。女性の私でも見惚れちゃう!」

「そうかい?雲外鏡、ちょいと映しとくれ。」

渋々雲外さんが映すと、絡新婦さんは何度も向きを変えたり角度を変えたりしながらチェックする。

「まぁ、こんなもんか。櫛は使いやすいし、このか

 んざしは黒髪に映える。楓子、ありがとね。」

「どういたしまして。でもそうやって男の人達を誘

 惑して捕まえた後、生き血を吸う為に襲ったりし

 たら即取り上げるから。そのつもりでいてよ。」

「そんな殺生な!」

「襲う道具としてプレゼントした訳じゃないもん。

 喜んで欲しかったからプレゼントしたんだもん」

「男の生き血が無いと、あたいが生きていけないじ

 ゃないか!」

「どうして?生き血を吸うのは男の人じゃなきゃダ

 メなの?人間の生き血じゃなきゃいけないの?」

「そういう訳じゃないけどさ…。やっぱり若い男の

 生き血の方が気分が良いじゃないさ。」

「それって、ただの男好きじゃないの。」

「お黙り、雲外鏡‼︎」

「人間じゃなくても良いのならトマトジュース飲ん

 だらどう?トマトだったら山ばあちゃんがたくさ

 ん育ててるよ。ねぇ?」

「おう、ビニールハウスで育ててるからたくさんあ

 るぞ。」

「ねぇ、トマトって何なのさ?」

「真っ赤な色した美味しい野菜だよ。」

「え〜野菜なのかい。じゃあいらない。」

「何だい、あたしの作るトマトが食べれんとでも言

 うんかい?」

「あたい野菜好きじゃないし、それから…」

「よぉーし分かった。明日からあたしが、お前さん

 の所まで毎朝トマト百%のトマトジュースを届け

 てやるよ。」

「ちょっ、最後まで話を聞いてから…」

「絡新婦さん良かったね。山ばあちゃんが毎朝自家

 製トマトジュースを届けてくれるって。トマトは

 美容に良いらしいし、赤ワインもあるんだから生

 きていけるね。」

「あんた達、赤けりゃ何でも良いと思ってるだろ!

 だったら大間違いだよ‼︎」

「これからはトマトジュースを飲むに決定!万が一

 の為、石妖さんに監視してもらおう。」

「えっ、石妖⁉︎い、い、嫌だ!石妖だけは絶対嫌だ

 よ‼︎楓子、せめて別のヤツにしとくれ。」

頭を抱えて激しく嫌がっている絡新婦さんの姿に驚いて、隣にいる雲外さんに小声で聞いてみた。

「絡新婦さんと石妖さんって仲悪いの?」

「仲が悪いどころか犬猿の仲。会えばいつも大ゲン

 カして、取っ組み合いのケンカするの。だから誰

 も手に負えないのよ。」

「じゃあ監視役にピッタリじゃん!今度石妖さんが

 来たら頼んでみるね。襲ったら、そのかんざしと

 櫛は石妖さんにあげる。」

「それだけは堪忍しておくれよぉ。トマトジュース

 ちゃんと飲むからさぁ。」

私にしがみついて懇願する絡新婦さんに、

「万が一の事だから、そんなに嫌がらないで。それ

 に毎朝山ばあちゃんが来るんだから、襲ったかど

 うかすぐ分かるってば。安心してよ。」

「ホント?」と疑いの目で見るので、「本当、本当

」頷いてなだめる。

《石妖さんも負けず劣らず美人さんだし、物静かでお淑やかだし何度もマッサージしてもらって優しいのに何故仲が悪いんだろう?いわゆる同類嫌悪ってやつなのかな?》













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る