第33話

 料理以上にたらふくお酒を飲んでいるハズなのにケロッとしている山ばあちゃんが、テーブルを見渡して満足気に

「全部の料理も酒も無くなった事だし、さっさと片

 付けを終わらせるとするかね。」

山ばあちゃんにまた座ってろと言われたが、後片付けだけはさせてくれと懇願し渋々OKをもらった。大皿は山ばあちゃんが運び小皿やコップ、お猪口、箸などをお盆に載せシンクに持って行く。二、三回往復するとテーブルの上には何も無くなり、折りたたみのテーブルも元の場所に片付けた。

 さて気合いを入れて洗いましょうかと腕まくりをしていると、服の裾をチョイチョイと引っ張られたので見ると小豆さんが立っている。

「洗い物させて。洗うの得意だから、手伝わせて」

「えっ、でも…水冷たいよ?良いの?」

「慣れてるから平気。洗い物するなら、楓子の役に

 立てる。だからやらせて。」

《くぅ〜、小豆さんったら何て健気な事を言ってくれるのかしら‼︎でも…》

迷っていると、小豆さんとの会話を聞いていた山ばあちゃんが、

「せっかく、小豆洗いの方から手伝いたいって言っ

 てるんだからやらせておやりよ。伊達に小豆ばか

 り洗ってる訳じゃないんだろうさ。拭くのはあた

 しがやるから、とりあえず小豆洗いが洗いやすい

 高さの椅子か何かを持って来ておあげ。」

「小豆さんが洗いやすいような椅子かぁ。あったか

 な?う〜ん小さな脚立があったような…。」

 二階に上がって、物置にしている部屋をゴソゴソ探し回る事五分。お目当ての脚立を発見‼︎しかしこの脚立も思っていたより小さかった。

 小豆さんのサイズに合うか心配しながら持って下りて来たが、問題なさそうだ。

「ありがとう」と言って、ヨイショと脚立の上に乗ると少し高くなるが小豆さんはいつも猫背になって小豆を洗っているので、その猫背がシンクの高さとピッタリだった。

 「良かった」と小豆さんは呟くと、カッと目を見開き大皿や小皿、コップにお猪口など汚れた食器をもの凄い速さでマジックのように洗っていく。

《一瞬で今まで見た事無い小豆さんに変身した!私の知ってる小豆さんじゃない‼︎これが本気の小豆さんなの⁉︎》

本当に変身したとしか言いようが無い本気の小豆さんによって、洗われていくというより次々に消えていく。そして洗った食器を受け取る山ばあちゃんも負けじと食器を拭き、山積みだった食器やコップがたった七分で終了。更に山ばあちゃんは、拭き終わったお皿やコップなどを素早く食器棚に片付けていった。十分で全てが終わる。

《ハイ、もうやる事は全部終わりましたね。私の出番ナシ!》

感動して拍手しながら、二人に賛辞を贈る。

「小豆さんって凄いわさ持ってるんだね!私、見て

 るだけで面白かったし楽しかった‼︎山ばあちゃん

 との絶妙な連携プレーがこれまた格好良くて感動

 しちゃったよ。」

 脚立を物置部屋に片付けて、二人に笑いかけながら

「山ばあちゃん、もう私よりどの食器がどこにある

 か知ってるよね。二人のおかげで片付けまで早く

 終わっちゃったから、一息入れましょう。」

山ばあちゃんの大好きなホットココア、私と一緒で良いと言った小豆さんと私が玄米茶を飲みつつ壁にもたれながら、目の前の光景に三人で溜め息を吐いた。

 絡新婦さんは散々あぶジィに絡んだ後、そのまま寝てしまったらしくあぶジィの胡座を枕にして気持ち良く寝てるし一目入道も酔い潰れて一升瓶を抱きしめながら時々「まだ酒持ってこーいっすぅ」と寝言を言いながら大いびきで寝ている。その中で唯一私が作っても良いと許可を貰った栗の甘露煮をせことキジムナーのチビッコ達が「美味しいねぇ」とお互い笑い合いながら食べている微笑ましい光景に頬が緩んだ。

 まったりとしていると、またどこに隠れていたのか雲外さんがキョロキョロと周りを見渡した後いそいそと出てくる。

「あぁ、これでゆっくりできるわぁ。絡まれるの嫌

 だから静かになるまで、テレビの後ろに隠れとい

 て良かった。」

「どおりで、またどこにもいないと思った。帰っち

 ゃったのかと思っちゃったよ。」

「帰りたかったけど、あたしからのプレゼントをあ

 んたに渡してないからね。本来ならこういう事し

 ないんだけど、閻魔大王に何度も頼み込んだりし

 て大変だったのよ!時間が限られてるけどようや

 く許しを得たの。多分あたしのプレゼントが一番

 嬉しいと思うわよ。限られた時間だけど楽しんで

 頂戴。」

含みのある言い方をする雲外さんの鏡が、いきなり光り出して眩しさに思わず目を閉じていると、「…

子、楓子!」と父さんと母さんの声が聞こえた。そっと目を開けると雲外さんの鏡に父さんと母さんが映っている。

「父さん、母さん‼︎どかんしたと⁉︎何で⁉︎」

まさしく度肝を抜かされた私の事など気にせずに、

「山婆さんと小豆洗いさんでしょう。いつも楓子が

 お世話になっております。私達は楓子の父と母で

 す。しかもウチの母まで一緒にお世話になってお

 ります。」

と父さんが深々とお辞儀をした。すると山ばあちゃんもきちんと正座して深々とお辞儀しながら丁寧に

返事をする。

「初めまして、山婆です。いつもお世話になってい

 るのは我々妖怪達の方ですから。お礼を言うのは

 あたし達の方ですよ。楓子だけじゃなくスズちゃ

 んにもたくさん教えて貰って助かってます。」

《うわぁ、山ばあちゃんと父さんが会話しとる!感動より衝撃的な光景だわ、凄い…》

山ばあちゃんと挨拶している父さんの後ろからヒョコッと母さんが顔を出し、

「あらぁ、そこにいらっしゃるとは小豆さんじゃな

 かね。まぁ、何て可愛かっだろう。あらあらまあ

 まあ、本当に可愛いかね‼︎」

「母さん‼︎ちょっといきなり失礼かでしょ!ごめん

 ね、小豆さん。」

「楓子、久しぶりやねぇ。山婆さん、楓子の母です

 ぅ。そがん堅苦しか挨拶なさらんで、いつも通り

 でよかですよ。ねぇ楓子、小豆さんば良く見せて

 。上から見とる時から可愛くて。お願いって!」

小豆さんが自ら近寄って、母をじーっと見つめた後私の方を振り返る。

「やだっ、間近で見たら上から見とるより可愛いか

 とねぇ。楓子、小豆さんば母さんにくれんね。一

 度でよかけんギューッと抱きしめたかと。それに

 見とったら健気やし。ねぇ、楓子〜。ちょうだい

 ってば!」

素早く小豆さんを抱っこして、母さんから見えないように隠した。

「何ば言いよっとね、母さんは‼︎ダメに決まっとる

 でしょうが!小豆さんは私の可愛いか親友やっと

 よ。物じゃなかっだけん、ちょうだいとか言わん

 でよ。小豆さんの事、私も大好きやっちゃっけん

 ね。」

「え〜、何でよ。楓子のケチ!母さんも小豆さん、

 大好きやもん。」

「やもんって言わんと。ケチとかそがん問題じゃな

 かでしょ。子供みたか事言わんでよ!」

小豆さんを強く抱きしめながら、母さんに怒っているとチビ軍団が「誰?誰?」と不思議そうに集まってくる。

「まぁ、せこちゃん達とキジムナーちゃん達もおっ

 たと。私達はね、フウのお父さんとお母さんやっ

 とですよぉ。初めまして、よろしくね。」

「わぁ〜、フウのお父とお母だぴょん!あのねフウ

 はね、すごく優しいんだぴょん。ご本も読んでく

 れるし一緒に遊んでくれるんだぴょん。」

「フウと一緒にいると心の中がポカポカ温かくなっ

 て心地良いんだぽん。みんなフウが大好きなんだ

 ぽん。」

チビッコ達の楽しそうな声で、酔い潰れていた妖怪達が目を覚まして起き上がってきた。

「何だすか?騒がしいだすなぁ。誰と喋っとるんだ

 す?」

「今フウのお父とお母とおしゃべりしてるぴょん」

せこ達が言うと「どれどれ?」とゾロゾロ一斉に鏡を覗き込む。 

「ほう、これが楓子の両親かい。目の辺りは母親似

 で輪郭は父親似かいねぇ。」

《絡新婦さんはそう言うけど、どちらにも似てないと思いとやばってんなぁ》

 妖怪達全員が自己紹介し続けると、

「こんなに大勢の妖怪さん達が集まってどがんした

 とか?何かあったとか?」

「皆んなで大宴会ばしとったと。料理も皆んなが作

 ってくれて、プレゼントもいっぱい貰ったとよ」

「楓子ばっかズルかぞ‼︎俺やって妖怪達と遊びたか

 とに、楓子だけ遊んで友達になるってズルか!ズ

 ルか!ズルか‼︎」

「遼ちゃん‼︎」

突然姿を現して、ばぁちゃんと全く同じ台詞で駄々をこねているのは双子の兄の遼ちゃんだ。

 はぁ…と溜め息を吐いて、

「あんね遼ちゃん、ズルかとか言われてもあの世に

 おるけん遊ぼうにも遊べんでしょうが。ばぁちゃ

 んと同じ事言わんでよ。」

「そがんやって楓子は、妖怪達ば独り占めする気や

 ろ?そうばい、絶対そうばい。やっぱズルかぞ、

 楓子!」

《あぁもう、あの祖母にこの孫ありやね…》

「誰も独り占めしとらんよ。皆んな私の友達やもん

 。ズルかも何もなかでしょう。」

「ばってん、父さんも母さんも妖怪達に会いたかっ

 て常々思っとったぞ。上から見とれば毎日、たく

 さんの妖怪達と楽しく暮らしとるやっか。仲間に

 入れて欲しかって羨ましくてたまらんとぞ。なぁ

 ?」

「そうよ、楓子。母さんも友達になりたかってずー

 っと思いながら、上から見とるとよ。」

遼ちゃんに続いて、今後は父さんと母さんまでそんな無茶を言い出す始末。

「やろ?楓子ばっか楽しくて面白かとはズルかやっ

 か!俺も河童と相撲したかし、一目入道や鵺と一

 緒に酒盛りしたか‼︎」

「母さんも小豆さんやおチビちゃん達を構いたかも

 ん。父さんだってあぶジィさんと将棋したかって

 言いよるよ。」

「ねぇ、さっきから妖怪達の事ばっかで娘の心配は

 しとらんとね?」

「楓子は昔からしっかりしとるし、こがんもたくさ

 んの妖怪達が毎日来てくれとる。強力かボディー

 ガードがおるけん、特に心配はしとらんねぇ。む

 しろ安心しとるばい。」

《…本当に見守るとかじゃなくて、上から見とるだけやっとですね父さん、母さん…》

「ほら、父さんも母さんも遊びたがっとるやろ?な

 ぁ、あの世に来て遊べんとかな?」

「はぁ⁉︎何ば言い出すと?あの世って死んだ者しか

 行けん所やろ?あの世に来てもろて遊ぼうなんて

 無茶もよかとこばい遼ちゃん!」

「別に俺達も好きであの世に来た訳やかもん。気が

 付いたら、もうここにおったっばい。ねぇ父さん

 、母さん?」

「そうやったな。アレッ?と思ったらもうここに来

 とったもんな。なぁ、母さん?」

「そうそう、最初はどこか分からんかったとよね。

 なんせ周りに何もなかとやもん。しばらく三人で

 ウロウロしとったとよ。たまたま今しがたあの世

 に来た人ば見つけて聞いてみたったい。そしたら

 あの世って言うやっかな!あん時は三人でたまげ

 たよ。」

「分かりやすかごて[ここはあの世です]って看板

 があればよかっさな。だけん今度、俺が看板ば作

 ろうかと思っとる。そしたら来た奴、すぐ分かる

 やっか。なぁ楓子、本当に妖怪達はあの世に来れ

 んと?」

「どがんやろ?一応聞いてはみるばってん、期待せ

 んでよ。」

仕方なく妖怪達に尋ねてみる。

「あの世に行ける又は行った事のある妖怪がいたら

 手を挙げてみてくれる?」

案の定誰一人、手を挙げなかった。

《そりゃそがんたいね。死んどる訳じゃなかもん》

「あの世に行ったら帰って来れんのじゃないだすか

 ?」

「あの世ってどんな所だべ?どこにあるんだべ?」

「どうやって行って帰ってくりゃええんぞよ?」

と妖怪達は色々考え始めた。

「遼ちゃん、残念やけど妖怪達全員あの世に行った

 事も無かとって。行き方も帰り方も知らんてばい

 。どかんもできんよ。」

「マジでや⁉︎じゃあどかんしたら、妖怪達と遊べっ

 とやろか?」

「よう分からんけどさ、妖怪は幽霊と違って生きと

 るけんあの世に行かんとじゃない。」

「えーっそがんモン⁉︎あっヤベッ、もうすぐフット

 サルの時間ばい。またな楓子。あっそうやった、

 楓子は俺の大事な妹やっけん泣かしたら許さんけ

 んな。」

そう言うと遼ちゃんは、颯爽と走り去って行った。

「フットサルの時間って…。母さん、遼ちゃんはあ

 の世で何ばしよっと。そして何故面白お兄ちゃん

 度がレベルアップしとるとね?最後は嬉しかった

 けどさ…。」

「遼は私達より楓子ば心配しとるけんねぇ。遼は同

 じ年齢の人達とサッカーしたり草野球ごたかとし

 とるみたかよ。試合とかばしよる。色んなチーム

 作ってあの世でもたくさん友達ができたとよ。だ

 けんいつも何かしよるね。」

「思いっきりあの世ライフば満喫しよるやん。でも

 遼ちゃんが一番心配してくれとるとね。ありがと

 うって言うとって。あっそうだ、大切な事ば言わ

 んば…」

あぶジィの手を引っ張って、両親に胸を張って紹介する。

「ハイ、ご紹介します。私の新しい家族のあぶジィ

 です。これからもずっとウチで私と一緒に暮らし

 てくれると。」

「そがんですか。あぶジィさん、これからも楓子ば

 よろしくお願いします。この娘はしっかりしとる

 ばってん、とっても寂しがり屋で素直じゃなか性

 格です。いたらん点の多か娘ですが、私達の代わ

 りと言っちゃなんですがお任せします。」

父さんと母さんが深々とお辞儀し、あぶジィは頷いて「あい、分かった」と一言だけ答えた。そのやり取りがとても嬉しくて涙が溢れ出す。

「そろそろじかが無くなってきたけん。楓子、いつ

 も上から見とるけんな。それと渡したか物はちゃ

 んと渡さんといかんぞ。」

そう父さんが言っている間に、どんどん父さんと母さんの姿が白いもやに包まれて見えなくなった。















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