第31話

{えーっ⁉︎}

私の話をようやく理解した妖怪達は一斉に驚きの声を上げる。

《本日、二度目の驚きの声でございますね》

「なんじゃい、祝う日じゃないのに祝っても意味が

 無いじゃろがい。」

「何だい、もう!楓子の為って言うから張り切った

 のにさぁ。」

「いや、あのう…でも皆んなが私の為にお祝いしよ

 うと思ってくれた気持ちがすごく嬉しくて…」

「持ってきた贈り物は、どうすりゃええでごんす」

「そうじゃ、どうすりゃええんだふ。」

《ダメだ…、皆んな話を聞いてくれそうにないわ。さて、この場をどうしよう?上手く収めなきゃ…》

「ちょっと、油すまし!これ、どういう事よ⁉︎話が

 全然違うじゃないの‼︎」

いつもの三割増しの野太くドスの効いた低い声で、雲外さんがオネエ言葉であぶジィに詰め寄った。そして次々に他の妖怪達もあぶジィに詰め寄り始め、とうとう周りを取り囲まれてあちらこちらから文句を言われ続けるあぶジィは「う…うぅ…」と言葉に詰まっている。

 四面楚歌のあぶジィへの文句を聞いて、私はビックリした。

「最初に言い出したのって、もしかしてあぶジィな

 の?何で?どうして?」

「まぁまぁ…」と何故かまたふんどし…もとい一反木綿が一歩前にしゃしゃり出てくる。

《何で、いっつもこう偉そうにしゃしゃり出てくんのよコイツ…》

「それはじゃい、油すまし殿がいつものようにテレ

 ビを観ていた時、丁度誕生日祝いをしておった家

 族と昨年のクリスマスの場面が映ったんじゃい」

「テレビ?」

「それを観た油すまし殿は、お前の為に祝いをした

 いと思われたんじゃい。しかしワシら妖怪は、祝

 い事はなぞせんからどうやって祝えばええのか全

 か知らんのじゃい。そこで、井戸の神なら知っと

 るかもしれんから、井戸の神の所まで連れて行っ

 てくれんかとワシに頼んでこられたんじゃい。が

 しかし、今の時代井戸がほとんど無くなってしも

 うて、油すまし殿を乗せて何日も探し回ったんじ

 ゃい。」

「だから毎日出掛けるようになって、朝帰りしたり

 帰って来なくなったんだ。」

「ようやく長野の古寺の井戸におった井戸の神を見

 つけて、祝い方を教えてもろたんじゃい。祝うに

 は贈り物が必要で、秘密にして驚かせた方がもっ

 と喜ぶと教えてもろうたんじゃい。全国の妖怪達

 にその事を話して、お前には知られんよう念を押

 して回ったという訳じゃい。

「ねえ、あのふんどし妖怪の言ってる井戸の神って

 誰?神様なのに妖怪なの?」

近くにいたいやみに小声で聞いてみる。するといやみは頷きながら、

「井戸に住んどる神だかね。そこの家を守ったりし

 とるだがね。怒らせるとそりゃあもうおっかない

 奴だがね。一反木綿が言うように昔は、たくさん

 井戸があったんだがね。今はもう井戸がある方が

 珍しいだがね。それで、井戸の神がおる井戸はほ

 とんど無いだがね。井戸の神は、おそらく油すま

 しが唯一自分から話しかける妖怪だがね。」

「へぇ、あぶジィの友達っていう事なんだ。確かに

 今は滅多に井戸って無いよね。私もテレビでしか

 観た事ないもん。そういえば、ばぁちゃんがたま

 に言ってる水のある場所には必ず神様が居るから

 いつもキレイにして大切にせんといかんって言う

 のは、そういう神様が居るって事かぁ。」

「そうだがね。水のある場所に限らず火や土地にも

 神はおるだがね。」

「妖怪と神様って、何だか紙一重なんだね。」

「そう言われれば、そうかもしれんだがね。それに

 しても、よう井戸の神を見つけただがねぇ。まだ

 井戸の神がおる井戸があったとは、たまげたもん

 だがね。油すましも嬉しかったろうだがね。久し

 ぶりにおうたんじゃないだがね?」

「そんなに珍しい神様がまだ居てくれた事が何だか

 私も嬉しいなぁ。でも井戸の神様は、よく誕生日

 やクリスマスもお祝いの日だって知ってたね。し

 かもプレゼントする事も知ってるなんて凄いよ」

「人間と一緒にずっと近くにおる奴だがね。」

「あれ?もしかして…皆んなが急にウチに来なくな

 ったのって、私へのプレゼントを探したりしてた

 から?」

周りの妖怪達全員が頷いた。改めて皆んなから貰ったたくさんのプレゼントを見つめて、

《…やだ、どうしよう。また目頭が熱くなってきちゃった…。もうまた涙が…》

「皆んな、一生懸命私の為に…。山ばあちゃんも知

 ってたの?知ってたのに、秘密にしてた?」

「知ってるも何もあたしゃ、今朝知らされたんだよ

 。秘密にする暇さえ無いじゃないか。もっと早く

 知ってたら楓子に良い贈り物を用意してたさ。だ

 から自分の作ってる野菜しか持って来れんかった

 わい。」

「お稲荷さん達は?」

「そういう話はわしらの所には、、自然と聞こえて

 来るもんでな。何やら妖怪達が面白い事をしよう

 としとる、しかも楓子の為に内緒で色々と企んで

 おるとな。そんな楽しそうな事なら、わしらも仲

 間に入れてもろたんじゃよ。立場上贈り物はでき

 んが、楓子の出迎えをかって出た訳だ。どうじゃ

 なかなか粋なもんじゃったろう。」

コロコロとおかしそうに笑うお稲荷さんご夫婦とは逆に、私の目からはまた涙が溢れ出た。こぼれ落ちる涙はどんどん流れて止まらない。

《もう、お稲荷さん達まで一緒になって…。皆んな何やってんのよぅ。私がどんな気持ちでいたか知らないでしょ!私はずっと…》

「私はずっと怖かったんだよ。ずっとずっと不安で

 いっぱいだったんだから。あぶジィがウチからど

 っかに行っちゃうんじゃないかって、もう皆んな

 ウチに来ないんじゃないかって毎日寂しくて悲し

 くてたまらなかったんだよ。眠れない日も何日だ

 ってあった…。あぶジィが出て行っちゃっても私

 には出で行かないでって言えないもん。だからせ

 めてお別れだけはしたいと思ってたの。〔今まで

 ありがとう、元気でね。バイバイ〕って笑いなが

 ら、お別れしようと決めてたのに。泣かずにさよ

 ならしようって…。だけどあぶジィ、どこにも行

 かないって言ってくれるんだもん。ずっと側にい

 てくれるって言ってくれた。私の新しい家族にな

 ってくれた。」

「楓子…。」

あぶジィが優しく抱きしめてくれ、頭を撫でてくれた。あぶジィに抱きつきながら皆んなを見つめ、

「皆んなも一生懸命お祝いしてくれる為に、プレゼ

 ントをしようと探したり宝物分けてくれたり、心

 が込められたプレゼントばっかりいっぱいくれた

 …。そんな事されたら、嬉しくて泣くに決まって

 るでしょう。ふえぇ〜ん、もう皆んなの思った通

 りビックリさせられちゃった。悔しい位見事に驚

 いたわ‼︎」

涙を拭きながらニッコリ笑う。するとチビ軍団まで抱きついてきて、他の妖怪達も「えがった、えがった」と満足気な顔で笑った。

「楓子はワシらの為に、いつも楽しい事嬉しい事い

 っぱいしてくれる。ワシも楓子に楽しんで、喜ん

 で欲しがったんじゃ。そしたらテレビで祝い事を

 しとった。祝えばきっと楓子がずっと笑うてくれ

 ると思うたんじゃ。」

あぶジィが言うと、周りの妖怪達も「楓子の泣き顔よりいつもの笑顔が見たいずら。」「いつも笑ってておくれよ。」と口々に言ってくれる。

「あぶジィがウチに居てくれて、いつも怒ってばか

 りだけど本当は皆んなが遊びに来てくれるだけで

 すごく嬉しくて楽しいんだよ。ただ毎日じゃなく

 てたまに数人で遊びに来てくれるだけで良い。」

「それじゃあ、つまらんじゃないでがす。」

「毎日大勢で遊びに来るのは勘弁してよ。後せこと

 キジムナー達は、今度障子破ったらお尻ペンペン

 するからね。それから遊んだ後は自分達で片付け

 なさい!片付けるまで、絵本読んであげないから

 ね。」

「お尻ペンペンは痛いから嫌だぴょーん!」「ご本読んで欲しいぽーん!」

チビッコ達を無視して、立ち上がり手をパンパン叩くと妖怪達に向かって言った。

「ハイッ、皆んな誕生日やクリスマスみたいにお祝

 いする日が決まってる事もあるけど、本当は祝い

 たい時に祝えば良いのよ。だから今から大宴会し

 ようよ‼︎」

「大宴会」の一言に、妖怪達から大きな歓声が上がった。

 その歓声を聞きながら、

《あぶジィが帰って来てくれて、皆んなが私を喜ばせようとお祝いしようと色々考えてくれたんだな》

と感慨に耽る。ジーンと感動を噛み締めている私の横で山ばあちゃんが妖怪達に、

「大宴会するには、食い物や酒がたくさん必要だろ

 。まだ楓子に贈り物を渡してない者達は今すぐこ

 こに出しな!」

山ばあちゃんの指示通りに、ぞろぞろと妖怪達は酒や花束、野草、見た事も無い魚、名前も知らない果物らしき物、山菜などまるで手品みたいにたくさんの物を出してくる。

 そして最後に、一反木綿がダンボールいっぱいに入ったさつまいもを差し出した。箱いっぱいのさつまいもを見て山ばあちゃんはつまらなさそうに、

「何とまぁ、地味な物を持って来たもんだねぇ。」

と言った。一反木綿は怒って、

「なっ、地味とは失礼じゃい!仲間達と探して、掘

 るのに苦労したんじゃい。形は悪いが味は保証す

 るじゃい。ここまで運んで来るのも重くて大変だ

 ったんじゃい。」

「これ位のどこが重いのさ。情けないね。」

言いながら山ばあちゃんが呆れた顔をするのとは反対に、たくさんのさつまいもを見ながら私は大喜びする。

「でかした‼︎アンタ、ただのあぶジィのパシリかス

 トーカーかと思ってたけどやるときゃやるじゃん

 !ねぇあぶジィ、これだけのさつまいもがあれば

 前にあぶジィが食べたがっていたこっぱもちが作

 れるよ。良かったね!」

「ふむ…ありがとう。」

「私、ネットで作り方を調べてきたから早速明日か

 らでもばぁちゃんの家で作る準備しよう。いや〜

 アンタの事一ミリだけ見直したわ。これからは、

 少しだけあぶジィに話しかけても良いか考えてあ

 げる。本当に良かったね、あぶジィ!」

あぶジィが小声でお礼を言った直後から一反木綿は

「めっそうもないじゃい」と言いながらずっと自分の身体を自らぐるぐると巻いたり、捻ってみたりとくねくね奇妙な動きを続けるのを見て思わず山ばあちゃんと一緒に、

「「気持ち悪っ‼︎」」

 しかしその言葉にも気付かない程、挙動不審で怪しく分かりづらいけどどうやら余程あぶジィのお礼の一言が嬉しくて、とても浮かれているようだ。

《よっぽど嬉しかったのか…。たった一言で気持ち悪い動きをするなんて、どんだけあぶジィな事が大好きなの⁉︎もう慕うのをとっくに超えて愛しちゃってるじゃん!やっぱコイツはあぶジィに近づけちゃいけないわ》

「あぶジィ、このふんどし妖怪と二人っきりになっ

 ちゃダメよ。危ないからね。」

「何されるか分からんぞ。気を付けな!」

あぶジィも一反木綿の様子を見て、怖くなったらしく何度も大きく頷いた。

 そのままジーッと一反木綿の喜んでいる変な動きを無言で見ていたら、段々可笑しくなってきて

《何だコイツ⁉︎》

と笑いを堪える。しかし堪えれば堪える程、お腹が痛くなる位面白くて吹き出すのを必死で我慢した。

あまりにも舞い上がっている一反木綿をもう見ていられなくて、わざと目を逸らした。


「そうだ、こっぱもちを作る時に一緒に赤飯もばぁ

 ちゃんに作ってもらおうよ。粒あんとこしあん、

 きな粉のおはぎは教えてもらいながら皆んなで作

 ろう。皆んなで一緒に作った方がきっと楽しいと

 思うんだよね。どうかな小豆さん?」

部屋の隅で小豆を数えていた小豆さんは笑って「う

ん、みんなで作ろう」と言ってまた小豆の数を数え始める。

《今日はよく笑ってくれるなぁ。いやぁ〜、小豆さんの笑顔って可愛くて癒されるわ。特にいつもより小豆さんったら可愛いったらありゃしない。小豆さんの笑顔良い!すごく良い!小豆さん自身と同じで

最高‼︎》

「また抱っこできないかな…。」

独り言を言いながら小豆さんの笑顔を見られて、一人ホクホク満足していた。

















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