第30話

 笑っているお稲荷さんご夫婦にも深々と頭を下げてお礼を言った。そしてずっと思っていた素朴な質問をした。

「あの、ずっと不思議に思っていたんだけど、お稲

 荷さん達はどうして神社を抜け出してまでウチに

 来るの?」

「それは、わしら夫婦も楓子を気に入っておるから

 のう。楓子に会いたいと思うから来とるんじゃ。

 なあ?」

「そうですよね、お前様。ワタクシ達も楓子が大好

 きなのよ。会いたいから来るの。」

「でも長崎のちょっとした有名な稲荷神社の神様な

 んでしょう?私、長崎には仕事で一回しか行った

 事ないよ。神社にも行った事無いし…。どっかで

 会ったかな?」

「いいや、わしらは神社を守る身じゃ。結界を張っ

 たりして神社を守らねばならぬ。だから長崎では

 楓子に出会っておらぬ。」

「なら、どこで私の事知ったの?こんなにしょっち

 ゅうウチに来て大丈夫?」

「わしらでも息抜きしたいんじゃよ。ここに来る時

 は結界を強くしとるから心配いらん。どこで知っ

 たかは秘密じゃ。」

夫婦揃ってウィンクする。

「そっか、秘密って事は内緒なんだ。それだったら

 無理に聞かないよ。じゃあ夫婦ゲンカした時は、

 どちらか子狐さん達全員連れてウチに家出して来

 て良いよ。」

「あっはは、そうやってすぐ信じてくれて、絶妙な

 返事をしてくれる所もお気に入りなんじゃよ。さ

 すが楓子だ。」

「そう?私は面白いご夫婦が大好きよ。お稲荷さん

 達は嘘吐いた事無いから信じられるの。それに…

 またこうやって皆んなに会えるからそれで良いん

 だ。あぶジィもずっと側に居てくれる。新しい家

 族になってくれた。また涙が出てきそうな位私は

 幸せ者だわ。」

そう言いながら目元の涙を拭うと、皆んなは素敵な笑顔を見せてくれた。

 泣き笑いしていたら、帰宅直後の事を思い出した

「ねぇ部屋の明かりを点けた後、全員で何か変な事

 言わなかった?」

首を捻りながら尋ねると、すぐ近くで「切り替え早っ‼︎」と言った河童の皿を拳で思い切り殴って黙らせる。

「そうでごんす‼︎忘れとったでごんす。お祝いをせ

 なんだでごんす!もうクラッカーとやらは無いが

 掛け声だけでもやり直そうでごんす。」

魍魎が妖怪達を集めて言った。

「せーのって言うたら、掛け声で言うでごんすよ。

…せーの!」

{楓子、誕生日おめでとう!そしてメリークリスマ

 ス‼︎}

クラッカーの代わりに大きな拍手と共に「おめでとう!」「フウ、おめでとーだぴょん!」「おめでとう、楓子」と口々に祝福の声があちこちから聞こえてくる。そんな中せこ達が私の洋服の裾を引っ張り

「あのね、あのね、フウのお祝いだから、皆んなフ

 ウに贈り物があるんだぴょん。」

「油すましが、盗んだり騙したりした物だったら、

 フウは喜ばないぴょんし受け取らないぴょんから

 ちゃんと自分達で探しなさいって言ったぴょん」

「だから、オイラ達からはコレだぴょん!」

小さな白い花がとっても可愛らしい野草の花束を差し出した。しゃがんでせこ達から花束を受け取る。

一人一人の頭を撫でながらお礼を言った。

「ありがとう。みんなで探して摘んで来てくれたの

 ?こんなにたくさん、大変だったでしょう。白い

 花がとても可愛いね。すごく嬉しいよ、本当にあ

 りがとう。」

せこ達はエヘヘと照れ笑いしながらも私の身体に抱きつく。全員の背中をヨシヨシとさすってあげると

せこ達は大はしゃぎで喜んだ。次はキジムナー達が

大量の海ブドウを差し出す。

「もう採れる時期は過ぎちゃったんだぽん。けどフ

 ウに食べて欲しかったぽん。海には入れないから

 海坊主と舟幽霊にお願いして採ってきてもらった

 ぽん。これ、美味しいんだぽん。」

「そっか、ありがとう。私、海ブドウ食べた事無い

 から一度食べてみたかったんだ。でもこんなにた

 くさんは食べきれないから、ここに居る皆んなと

 一緒に食べようか。探してくれた海坊主と舟幽霊

 にありがとうって伝えてね。」

キジムナー達は頷くと、せこ達と一緒になって喜びながらはしゃぎ始めた。喜んでいる姿を見ながら、うんうんと頷いて仲良き事は良き事かななど思って微笑んでいると、背後から「楓子」と小さな声で名前を呼ばれた。振り向くとそこには小豆さんが。

そして大の男性でも持つのがやっとだろうと思われる大きくて重そうな袋が横に置いてある。

 どうやって持って来たんだろうと考えていると小豆さんは平気な顔をして、

「これ、大納言小豆。あげる。」

「大納言小豆といえば高級品じゃない!もしかして

 小豆さんの大切な宝物なんじゃないの?」

小豆さんは頷いて袋ごと全部を渡そうとした。しかし私はしゃがんで小豆さんの目を見ながら、

「いくら何でも小豆さんの宝物を全部もらう訳には

 いかないよ。気持ちだけで充分嬉しいからね。」

「宝物だからこそ、楓子にあげる。楓子は特別だか

 ら、全部もらって。」

「小豆さん…。そうだなぁ、じゃあ半分こしようよ

 。小豆さんとこの宝物を半分こして、私も大切な

 宝物にするからさ。」

「うん、半分こしよう。楓子と宝物半分こずつ!」

小豆さんはニコニコしながら「半分こ!」「半分こ

!」と繰り返す。

「あっそうだ、私の分の小豆で小豆さんの大好きな

 赤飯を炊いて一緒に食べよう。それから贅沢にお

 はぎも作って、粒あんとこしあん、きな粉の三種

 類を作ろうよ。どうかな?」

「うん赤飯もおはぎも大好き!一緒に食べよう。一

 緒に食べよう。」

小豆さんは本当に嬉しそうで、ピョンピョン跳ねて喜んだ。ここまで喜んで笑っている小豆さんを見たのは、実に初めてだ。

「小豆さん、宝物を半分こしてくれてありがとう。

 私にとっても小豆さんは特別な存在なんだよ。」

「どんな?」

「友達…いや親友!友達よりももっと仲良しな親友

 だと思っているの。」

「親友…。じゃあこれからもずっととっても仲良し

 の親友でいよう。楓子ととっても仲良しな親友。

 とっても嬉しい‼︎」

そう言って私に抱きつき、私も小豆さんを抱きしめて念願だった抱っこをする。

「私もすっごく嬉しいよ。これからもずっと仲良く

 しようね。」

小豆さんと頬をくっつけ合って、しばらく「よろしくね!」を二人で言い合いながら抱擁した。

 小豆さんを降ろしてもう一度「ありがとう」を言うと、小豆さんは大きく頷いて小走りに部屋の隅っこに行ってしまう。

《ついに抱っこしちゃった。やっぱり小豆さんは可愛いなぁ。愛くるしいわ!あぶジィみたいに、ずっとウチに居てくれないかしら?》

 それから次から次に妖怪達から花や野菜に魚、果物など両腕では抱えきれない程のプレゼントをもらった。河童は、想像通りきゅうりだった。

 まだまだ続くプレゼントの嵐の中、心苦しいが言わなければならない事がある。

「ストーップ!あのう…お祝いをしてくれている皆

 さんに聞きたい事があります。こんなにもプレゼ

 ントをもらって大変嬉しいのですが、皆さんは誕

 生日とクリスマスの意味をちゃんと知っています

 か?」

「どちらもお祝いする日だす。」

「うん、簡単に言ってしまえば両方お祝いをする日

 です。じゃあもう少し詳しく質問するからね。ま

 ず、誕生日は何のお祝いをする日か知ってる?」

「はーい。」

意外と大きな声で手を挙げながら、ぬっぺらぼうが

答える。

「楓子の生まれた日をお祝いする日だふ。」

「そうですね。良く分かったね。皆んなの言う誕生

 日は、私が生まれた日です。皆んなお祝いしてく

 れてどうもありがとう。」

{おぉ〜!}

全員から大きな拍手を頂いた。

「まあまあ。では次にクリスマスは何のお祝いの日

 でしょうか?」

「はい‼︎」

やけに自信満々の河童が手を挙げた。

「家族や仲間、好き合ってる男と女達が[メリーク

 リスマス]と言いながら美味いもんを食ったり飲

 んだりする日だろ。」

《完全に人間の影響を受けとるな、コイツ…》

「う〜ん、若干質問の答えが違うけれど、おまけで

 正解にしましょう。本当は、とある神様の誕生日

 をお祝いする日なんだけど、そんな事人間達には

 とっくに意味などどうでもよくなってるからね。

 河童の言う通り家族や友達、恋人達がそれぞれ盛

 大に楽しむ日になっちゃってるんだよ。そこでし

 かし、残念ながら皆さんも大きな勘違い、間違い

 をしているの。」

「嘘べし。」「どっか間違えただわさ?」「ちと掛け声が違ったかにょ?」と妖怪達の間でザワザワと不安な声が飛び交う。

 私がパンパンと手を叩くと速攻静かになった。

「あのね、誕生日のお祝いはその人の誕生日である

 日にお祝いして、クリスマスもお祝いする日が決

 まってるんだよ。」

「誕生日もクリスマスもお祝いする日が決まってる

 ぴょん?」

「うん、そうなんだ。せこ達良く分かってくれてあ

 りがとう。」

「じゃあ、いつお祝いすれば良いぽん?」

「そこが一番重要なの。私の誕生日は九月十八日、

 クリスマスは十二月二十五日。ちなみに十二月二

 十四日はクリスマスイブと言うんだよ。今は十一

 月中旬でしょ?皆んなよーく考えてみて。つまり

 は…」

「つまり?」

「私の誕生日は、とっくに過ぎてるしクリスマスに

 はまだまだ早い。という事は九月十八日でもなく

 十二月二十四日二十五日でもない今日はお祝いす

 る日ではないっていう事です…。」



   しばはくの沈黙…。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る