第17話

 興奮し過ぎたので何度か深呼吸をして落ち着こうとしている私に、震えている雲外さんがおそるおそる話しかける。

「あんた悪魔だわ…。本当に油すましの事大好きな

 の⁉︎」

「もちろん!当たり前じゃない。あぶジィを想う気

 持ちや愛情は誰にも負けないわ。なのに悪魔だな

 んて酷いよ雲外さん!」

「酷いのはどっちよ‼︎だったら今の油すましを見て

 ご覧なさい!恐ろしさのあまり放心状態になって

 るじゃないの。…冷静沈着の油すましをここまで

 追い詰めるなんて、やっはりあんたは悪魔よ!」

「何言ってるの?私があぶジィを追い詰める訳無い

 でしょ。私なりの愛情表現して質問しただけじゃ

 ないのよ。ちょっと興奮しちゃったけど。」

「愛情表現って…。それもちょっと⁉︎あたしには殺

 そうとしている様にしか見えなかったわ。あんた

 の愛情表現は恐怖でしかないわよ!あんな表現の

 仕方なんてどこにも無いわ。」 

「失礼しちゃう。私、素直に愛情表現しただけなの

 に。恐怖じゃないもん。私はあぶジィが大、大、

 大好きなんだから。」

「あっそう。初めて油すましを心の底から気の毒で

 ならないと思ったわ…。あたしは、あんたの愛情

 なんて微塵も要らないから。殺されたくないもの

 。」

「え〜何で⁉︎」

「要らないったら要らない!あっそうそう、長年か

 けて妖怪になったとかなんとか言ってたけど、あ

 たし妖怪になりたくて長年待ってた訳じゃない」

「気が付いたら長い年月が経ってて、いつの間にか

 妖怪になってたというのがあたしの場合よ。他に

 も色んな理由があるけど、ほとんどの九十九神が

 そうなんじゃないかしら。」

「つくもがみ?」

「長年生きてきたものや使われ続けた道具に神が宿

 るの。神と言っても種類が多いから偉くも何とも

 ないから妖怪と一緒よ。まぁ、考えてみると長い

 年月大切に使ってくれたから、あたしは妖怪にな

 れたと少しだけ人間に感謝してるわ。あんただと

 すぐに割って壊すでしょうけどね。」

「うっ…悔しいけど、私もそう思う。」

 雲外さんとしばらくあれこれ話していると、いきなりあぶジィが立ち上がり無言で押し入れの中に入って静かに襖を閉めた。

「あれっ、あぶジィどうしたの?押し入れに入っち

 ゃったりして…。あぶジィ?」

返事が全く無い。

「ほら見なさい。よっぽどあんたが怖かったのよ!

 あんたの歪んだ愛情表現のせいなんだからね。ち

 ゃんと責任取りなさい。」

「えぇ、ウソ〜!?私、そんなにあぶジィが怖がる

 ような事した?何でぇ〜!?」

《私、何か悪い事したっけ⁉︎》


「あぶジィの好きな羊羹やもなかを買ってきてるん

 だよ。お願いだから、いい加減出てきてよ。あぶ

 じぃ〜‼︎」

 あの後、私や他の妖怪達が何度も話しかけたり謝ったり食べ物でつろうとしたけどあぶジィは一週間押し入れに閉じ籠ったまま一度も返事してくれず出てきてくれなかった。


































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