第15話

 話を聞きながら黙ってお茶を啜っているあぶジィを見ながら、

「お茶とお菓子を勧めながら、[あの…油すまし…

さん…ですか?]っておそるおそる尋ねたら頷い

 たからそれを見て、あぁ本当に妖怪なんだなぁと

 …。ねぇ?」

あぶジィに同意してを求めたら、あの時のように頷いた。

「あんたやっぱりバカね。何が心の整理が出来てな

 いよ?何がまぁ良いかよ?更にもてなしでどうす

 んの‼︎あんたの思考回路、壊れてるんじゃないの

 ⁉︎普通、害が無くても怖がるでしょうが!最初か

 ら心の準備なんて無いわよ。」

雲外さんの迫力に押され気味になりながらも

「だっ、だって驚いてはいたんだけど本当に最初か

 ら怖くはなかったんだもん。その代わりずーっと

 質問ばっかりしたんだけど、何とまぁ喋らない、

 喋らない。頷くか首を横に振るかしか返事しない

 んだから。私一人で話してばっかりでさ。ねえ?

またあぶジィに話しかけたら先程と同じく頷く。

「段々あぶジィ見てたら笑えてきたんだよ。そうか

 妖怪なんだって心の整理も出来たし気持ちも落ち

 着いた。考えても仕方ないしね。思いっきり開き

 直って、面白いお客さんが来たなぁと思う事にし

 たの。だから、どうぞ雨が止むまで好きなだけ雨

 宿りしていって下さいなとという風に始まって、

 今日に至ってます。」

「あんたって今まで見てきた人間達と全然違う…。

 こんな人間、あたし初めて見たわ。」

「へぇ、そうなんだ?しかしあぶジィが来た次の日

 からウチに帰ったらそれこそ今まで見たことも無

 い者達がいっぱい騒いでるんだもん。こんなんも

 妖怪なのかと、しばらくずーっと妖怪に関する本

 読んだりネットで調べまくって仕事先の先輩達か

 ら不審がられたけど。」

《凄く近寄り難かったって谷口さんに言われたもん

…》

「皆んなの事もとっても驚いたけど、あぶジィの時

 と同じで最初から怖くはなかったよ。いちいち驚

 いて怖がったら身が持たないって。それに私が怖

 がってたら雲外さんが喋った瞬間に叩き割るね」

「そうやって、すぐ力で解決するのは良くないと思

 うわ…。」

雲外さんは素早くカーテンに隠れながら、私をチラッと見て言った。

「あはは、割らない、割らないって。カーテンに隠

 れてないで出ておいでよ。」

「本当に?」

「本当だってば。割らないと約束するから。安心し

 てこっちにおいでよ。」

本当?本当に本当?とまだ疑いながら雲外さんは戻ってきたけれど、前より私とは距離を置いて座る。

 私は苦笑しながら

「つかぬ事を聞くけど、どうして雲外さんはそんな

 に目立ちたくなかったり他の妖怪達がいる時隠れ

 ているの?」

「あのねぇ、あたしはお淑やかで繊細なレディなの

 よ。ギャーギャー騒ぐしかしない妖怪達と一緒に

 しないでちょうだい。」

「お淑やかで、繊細なレディなんですか…。」

「そうよ。どこからどう見ても深窓の令嬢のように

 美しく立派な淑女でしょ。だからその場に居るだ

 けで目立っちゃうじゃない。あたしは静かで優雅

 にお話をしたりしたいの。なのに他の妖怪達った

 ら騒いでばかりで、うるさいだけじゃない。あん

 なのと同じに思われるなんて心外だわ。失礼しち

 ゃう。」

「さようでございますか…。の割にはかなり毒舌よ

 ね?」

「あら、あたしは思った事を言ってるだけよ。あた

 し、嘘を吐かない正直者でもあるんだから。」

《やっぱ叩き割ろうか…。ドスの効いたオッサンの声で喋り出したら、せこやキジムナーのチビ達は怯えて私の服の中まで入って逃げるよ》

まじまじと雲外さんを見つめた。

《その声と話し方が逆に悪目立ちしてると分かってないよね?それに本気で自分を淑女だと思ってるの?》

「あんた、今ものすごく失礼な事思ってない?さっ

 きから嫌な感じがするわよ。」

《こういうのには意外と鋭いし…》

「雲外さんは騒ぐのが嫌いって事なんだね。でも他

 の妖怪達だってあぶジィに会いに来て、一緒に楽

 しか遊んでるだけだと思うの。雲外さんは疑って

 るけど姿形には驚くけど本当に全く怖くないんだ

 よ。まだ会った事も無いたくさんの妖怪達もいっ

 ぱいいるけど驚きはするけど怖くはないと思う」

「本当?」

「大体、妖怪自体驚かせたいだけで怖がらせたいと

 思ってないでしょう。イタズラが好きなだけ。ま

 ぁ私の場合、騙されたりイタズラされたらボコボ

 コにするけど…。あくまで私の場合だからね。妖

 怪はそういう存在だと思ってるから怖くはないよ

 。」

「たまたま初めて会った妖怪が大人しい油すましで

 良かったっていう運の良さだけじゃなさそうね。

 来た地蔵が妖怪だと分かった時追い出そうと思わ

 なかったの?」

「思わなかった、いや思わない。きっと何か意味が

 あるから。人間だって縁があって出会うんだし、

 あぶジィがウチに来たのにも何かの縁があるから

 だと思うの。あぶジィ本人にも来た理由があるん

 だろうけど無理に聞き出そうとは思わないよ。話

 したい時がきたら自分から話すんじゃない?」

「そうかもね。」

「私はあぶジィが大好きだし雲外さんを含め他の妖

 怪達も嫌いじゃないよ。しかし例外として河童と

 ふんどし妖怪は腹が立つし面倒臭いし何よりウザ

 い‼︎」

「あぁ、それはあたしも同感だわ。それにしてもあ

 んたって根っからの変人なのね。」

「オカマの鑑に言われたくないわね。ねぇ、妖怪っ

 て驚かせるのが好きなのはよく分かってたんだけ

 ど、何でヘンテコな姿形をしてる妖怪が多いの?

 時々本当に驚かせる気あるのか疑問に思う連中が

 いるんだけど…。」

「そりゃあんた姿が変わってる方が一番簡単に驚か

 せられるじゃない。後、途中でいきなり姿を変え

 たら余計驚くし。イタズラするのに色々都合が良

 いの。」

「イタズラに都合も何もないんじゃない?される方

 はいい迷惑だわ…。でも姿がヘンテコなら簡単に

 ビックリさせられるよね。うん、一番分かりやす

 い方法だよ。」

「でしょ。」

「だけどさ、もう少しちゃんと考えてみたら?と思

 う奴もたくさんいるじゃん。」

「例えば?」

「鵺!そう代表的なのは鵺なのよ‼︎頭が猿で身体が

 たぬき、手足が虎で尻尾が蛇って…。初めて会っ

 た時かなりの衝撃をくらったんだからね。何なの

 あのセンスの一欠片も無いチョイスのしかた⁉︎も

 っと他に選べるでしょ。百歩譲って猿とたぬきと

 虎、蛇が良いなら何故頭を猿にしたの?もうそこ

 から間違ってるじゃない。」

「言われてみれば、そうだけど…。」

「頭はやっぱり虎にするべきなんじゃないの?身体

 を猿にして手足をたぬきにすれば良いじゃん。も

 ちろん尻尾は毒蛇なんでしょうね?」

「さあ?マムシとかなんじゃない?知らないわ。」

「最終的に何になりたかったのアイツ⁉︎全部選び方

 間違えてる非常に残念な姿してるじゃんよ。雲外

 さん、一度鵺に自分の姿を見せてあげて。どんな

 反応するか見てみたい!」

「あたしもちょっと興味があるわね。」

「でしょう?あんな姿しといてマジで驚かせる気あ

 るのかな?だって想像してごらんよ。あの姿で最

 近カプチーノをおいしそうに飲んでるんだからね

 。泡がヒゲみたいになって余計に残念な妖怪にな

 ってるんだもん。」

「こんな風に?」

そういうと雲外さんの鏡に口の周りいっぱいにカプチーノの泡をつけて満足している顔の鵺が浮かび上がった。

「そう、これ!残念以下の何ものでもないじゃん。

 そ、それにしても…。ぶっ!ぶぶぶ、あっはっは

 っは、ダメだ面白すぎる!うははは、あれは反則

 でしょ、反則‼︎」

「ホレホレ、ちゃんと見なさい。」

テーブルをバンバン叩いたり仰け反って大爆笑する私に雲外さんが更に追い討ちをかけてくる。

「や、止めて!うはははは、あーっはっはっは、お

 …お腹痛いー‼︎いやぁぁ、このヒゲ面鵺ハンパな

 いって〜!」

雲外さんがじわじわ近寄って来た。

「ぶはっ、うふふふ、あはっ、あはっ、い、い、息

 ができないっ。もうたまらん、もう鵺を直視でき

 ないわ‼︎」

床にうっつ伏して、ヒーヒーと声が出来なくなる位ツボにハマった私はお腹を抱えながら転げ回る。

「この娘、いつも、こんな風なの⁉︎」

人を笑いに追い込んだ張本人なのに雲外さんが、あぶジィに不安そうに聞いた。あぶジィもしばらく頭を傾げて考えた後頷く。

 失礼なやり取りを見ながらもなかなか笑いが収まらない私は、笑い涙を拭くのに精一杯。込み上がぅてくる笑いで何も言えなかった。


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