第14話

「あんたみたいに妖怪と対等に喋ったりケンカする

 人間を初めて見たの。もし一度確認の為に聞くけ

 ど、何者かが化けてたりしない?本当の本当に人

 間?」

「生まれた時から本当の本当に人間です!言わせて

 もらいますけどね、私は幽霊を一度も視た事も無

 いし宇宙人がいるかいないかも考えた事すらもあ

 りません。それこそ妖怪の事なんて頭の片隅にす

 ら無かった。思考回路のカテゴリー外だったよ」

「本当にそうなの?」

「そうだよ。あぶジィが来るまで何の関心も興味も

 無かったし妖怪について何一つ知らなかったんだ

 から。あぶジィが妖怪だなんて知らなかった位だ

 もん。ばぁちゃんが教えてくれたんだよ。」

「教えてもらうまで知らなかった⁉︎」

「うん。それなのにあぶジィが来た次の日から、わ

 んさか得体の知れない見た事無い者達がやって来

 るなんて思いもしなかったんだからね。」

「そう、そこよ、そこなの!油すましって妖怪と知

 らなかったのに、何故家に入れたのよ?普通驚く

 でしょうが!」

「だってその時のあぶジィって梅雨の雨で全身ずぶ

 濡れだったんだもん。お地蔵様が風邪引いちゃう

 ってとっさに思っちゃったの。」

「うん?何だって?そりゃあ油すましは一見地蔵に

 見えなくもないけど、風邪引く訳無いじゃない」

「だから、とっさにそう思ったんだってば。物心つ

 いた頃から、ばぁちゃんにお地蔵様は子供達を守

 ってくれる偉い神様なんだよって言われてきたの

 。だから大切にせんばよと教えられたから。お地

 蔵様を暖めてあげなきゃって手を引っ張ってウチ

 の中に入れちゃった。」

何故か雲外さんは、長ーい溜め息を吐きながら首を振っていた。

「ばぁちゃんとやらに教えられたなんてどうでも良

 いけど、あたしから見るとあんたの方が妖怪っぽ

 いわ。」

「何だよ⁉︎酷い、雲外さん‼︎」


 そうあの日は、梅雨の時期で朝からずっと雨が降っていた。

丁度仕事が休みだったから、借りてきた小説を読んでいたっけ。そしたら玄関を叩く音が聞こえる。気のせいかなと思ったけど、確かに玄関を叩く音が何度かしたから玄関を開けたら杖をついたあぶジィが立っていたの。

 でも私はお地蔵様だと勘違いして、雨に濡れるあぶジィを急いで家の中に入れたんだ。

 熱いお茶を手渡して、お茶を飲んでる間にお風呂を沸かしたりバスタオルの準備をして濡れてる藁のみをハンガーにかけてドライヤーで乾かした。

 お風呂場に案内したら「どうぞ身体がちゃんと温まるまで入って下さい」と伝えたの。

 お風呂に入っている間、今度はお茶菓子を色々用意して…。


「ストーップ‼︎何なのあんた?その至れり尽くせり

 のあんたの行動は⁉︎千歩譲って、玄関を開けたら

 地蔵が立ってたから風邪引くといけないから家の

 中に入れた所までは良いとしましょう。けどその

 後のあんたの行動は、あたし理解できないわ。お

 茶を出すだけじゃなくてお風呂まで入れた⁉︎はぁ

 ?あんた信じらんない!」

「そんな事言われたって…。必死だったから、本当

 に気が付かなかったんだもん。」

「だもんじゃないわよ。あのねぇ、必死だったから

 って玄関開けたら頭のデカい地蔵が立ってんのよ

 ?普通その時点ですぐ気が付いて驚くってもんで

 しょうが!鈍いのにも程があるわ!ましてお風呂

 に入れて茶菓子まで用意して、あんた正気なの?

 危機感ってモン無い訳⁉︎」

「何故そんなに雲外さんが怒るの?」

「うるさい‼︎怒りたくもなるわよ。不思議とも怪し

 いとも思わないで簡単に家の中に入れるって、あ

 んた余りにも不用心で無防備なのよ!妖怪のあた

 しにまで心配されて情けないったらありゃしない

 。」

「えへへ。何だ雲外さん、心配してくれてるの?優

 しいんだね。」

「あんた本当にバカなんじゃないの?何が『優しい

 んだね』よ!もうちょっと身の危険について考え

 なさい。」

「考えてるよ。私だって普段は用心してるもん。そ

 れにお風呂から出たあぶジィの頭を拭いてあげて

 る途中で『あれっ?』ってちゃんと気付いたよ。

 やけに頭が大きくないか?って。それにお地蔵様

 ってこんなに大きく無いよねと思った。」

「あんた、やっぱりバカよバカ!」

「もう、人の事バカバカ言わないで!それからよく

 見たら、お地蔵様じゃないってその時に初めてビ

 ックリしちゃった。」

「遅っ!今更そこで驚くなんて遅すぎるわ。本当、

 信じらんない!そこまで世話してもてなしといて

 気付くの遅いのよっ。」

「気付いた後は警戒しながら、ずっとお茶を飲んで

 る姿を穴が開く程見てた。夜になってからばぁち

 ゃんに油すましという妖怪だって教えてもらった

 の。」

「夜になるまで、ずっと見てたの?」

「そうだよ。だって目が離せなかったんだもん。教

 えてもらったけどウチに妖怪が来たとは信じられ

 なかったなぁ。」

「あんた、どこまでお人好しなの?天然?やっぱり

 バカね。怖いと思わなかったの?」

「う〜ん、ビックリはしたけど怖いとは全く思わな

 かったよ。ただ何でか懐かしい気がした。」

「懐かしい気がしただって⁉︎…もう呆れて物も言え

 ないわ。」

《散々人の事をバカだとかボロクソに言っておいて

自分はオネエ言葉ってどうかと思うよ雲外さん》

「懐かしい気がした理由があるの。あのね子供の頃

 によく読んでもらった絵本に『かさじぞう』って

 いう物語があってね。その物語の中に登場するお

 地蔵様に似てるからだと分かったの。雲外さん、

 ちょっと待ってて。」

そう言うた私は自分の部屋へ行き紙とペンを持ってきて「さかじぞう」のお地蔵様とあぶジィの絵をサラサラと描いて見せる。

「こうやってね絵を描いて、ばぁちゃんに一生懸命

 説明したんだよ。こんなのが今ウチに来てるって

 。お茶飲んでるんだよって何度も説明したんだか

 ら。」

「へぇ、あんた絵を描いて上手じゃない。」

「えへ、そう?実は私、イラスト描くの好きなんだ

 …って違ーう‼︎」

思いっきりテーブルを強く叩いて自分にツッコミを入れた。

「そうじゃなくて…あれ?雲外さん?」

雲外さんは全身をガタガタ震わせながら怯えた様子で硬直している。

「どうしたの?そんなに震えて。」

「どうしたの?じゃないわー‼︎いきなり叫んで、テ

 ーブル叩くんじゃないわよ!ビックリして鏡が割

 れるかと思ったじゃない。」

「あっ、ごめん、ごめん。とにかくあぶジィの絵を

 描いてばぁちゃんに見せながら言ったの。そした

 らばぁちゃんが『そりゃ油すましっていう妖怪や

 っか』とあっさり答えられちゃった。でも私から

 したら『そうですか』の一言で片付けられないじ

 ゃん。突然ウチに妖怪が訪ねて来たんだから。」

「あんた、色々もてなしてたじゃないの。」

「そうだけど、妖怪って分かれば心の整理ってモン

 が必要なの!」

「それこそ今更じゃない。」

「違うよ。勘違いしてたから。でも妖怪って分かっ

 ちゃったら私だって困惑するよ。心の整理ができ

 てないしどうすれば良いのか分からないし…」

「あんたなら心の整理ってモンはすぐできるんじゃ

 ない?単純そうだし。」

「何か言いましたか?」

「いいえ〜、何も言ってませんけど?」

「幽霊とか心霊なら霊感がどうのこうのと言えるけ

 ど私には霊感無いし。何かもう色々なモンすっ飛

 ばして、たどり着いたのが妖怪だなんて誰が想像

 できる?」

「まぁ、分からなくもないけどさぁ…。」

「ばぁちゃんは害の無い妖怪だから安心しろって言

 うからウチに帰ってみたら、やっぱり全然お地蔵

 様と違うんだもん。害が無いならまぁ良いかと思

 ったんだよ。」


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