第12話

 夢破れて、溜め息を吐きながら夕飯を食べている私の隣に審判役に飽きたらしいあぶジィがよっこいしょと座って来た。もう阿吽の呼吸で湯呑みを渡すと、頭を下げて受け取りお茶を啜り始める。

 ショボンとまたご飯を食べているとせことキジムナーのちびっこ達が、

「フウ、何だか元気ないぴょん。どっか痛いぴょん

 ?」

「頭なでなでしたら、治るぽん?」

と私の頭を交互に撫でてくれた。

「ありがとう。どこも痛くないから大丈夫だよ。心

 配してくれて、みんな優しいね。夕飯食べたら一

 緒に遊ぼうね。はい、約束!」

そう言うと「約束ぴょん」「約束ぽん」とはしゃいで部屋で鬼ごっこを始める。

 やれやれ、部屋と仏間を仕切っていた襖を片付けていて正解だったと思いながら走り回るチビ達を少し困った顔で見ていた。そして今日借りてきた本を思い出し、箸を置いてバッグからグルメ本を取り出すとあぶジィに手渡す。

「全国各地のお菓子だから、何か気になる物やもう

 一度食べたいお菓子があったらお取り寄せしてみ

 ようね。」

頷きながらページをゆっくりめくっているあぶジィに言った。

 先程の一反木綿との会話を思い出し、ご飯を食べるのを一端止める。落ち込んで、独り言のようにあぶジィに話しかけた。

「私、知らない間に妖怪達にすごく期待してたみた

 い。夢を見てたみたいなんだよ。さっき一反木綿

 に言われたんだよね。妖怪には妖力みたいな特別

 な力は持ってないんだって。あーあ、自分の中で

 理想の妖怪像を勝手に作ってたと分かって恥ずか

 しいやら悲しいやら複雑な気持ちになっちゃった

 。」

「所詮、妖怪は妖怪だ。」

「そうだよね。私ね、子供の頃寝る時に本を読んで

 もらってたの。本の中にいっぱい妖怪達が登場し

 てたんだ。その妖怪達はみんな優しくて、人間を

 助けてくれる良い妖怪ばっかりだったんだよ。だ

 から妖怪って凄いんだなと思ってて、人間を必ず

 助けてくれると期待してた。でも実際は違うよね

 。何か勝手に夢見て、期待しちゃってごめんなさ

 い。」

俯いたままの私に、あぶジィは優しく話してくれる。

「何も謝らんで良い。どんな者でも夢や期待を持つ

 もんだ。気にやむ事は無い。」

「でもさぁ、無いモノを求められるのは辛いし苦し

 いと思うの。期待に応えられないという罪悪感を

 感じさせちゃうじゃない。困らせちゃうじゃん」

「目の前の連中を見て、気にするような者がおるよ

 うに見えるか?」

 鵺とぬっぺらぼうが腕相撲をしていて、ますます大盛り上がりしていた。言い出しっぺの河童は、早々に負けてしまったらしく大声で野次を飛ばしている。

 あぶジィと交代したお稲荷さんの旦那様が審判をしていて、なかなか本格的な勝負をしていた。その周りをチビ軍団が走り回って、運動会みたいだ。

やりたい放題の無法地帯。それらを見てきっぱり言った。

「全然見えない。」

「だろう。」

あぶジィの言う通りジーッと見ていたら何だか笑えてくる。気にするどころか、いつも全く遠慮さえしない連中だ。

 落ち込むのがバカバカしくなってきた。そんな妖怪達が面白くて、可笑しくて

「あっはっはっは、今までだって迷惑とか悪気とか

 一度も考えた事無さそうだね。」

「そうだろう。」


 まだ短い付き合いだけど、毎日たくさんの妖怪達と楽しく話したり本気でケンカしたりしてきて思うけど妖怪達はみんな気まぐれで陽気で暢気な性格をしている。

 一反木綿や石見の牛鬼みたいに人間を襲って殺したり食べたりするのはほんの一部の妖怪だけ。基本、ただ驚かせたりイタズラするのが大好きだから人間にちょっかいをかける感じがする。決して怖がらせたい訳じゃないみたい。


「妖怪って人間が好きかもって思うんだ。好きだか

 らこそちょっかい出したらイタズラするのかなっ

 て。」

「ふむ。」

「嫌いなら近寄ったりしないもんね。ただし、先に

 ちょっかい出しといて仕返しされたら倍にしてや

 り返す所は腹立つけど。」

「大昔から近くで人間を見てきと?からのう。やり

 返すのはイカンかもな。」

「それにね、一つ納得いかない事があるの。何で⁉︎

 って思う事がね。」

「何だ?」

「驚かせるのが大好きな妖怪は分かるんだけど、何

 故妖怪なんですか?って質問したい妖怪もいっぱ

 いいるのよ。何もしない妖怪。驚かせたりイタズ

 ラしないけど、かといって良い事も全然せずただ

 じっとその場に居るだけの妖怪だよ。あれ、何な

 の?何がしたいの?」

いい例がたまにウチに来る川兄弟こと川男。大男二人が川辺に並んで座ってずっと話しているだけの妖怪なのだ。

《全身真っ黒のデカイ男二人がボソボソ喋ってるだけって…。無害なのは良いけど、あの二人は絶対他の妖怪の悪口言ってると思うわ。自分達の世界に入り込んじゃってるに違いない》 

 他にも富山県の妖怪のセンポク.カンポクというのは顔は人間だか身体はガマ蛙。大人しくて家の隅でうずくまっているだけの妖怪だ。まだまだそういう妖怪がたくさんいる。


「妖怪じゃないといけないのか、前々から疑問なん

 だよね。」

「人間それぞれと一緒で妖怪もそれぞれだ。」

「それ言われちゃうと何も言えませんね。それも個

 性って事かな。」

あぶジィだって特に何もしない妖怪の一人だし、だから一緒に上手く同居できているのかもしれない。












































































































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