第11話

 「ただいま」と玄関を開けると、「フウ、おかえりだぴょん」とせことキジムナーのちびっこ達が駆け寄って出迎えてくれた。

《出たな、疲れ知らずのチビ軍団‼︎》

買い物袋を持っている両腕にしがみついたり足下にじゃれついて「遊ぼうぴょん、遊ぼうぴょん」と大声でせがむ。

「ダーメ!今から夕飯作るんだから遊ぶのは後で。

 こらっ、足にしがみついたら歩けないでしょ。

 離れなさい!」

ブーブー文句を言うチビ軍団をよそに部屋の襖を開けると、あぶジィが審判を務め河童と朱の盤が腕相撲をしていた。周りではぬっぺらぼうやあかなめ、鵺がヤンヤヤンヤと野次を飛ばしながら大盛り上がりしている。額を押さえ、お稲荷さんの旦那様にこれは何事かと聞いた。

「いつも普通の相撲ばっかりするのは面白くないか

 ら、腕相撲しようと河童が言い出したんじゃよ。

 そしたら力比べをして誰が一番強いか決める事に

 なってのう。今、勝負をしとる最中じゃ。」

「何なのよ一体…。それこそウチじゃなくて他所で

 やれば良いじゃないの。もう完全に溜まり場か遊

 び場になってるじゃん。ってあれ、今日は旦那様

 だけ?」

「ああ。子狐達が今日こそ自分達も行きたいと駄々

 をこねてなぁ。拗ねとるから、今日は女房が子守

 りする事になったんじゃよ。楓子によろしくとゆ

 うておったぞ。」

「そうなんだ。子狐さん達も一緒に連れてくれば良

 かったのに。私も子狐さん達に会ってみたいなぁ

 。こんなに騒がしくても良かったら、一度家族全

 員で遊びに来たらどう?」

「そうしたいのはやまやまなんじゃが、一応わしら

 は神として祀られとるからのう。その地を守らね

 ばならぬ故、皆で離れる訳にはいかんのだ。」

「そっか。神様も大変なんだね。旦那様も奥様も神

 の位が高いし、古くから祀られている由緒正しき

 お稲荷様だからね。」

「そう神様だとか位が高いとか言わんでくれ。わし

 らは位や古くから祀られとる事は気にしとらん」

「そんな事言ったって、調べたら天狐様が九尾の最

 高位だったから旦那様は八尾、奥様は七尾でしょ

 。尾が多い程、位が高いって書いてあったもん。

 充分位の高い立派な神様だよ。だから祀られてる

 んだしお祭りだってあるんでしょう。少しは気に

 しないと!」

「じゃが、やはり神や由緒正しいなぞ言われるのは

 苦手じゃ。祀られておる以上守るが堅苦しいのは

 好かんのだ。わしらは人間が好きなんじゃよ。人

 間と共に笑い、楽しみたい。」

「堅苦しいって…。神様の言うような事じゃないね

 。でもそう思ってもらうのは嬉しい。偉そうにさ

 れるよりフレンドリーな今のお稲荷さん達の方が

 私も大好きだよ。しかし守ると言いながらちょく

 ちょく神社を離れてウチに遊びに来てるんだから

 神様でも不良神様だね。」

くすくす笑いながら言うと、旦那様も可笑しそうに声を出しながら笑った。

「はっはっは、不良神様か。気に入ったぞ。やはり

 楓子は面白いし一緒におって楽しいのう。」

「私もお稲荷さん達と一緒にいると楽しいし大好き

 。それにお稲荷さん達の尻尾は真っ白でキラキラ

 してて凄く綺麗だよね。ふわふわで柔らかいから

 触ると気持ち良いの。ねぇ、子狐さん達の尻尾も

 同じ?」

「ああ、小さいけどな。」

「触ってみたい!そうだ、帰る時に丁度買って来た

 いなり寿司を持って帰って。奥様と子狐さん達に

 私からもよろしくと言ってたと伝えてね。旦那様

 の分もちゃんとあるから。いつか子狐さん達に会

 いに行くよ。」

「是非遊びに来てくれ。小狐達も喜ぶじゃろう。」

旦那様と話し終え、夕飯を作ってくるねと立ち上がり台所に向かう。

 一人立っていると、チビ軍団がまた足下に戯れついてきて離れない。

「コラッ、人の身体をよじ登らないの!木じゃない

 んだから。って背中に抱きついてるのは誰?ご飯

 が作れないじゃない。」

身体中にくっついているチビ達を無理矢理引き剥がして、台所から追い出した。

「あーもう。作る気無くなっちゃったじゃないのよ

 。…簡単な物でもいっか。」

 おひたしを作っていると、この間のカーナビのチラシを持った一反木綿が珍しく自分から話しかけにやって来た。

「なぁ小娘、仲間と色々話したんじゃいが妖力って

 何じゃい?」

まさかばぁちゃんがしてきた質問を妖怪自身から問われるとは思いもしなかったので絶句する。

「妖力ってモンは、何からできとるんじゃい?おい

 小娘、聞いとるんじゃい?」

「えっ?あぁ聞いてる、聞いてる。え、えーと妖力

 っていうのは霊力と同じみたいに特別な力で、と

 ても凄い事が出来る力…だと思う。」

しどろもどろに曖昧な答えしかできない。私もよく分からず、心臓がドキドキし始めた。一反木綿は首

(?)を捻りながら

「特別な力って何じゃい?凄い事って何じゃい?ど

 んな事が出来るんじゃい?」

「私が子供の頃に観ていたアニメでは、強くなった

 り別の姿に変身したり困っている人間が助けを求

 めたら他の妖怪達と協力し合って、悪物退治して

 くれて人間の味方をしてくれる頼もしいヒーロー

 だったんだけど…」

「何じゃい、それは⁉︎ワシらは人間を驚かす事はし

 ても悪者退治をしたり助けたりせんじゃい。それ

 に悪者って何じゃい?」

《アンタみたいな奴よ!》

「悪者は忘れて。その他の事は…うぅ、そうかもし

 れないけどさ…」

《分かってるから、それ以上突っ込むんじゃないわよ。バカふんどし妖怪‼︎》

ほぼ八つ当たりだと自分でも思う。それでも、 

「でも人間を驚かせる時とか他の物に化ける時に不

 思議な力を使うんじゃないの?そういうアンタだ

 って少しは妖力みたいな力で飛んでウチに来てる

 んじゃないの?」

「うんにゃ、風に乗ってココまで来とるだけじゃい

 。妖力とやらなんぞ使っとらんし持ってもおらん

 じゃい。」

「えっマジで⁉︎ただ風に吹かれながら来てるの?し

 かしアンタは持って無くても他の妖怪は持ってる

 んじゃない?」 

「化けるのに妖力とやらは必要無いじゃい。化ける

 妖怪もそうおらんし、驚かすのに何故わざわざ化

 けにゃならんのじゃい。」

「そりゃそうだけど…。ほんのちょっと、ほんの少

 して良いから不思議な力とか持ってない?」

ちょっとした期待を込めて聞いたのに、ふんどし妖怪はあっさり打ち砕いた。

「何を言っとるんじゃい。お稲荷ならまだしも、ど

 の妖怪にもそんな力なんぞ無いじゃい。」

「いやぁ〜、嘘でしょう⁉︎」

「お前に嘘吐いてどうするんじゃい。持っとらんも

 んは持っとらんのじゃい。」

「小さい頃すごく憧れてたのにぃ。私の中で一番の

 ヒーローなのにぃ。悪者退治する姿が格好良いの

 にぃ。」

《憧れのヒーローが、音を立てて崩れていくわ。そりゃアニメだから現実とは違うけど夢見ても良かったじゃないよぅ》

がっかり項垂れている私を無視して、

「ところでお前が言ったアニメとは絵物語の事じゃ

 い?だったらその絵物語を描いとる者が嘘吐きな

 んじゃい。」

一反木綿の一言で一気に怒りが込み上がってくる。

「はぁ⁉︎今の言葉、聞き捨てならないわね!私の尊

 敬する大先生はね本当は凶悪ふんどし妖怪のアン

 タを百万倍以上に良い妖怪な描いて下さったのよ

 。今すぐ大先生に謝りなさい‼︎さもなくば今から

 火にくべてやる!」

「何故ワシが謝らんといかんのじゃい。それから、

 ふんどしと言うなと何べん言えば分かるんじゃい

 この小娘は。」

「ふんどし妖怪をふんどしと言って何が悪いのよ。

 いいから謝れふんどし妖怪!」 

「ふんっ、嫌じゃい。それよりワシを良い奴に描い

 とるんじゃいな…。なかなか分かっておる人間じ

 ゃい。その絵物語を見てやろうじゃい。持ってこ

 いじゃい。」

「何、偉そうに上から目線なのよ?見せて下さいで

 しょ!アンタって本当に腹が立つ奴だわ。チッ、

 突風に流されて電線に引っ掛かるかどっかに飛ば

 されて迷子になれば良いのに…。」

舌打ちして忌々しく言った。

「何か言ったんじゃい?とにかく早く持ってこいじ

 ゃい。」

「えっ、ちょ、ちょっと!」 

ポイッとカーナビのチラシをその場に捨てて、さっさと部屋に戻ろうとしている一反木綿を呼び止める私の声も虚しく、あっという間に姿が見えなくなる。

《あぁ、今日夢が一つ壊れてしまった…。アイツ、いつか燃やしてやる!谷口さん、妖怪に会ってもこんなもんですよ》

















































































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