第9話

あぶジィと話している間にもテレビの中では、ますます唾を飛ばし合いながら激しい口ゲンカをまだ続けていた。そして、ついに一人の大学教授らしきおじさんが「証拠を見せろ」とかなんとか怒鳴り始める。

「あーあ、ほら出た。こういうおじさん達に限って

 必ず証拠を見せろって言うのよ。頭でっかちの偉

 い教授様方の決まり文句っていうやつ。証拠、証

 拠って言い出すから嫌いなのよ。こんなみっとも

 ないのヤダ。」

《あぶジィ達妖怪の方がよっぽど尊敬できるわ》

「本当に証拠見せたら納得するのかな?見せても絶

 対ごちゃごちゃ難癖つけて認めないんでしょうけ

 どね。結局、人間達は自分達を正当化しようとす

 るから案外あぶジィの言う通りかも。」

「ふむ。」

「私だったら科学が万能って言い切ってるこのおじ

 さんに、ご自慢の科学で本当にいない証拠を見せ

 てよって言うわ。」

「…無理じゃろうな。」

「うん、分かってる。でもね、いる証拠を見せろと

 言うならいない証拠も見せなきゃフェアじゃない

 と思って私は腹が立つの。世の中には説明できな

 いモノの方が多いじゃない。今、あぶジィと暮ら

 して一緒にお茶を飲んでる私は何なのかしら?」

考え始めたあぶジィに笑いながら更に言った。

「宇宙人だろうが妖怪だろうが、もし実際に会った

 らどうするんだろうね?」

「否定しつつも怖いモノ見たさがこやつらにもある

 んじゃないか。」

「怖いモノ見たさかぁ、あるかも…」

観るのに嫌気が差してテレビを消した私にあぶジィが笑っているように答え、お茶を啜る。

「信じないけど見たい、…矛盾してるけどね。」

「人間、そんなものだろう」

「宇宙人や幽霊で大騒ぎするなら私は一体どうすり

 ゃ良いんだろう?そりゃ、最初は我が目を疑って

 とても驚いたし本やネットで妖怪について調べま

 くったけど…。それは姿形にビックリしたからだ

 よ。怖いと思った事は一度も無いわ。」

「ほう。」

「実は幻覚かも知れないと思ってた時期もあったけ

 ど、今はもうヘンテコな姿してるだけで皆んな一

 緒だと思ってるんだよね。私もあぶジィも他の連

 中も皆一緒。時と共に人間のすぐ側にいて一緒に

 過ごしてきた一番近い存在というのが私の出した

 答えだよ。」

「それで良い」

「うん。正解があるかは知らないけど、もし誰かに

 聞かれた時は私はそう答える。」

あぶジィは深く頷いた。それを見た私は何だか満足して立ち上がる。

「さてと、今日はどんな連中が来るのやら。何の茶

 菓子を用意しとこうかなぁ。あぶジィは何が食べ

 たい?」

「どら焼き。それと油が切れた」

「やっぱり。そろそろだと思ってたんだよね。」

あぶジィは、いつも「油」と書かれた大きな徳利を腰にぶら下げている。その徳利の中の油が無くなるとこうして油を催促するのだ。しかし徳利の中の油を一体何に使っているのかは、私は知らない。

「どの油にする?」

「オリーブオイル」

「最近そればっかだけど、前のラー油はどうしたの

 ?」

「あれは辛い」

「ありゃりゃ、あぶジィは辛いのダメなんだ。じゃ

 あ、これからは辛そうな油は止めとくね。オリー

 ブオイル持ってくるから少し待ってて。う〜ん、

 どら焼きは買い物の時に買おうかな。貰い物のカ

 ステラがあったと思うんだけど、全部食べちゃっ

 たような気がするし…。皆んな変にグルメだから

 なぁ。あっ、昨日に一反木綿が何か持って来たよ

 ね。あれは何だろう?」

ブツブツ独り言を言いながら部屋を出て行く私の背中を見つめ、あぶジィが小声で何か言ったような気がしたけど気のせいかもしれない…。

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