第8話

本当にウチには全国から色々な妖怪がたくさんやって来る。

私も最初の頃はビックリしていたけど、みんな「ご当地グルメ」ならぬ『ご当地妖怪』なのだ。

ほぼ毎日やって来る一反木綿は鹿児島の妖怪だし鵺は京都の妖怪。小豆さんは全国どこにでも現れる。川男は岐阜県で、昨日来たずんべら坊は青森県の妖怪だ。キジムナー達は沖縄県の妖怪、せこ達は大分県の妖怪だったりする。

また全国いる妖怪達にも出身地があり、あぶジィだって私の住む地元天草の妖怪。

本当に皆さん遠い所からわざわざ毎日よくおいでなさいますねと時々感心してしまう。

遠い所から来る訳だから、少し位は敬意を表した方が良いのだろうか?

《そう考えるとふんどし妖怪は、毎日鹿児島県からヒラヒラ飛んで来てあぶジィに会いに来てるって事よね?うわぁ、人間には絶対無理!一方的な片思いだけで毎日来るとは、もはやアイツの執念深さを感じるわ…》

やっぱりストーカーだと薄気味悪くなったが、余計な事を言うとまた鬱陶しいので何も言わずにいようと決めた。

そういう訳でウチに全国各地から大勢の妖怪達が訪れるので、いつも他の場所に集まれと口を酸っぱくして言い続けている。

忘れていたが、カーナビの件も私の不満から始まったのだった。


さてどうしたものかと悩んでいる私に、ばぁちゃんが何気なく聞いてきた。

「楓子は妖怪をおるかおらんか考えたこつあるね?

 驚いたり怖かと思わんと?」

「突然ばぁちゃん何ば言い出すとね?あるかおらん

 かなんてそがん事一度も考えた事なかよ。第一ウ

 チにはあぶジィおるし。おらんかったとしても、

 おるかおらんか考えんね。」

「なして?」

「私は見える見えん、おるおらんで物事ば判断せん

 もん。妖怪はおって当たり前やと思っとる。ばぁ

 ちゃんは?」

「ばぁちゃんもそがん思うとる。」

「やろ?まぁね、毎日ウチに来るけん余計そがんと

 考えんとやばってんさ。いちいち、おるとかおら

 んとか考えとられんばい。もし考えとったら、毎

 日私が会っとるとは誰やっと?ってなるもんね。

 姿形が変で、驚く事はいっぱいあるばってん怖く

 はなかね。」

「そうかもしれんねぇ。」

「元々、姿形がちょっと…いやかなり変わっとるだ

 けやし怖がる者じゃなか。怖かとか言うなら、生

 きとる人間の方がよっぽど怖かよ。それに他にも

 怖かモンならいっぱいあるやん。そいがどかんし

 たとね?」

「ん〜、だけん楓子は妖怪に気に入られとるとやね

 ぇと思ってさな。」

私の言葉に満面の笑顔で、ばぁちゃんは二杯目のお茶を湯呑みに入れてくれながら言う。

「それに妖怪限定のモテ期やもんねぇ。」

「いや、だけんがさぁ妖怪にモテたくなかって!」

「楓子、あんたはずっとそんままでおりなっせ。」

「何それ?話が全然分からんとやけど?」

「今は分からんちゃよかと。その内自然と分かるよ

 うになるけん。」

ただばぁちゃんは笑うだけ。

カーナビや妖力の話などすっかり忘れてばぁちゃんと二人、煎餅を食べながら話に花を咲かせて昼頃にウチに帰った。


帰ってみると、いつも通りあぶジィがテレビを観ていた。

《ばぁちゃん、テレビば食い入るように観入っとる妖怪の背中ば見て驚いたり怖がれって言われても無理ばい…》


驚くけど、本当に怖くはない。それに妖怪といえど、みんな一緒ではないから。それぞれ性格も違うし個性だってちゃんとある。人それぞれと一緒で妖怪もそれぞれ。寿命があるのか知らないけれど、命ある存在で共に生きている仲間だと私は思っている。見ていて面白いから全く飽きないし、実際今目の前でウキウキ、ワクワクしながら夢中でテレビを観ている背中を見ながら笑いたくて仕方ない。それを必死で堪えて、一生懸命噴き出すのを我慢しているのだから。

《ドキドキ、ワクワクしているのに丸い猫背に、もの凄く哀愁が漂っている姿はもう愛くるしい以外の何ものでもないって!あぁ、この姿がばぁちゃんにも見えたら良いのに…》


笑いが収まってあぶジィが観ている番組をチラッと観ると超常現象や宇宙人の存在について有名大学のお偉い教授やその手の専門家達など、とにかくいい歳したおじさん達が口ゲンカしているよくある番組の再放送だった。

「あぶジィにしては珍しい番組観てるんだね?」

あぶジィの前に湯呑みを置きながら、また番組に目を向ける。丁度、宇宙人は存在するか否かを真面目な顔して口論していた。

「くだらなーい。おじさん達が集まって宇宙人の事

 言い争うなんて。まるで子供のケンカみたい。も

 っと他に議論すべき大切な事がいっぱいあるでし

 ょうに…。情けない。」

「だから人間は面白い。」

湯呑みを持ちながらテレビから目を離す事なく、あぶジィが久々に返事をしてくれる。

《あら、普段は頷くか首を振るかでしか返事しないのに珍しいな》

「そうだね。宇宙人がいるか、いないか口ゲンカし

 ている人間達は確かに面白いね。わざわざそんな

 事を顔を真っ赤にしながら怒鳴り合うのは人間だ

 けじゃないかな。あぶジィ達妖怪はする?」

「しない」

「アハハ、即答されちゃった。そりゃそうだよね、

 あぶジィ達は大昔から色々な物見てきてるだろう

 し。妖怪がいるんだから宇宙人も幽霊もいてもお

 かしくないもんね。」

今度は頷いて返事をしてくれた。

「私いつもこういうの観ると、思うんだよね。地球

 って小さな惑星にこれだけたくさんの生き物がい

 るんだよ。他の惑星にはもっとたくさんの生き物

 がいても不思議じゃないって。」

「そうだな」

「むしろ、いない方が不思議だわ。宇宙ってだだっ

 広いじゃん。だから人間が知っている事もほんの

 一部に過ぎないと思うの。宇宙人って言うなら人

 間も立派な宇宙人だよ。」

お茶を啜りながら、テレビに映っているおじさん達にうんざりする。

《子供のケンカみたいな口ゲンカしているのが大学のお偉い先生方なんて、今後の日本の教育に未来は無いわね》

「宇宙人が宇宙人はいるか、いないかを言い争うの

 って物凄く変‼︎じゃあ自分達は誰なんだと言い合

 ってるのと同じなんだもん。別に他の宇宙人がい

 ても良いじゃない。それとも他に宇宙人がいたら

 マズいのかな?」

「怖いんじゃろ」

「何で?」

「自分達に理解できん者や得体の知れん者を受け入

 れきれんのじゃないか。幽霊も怖がるしな。」

「いやいや、そうおっしゃられると人間も充分得体

 の知れない者ですよ。幽霊だって元は人間なんで

 すから。」

「人間は目に見えて、初めて信じる。だから幽霊が

 視える人間は幽霊を信じとるが、視えん者は信じ

 らん」

「そう言われるとそうだね。」



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