第7話
十九歳の時に両親と双子の兄を交通事故で亡くして以来、ばぁちゃんだけが私の唯一の家族。八十二歳の高齢なので、何度も一緒に暮らそうと説得しても頑として首を縦に振ってくれない。それどころか、いつもあっさり断られ続けている。
どうしてこんなに嫌がるのか私は分からないでいる。ばぁちゃんにはあぶジィの事は話しているし、ばぁちゃんも姿は見えないけれど何やら感じるらしい。
一度あぶジィは良いとして、訪ねて来る妖怪達は来れないようにするから同居しようと言ったらもの凄い剣幕で怒られ「そがん事したら縁ば切るけんね‼︎」とまで言われた。
それ以来、妖怪達が来ても追い出さないからと同居話を言っては振られ続けているのだ。
「だけんね、カーナビとかって妖力でも使えるとか
な?散々皆んなで話し合ったんやけど結局答えが
出んかったとよねぇ。ばぁちゃんは、どかん思う
?」
私の家のすぐ近所に住んでいるばぁちゃんちに行き、昨日妖怪達と議論し合った事を話しばぁちゃんの意見も聞いてみる事にしたのだ。それに何故かばぁちゃんと話す時は、普段あまり言わない方言が自然と出てきてしまう。
「カーナビって何ね?」
「うわっ、ばぁちゃんまで妖怪達と一緒の質問ばし
てきよった。えっと、あんね簡単に説明ばすると
カーナビっちゅうとは車に付いとって行きたか場
所まで案内はしてくれる機械の事やっとよ。」
「ほぉ、世の中便利な物があっとねぇ。そいで楓子
の聞きたか事って何やったかいな?」
「だけんが、そのカーナビってやつは車のエンジン
で動くと。それば妖怪か動かすとに妖力がエンジ
ンの代わりになるとか聞いとるとやっかな。分か
った?そんでばぁちゃんはどかん思うね?」
昨日、毎日団体様でやって来る妖怪達にいつもウチにばっかり集まられてはたまらないとカーナビでも使って別の場所を探して、そこ集まってくれと頼んだ。すると妖怪達からカーナビとは何だ?と質問されたのだ。私もよく知らないけれど、知っている限りのカーナビ説明をしたところ、また来ていた新しい物が大好きな一反木綿がやたらとノリノリで食い付いてきた。そこでカーナビが載っているチラシを渡してやった。すると一人「何じゃい、何じゃいこれは?」と更に大興奮する。
しかしここで、一つ問題が発生。
カーナビは車のエンジンか何かで使えるけれど、エンジンの様な力を持っていない妖怪達はどうすれば良いのかと話し合いが始まり皆んなで一生懸命考えてみた。そこで私が、
「妖怪ってみんな妖力ってモン持ってるんじゃない
?その妖力ってやつをエンジンの代用として使っ
てみれば良いんじゃないかな。エンジンの力と妖
力じゃ全然違うけど、力って所は一緒なんだしど
うかしたら使えるかもよ?」
提案してみたものの私の言う妖力ってヤツは何なのか、持っているか正直分からない。持っていたとしても本当に使えるのか、あちらこちらから妖怪達からも疑問や不安の声が挙がっている。それは誰もやった事が無いし妖力を持っているか皆んなも知らなかった。
そもそもカーナビは誰が買うのかと長い間全員で真剣に考え、意見を出し合いながら白熱した議論を繰り広げたが答えは出ないままお開きとなってしまった。
丁度今日は仕事先が休館日で休みだったので、ばぁちゃんだったら私達よりちょっと位良いヒントを知っているような気がした。何か良い事言ってくれるかもと期待しながら今こうしてばぁちゃんの家にいるのだ。
「ばぁちゃんもよう分からんけど、使えんと思う。
なぁ、楓子の言う妖力って何や?」
まさかの質問にドキッとする。それから自分でも妖力って何だろう?と、う〜んと唸りながら改めて考え始めた。
長い間腕組みしながら自分なりに考えた結果、
「何というか…ほら、色々な姿に変身するとか敵が
来たら気の塊みたかモンば作って倒すとか…」
私の苦しい考えに、ばぁちゃんは呆れた顔をしながら
「妖怪は何の力もいらんで色んな姿になれるし出来
る者もおるやろ。敵やら気の塊って何やソレ。楓
子、テレビの観過ぎじゃなかか。」
《子供の頃大好きで欠かさず観とった妖怪のアニメでは、主人公はそうやって悪さする妖怪ば退治しよったんやけどなぁ。確か妖力っぽいモンも持っとったし…。あれ、妖力やったかな?それとも霊力やったっけ?さすがにうろ覚えやわ》
「のぅ、妖怪は妖力ってヤツば持っとるとかい?」
「…分からん。」
「話にならんやっか。」
《そんアニメば観て妖怪達はすごか力ば持っとるって信じとったんやけど…。自信無くなったばい》
落ち込んできて黙ってしまった私に、ばぁちゃんはある提案をしてきた。
「地図ば見せたらどがんやろか?」
「ばぁちゃん、全国津々浦々の妖怪が来るとばい。
どかん地図ば見せればよかとね?それに地図なら
ずっと前に見せた事あるとよ。やばってんそん時
アイツらときたら地名が昔と違うし変わっとるけ
ん読めんって言ってさっぱり分からん、古地図は
見せろって言うてそん地図ば投げ飛ばしたやっけ
んね!」
《人がせっかく用意したとに。そん態度に腹立ったけんが、妖怪達の頭ば放り投げた地図で一人ずつ思いっきり叩いてやったばい》
嫌な事まで思い出し不貞腐れる私の向かい側で、ばぁちゃんはフフッと笑いながら楽しそうにお茶を啜る。
「本当は油すましじゃのうて楓子に会いたかけん来
る妖怪もいっぱいおるとやろうねぇ」
「あぁ、それはなか、なか。来てくるいとはニ、三
人位なもんばい。」
「分からんぞ。楓子は妖怪達に気に入られとるし好
かれとるとばぁちゃんは思っとるばい。この間、
テレビでありよったモテ期ってやつやろ。」
「はぁい⁉︎モテ期て好かれとるとが妖怪だけって全
然嬉しくなかとですけど。どうせなら人間の男性
モテたかわ。」
「妖怪にモテるとは凄か事やっか。誰も経験できん
とやっけんな。もっと喜びなっせ。」
「…」
《喜べと言われてもねぇ…。何とも言えん複雑か気持ちですばい、ばぁちゃん》
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