第6話

鵺がカフェオレをおかわりしそれぞれが満足してまったりとした雰囲気が漂っている中、以前から不思議に思っていた事を聞いてみた。

「他の妖怪達もそうだけど、アンタ達は何故わざわ

 ざ遠い所からあぶジィを訪ねて来るの?あぶジィ

 ってそんなに偉い妖怪なの?」

「妖怪に偉いも何もないが、油すましは何でも知っ

 とる博識だべし。それにちゃんと最後まで話を聞

 いてくれた後必ず答えてくれる良い奴だべし。」

鵺の言葉に川兄弟も小豆さん、人一倍一反木綿が頷く。

「わしらは楓子に会いに来とるがのぅ」

お稲荷さんご夫婦はお互いの顔を見ながら笑顔で言う。

「それに、ココはすごく落ち着く…」

珍しく小豆さんが返事をして、その言葉にまた川兄弟と鵺が頷いた。

「そう?どうもありがとう。だけどさぁ、皆んなそ

 れぞれ暮らしてる場所はバラバラでしょ?来るの

 大変でしょうに…」

「何で何でとうるさい小娘じゃい。どこから来よう

 が良いじゃろい。来たいから来とるだけじゃい」

「アンタ、じゃあじゃあうるさいわ!あぶジィに構

 って欲しいだけのくせに。しかも食べ物で態度が

 変わる妖怪ってどうかと思うわ。」

「食い物に釣られてとらんじゃい。」

「ほぼ毎日来てるのってアンタだけなんだからね。

 鹿児島の妖怪でしょうが。あーあ、鹿児島にもい

 っぱい妖怪がいるのに…」

「何じゃい?ええじゃろがい。」

「嫌よ!毎日来るってどれだけあぶジィの事大好き

 なの⁉︎そんなに構って欲しい訳⁉︎それとも何、あ

 ぶジィに憧れてるの?アンタにとってアイドルな

 の?えっ、追っかけ⁉︎」

「う、うるさいじゃい!ワシは油すまし殿を尊敬し

 とるだけじゃい。」

「崇拝の間違いじゃないの?」

ふんっと一反木綿が赤くなりながらそっぽを向く。その様子に鵺やお稲荷さん達が、プッと吹き出した。

「アンタ何、恋する乙女みたいに恥じらってるのよ

 。気持ち悪っ‼︎」

「気持ち悪いとは何じゃい、気持ち悪いとは!」

「いちいちあぶジィに構ってもらわなくても地元の

 妖怪と集まったり話をすれば良いじゃない。それ

 とも地元の妖怪にも嫌われてるの?」

「にもと言うなじゃい!ワシは嫌われとらんじゃ

 い。ワシは鹿児島の妖怪達の代表として、いつも

 来とるんじゃい。」

「ふ〜ん、そう思ってるのはアンタだけだったりし

 てね。それに他の鹿児島の妖怪達もかわいそう。

 ねぇ?」

と鵺と川兄弟、小豆さんに話を振ると皆んな一様に頷く。お稲荷さん達など大爆笑している。

「何故じゃい?」

「だってアンタが鹿児島の妖怪達の代表だと他の妖

 怪達まで印象悪くなって誤解されちゃうじゃない

 。これ以上かわいそうな事ないわ。」

「どういう意味じゃい?」

「アンタ、すっごく鬱陶しくて面倒臭い。何かとし

 ゃしゃり出てきて、文句ばっかり言うし突っかか

 ってきて酔っ払いみたいにしつこく絡んでくるじ

 ゃん。いつも相手するの嫌でたまんないもん。こ

 んなんが鹿児島代表より他の妖怪がいいなぁ。豆

 腐小僧とか。」

「な、な、なんじゃいとー‼︎」

「ねぇ、豆腐小僧を鹿児島代表にしてよ。あの子謙

 虚だし素直で人の話ちゃんと聞くしさ。だから明

 日から交代。アンタはもう来なくて良いから。」

「ふんぬぅ〜、小娘が好き放題言いよってからじゃ

 いに。意地でも代表として毎日来てやるわい!」

「ほら、そういう所がウザくて面倒臭いのよ。別に

 代表なんて決めてないんでしょ?勝手にアンタが

 言ってるだけだって気付きなさい。あ〜あ、アン

 タ以外の妖怪が良いわぁ。」

「ふんっ、ワシは油すまし殿に会いに来とるだけで

 あって小娘に用は無いじゃい。」

「私もアンタに用は無い。それにあぶジィが暮して

 いるのは私のウチなんですけど?ところで、もし

 あぶジィに何か変な事したら許さないからね!」

「変な事って何じゃい、バカ者じゃい‼︎」

「アンタって人間で言うと完全にストーカーね…」

喚くふんどし妖怪を疑わしい目で見た。そしてあぶジィに、

「あぶジィ、コイツには充分気を付けて!このまま

 だとますますしつこく付きまとわれるから。もし

 何か変な事言われたりされたりしたらすぐ私に教

 えてね。その日のうちにアイツを出入り禁止にす

 るからさ。」

あぶジィがお茶を啜りながら頷くと一反木綿は急にオロオロと動揺し始め挙動不審な動きをしながら狼狽え、今にも泣きそうな声で「油すまし殿〜」と何

度も名前を呼び続ける。一反木綿の情けない姿を見ながら妖怪達は指差しながら口々に、

「ほれ、一反木綿の負けだべし。」

「また負けたにょ」

「負けたにょ」

「楓子、強い。」

お稲荷さんご夫婦もまた大笑いしながら

「やはり面白い人間じゃのう、楓子は。」

「そうですねぇ、お前様。ココはいつ来ても飽きま

 せぬ。」

あぶジィは黙ったままだ。

皆んなでたくさん楽しくしゃべって、妖怪達とお稲荷さん達が帰ったのは夜明け前頃だった。

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