第5話
まずあぶジィの前にお茶を置き、次にお稲荷さんご夫婦それぞれに油揚げを載せたお皿を置いてからあぶジィの横に座る。
「いただきまーす」
手を合わせて夕飯を食べ始めると、油揚げを一口ずつ食べていたお稲荷さんの奥様がアレは?という風にちょいちょいとある物を手で教え、
「楓子や、一反木綿はずっとあのままにしとくのか
え?」
「えっ?あぁ、忘れてた。でもまぁ、別に夕飯が終
わるまでアレで良いんじゃない?でないとまた、
ギャーギャーうるさいし。夕飯くらいは静かに食
べたいもん。」
「本当に良いのかえ?」
「良いよ。食後のお菓子食べる時に解くから。気に
しないで良いって。」
すっかり川兄弟のおもちゃになって遊ばれながら、ずっとモゴモゴ文句だろうが未だに何かを叫んでいるらしい巻物をチラッと見て言った。奥様もそれならばと頷き、また油揚げを嬉しそうに食べ始める。あぶジィは何も喋べる事無く、いつも通り静かにお茶をすすっていた。
三十分後、夕飯を食べ終え「ごちそうさま」と手を合わせる。お稲荷さん達の食べ終わったお皿もお盆に載せて、台所で食器を洗い終わると皆んなに
「ねぇ、川兄弟と鵺と小豆さんは何飲む?」
と尋ねると、川兄弟はそろって「水」鵺は「いつもの」小豆さんは「要らない」と答えた。
鵺の言う「いつもの」というのはカフェオレの事。小豆さんは小豆を数えるのに一生懸命のようだ。
それぞれのリクエストと芋ようかんをまたお盆に載せて持ってくると、川兄弟の前にそれぞれ水の入ったコップを渡し、座って待っていた鵺の前にマグカップを置く。
そして遊ばれ続けていた巻物をやっと解放してあげると案の定食ってかかってきた。
「こんな仕打ちは初めてじゃい!何という不躾な小
娘なんじゃい。親の顔か見てみたいわい。それに
…」
「あー、うるっさいなぁ。親の顔見たけりゃ今すぐ
三途の川渡って、気が済むまで見て来れば良いじ
ゃないの。」
「なんじゃとぉー‼︎」
「解いた途端、喚き散らしてうるさいし鬱陶しいの
よ。アンタって本当に最悪なふんどし妖怪ね。」
「ふんどし、ふんどし、言うなじゃい!」
「ふんどしをふんどしって言って何が悪いのよ?せ
っかくあぶジィと同じお茶を用意したのに無駄だ
ったわ。」
「たがら油すまし殿をあぶジィなどと呼ぶなといつ
も言っとるじゃろがい!口の利き方も知らんバカ
者じゃい。」
「あっそう。じゃあやっぱアンタだけお茶も芋よう
かんもナシね。」
「い、芋ようかんじゃと?いや待て、待て。ゴホン
!今日のところは見逃してやるじゃい。じゃが、
次こそ命は無いと思えじゃい。」
「はぁ〜、はいはい。アンタいつも同じ事しか言わ
ないのね。」
解いた時は顔(?)を真っ赤にして、唾を飛ばしながら怒って文句ばっかり早口で捲し立てていたのに何だろうか…。
《芋ようかんで態度がコロッと変わるふんどし妖怪が一番バカで単純じゃないの⁉︎》
私は深々とため息を吐く。気分を変えて、明るく
「今日はねあぶジィがずっと食べたがってたからお
取り寄せ注文してた芋ようかんがやっと届いたん
だよ。今切ってあげるから待ってて。」
そう言うとあぶジィには少し大きめに切り、後はちゃっかりあぶジィの隣を陣取っている一反木綿と自分の分を切り分けた。
「さぁ、召し上がれ。」
川兄弟は水を飲みながら呟く。
「ここの水はうまいにょ」
「うまいにょ」
《ごめん…いつも川兄弟が飲んでる水は、ただの水道水なんだよね》
川兄弟の横で鵺が幸せそうにカフェオレを飲んでいる。一反木綿はというとあぶジィに何かと話しかけ、あぶジィはようかんを食べながらたまに頷いたりしていた。
《ありゃ、多分あぶジィ全然話聞いてないわ。適当に相槌打ってるだけ…》
ほんのちょっびっとだけ一反木綿が可哀想に思いながら、私も芋ようかんを口に入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます