第4話

つい力説しまったのでちょっと照れてしまった私は、それを隠すように立ち上がって

「さてと、ふんどし妖怪のせいで遅くなっちゃった

 けど着替えて夕飯でも作りましょうかね。あ〜、

 お腹空いたぁ。あっ、油揚げがあったんだっけ。

 後で持ってくるね。」

自分の部屋へ行き、部屋着に着替えるとその足で台所に向かう。そして「よしっ」と気合いを入れて夕飯の支度に取り掛かった。

一人暮らしだと出来合いの物やお惣菜で済ます事が多い人が多いかもしれないが、「栄養が身体の基本なんだから、バランス良く食べなきゃダメよ!」と小学生の頃から母に料理を教えられ、私自身も作るのが好きなので遅くなった時以外は自炊するようにしている。

 ばぁちゃんが漬けた沢庵を切っていると、洋服の裾をチョイチョイと軽く引っ張られ、

「ん?」

と振り返っても誰もいない。すると、また裾を引っ張られて

「楓子、ここだよ。」

精一杯背伸びして、上着の裾を掴んでいる小豆さんがいた。屈んで小豆さんと同じ目線になると、小豆さんは「手を出して」と言い

「楓子、これこの間分けてもらった小豆。返す。あ

 りがとう。」

私に小豆を渡すと、ペコッと頭を下げてそそくさと部屋に戻ってしまった。

渡された小豆は三粒。

小豆さんは、やたらと小豆の数にこだわる妖怪だ。どうやら小豆さんの中では、洗う小豆の数が決まっているらしい。その為一粒でも足りないと取り乱し大パニックを起こす。

この間来た時、普段は大人しく部屋の隅で小豆の数を夢中で数えている小豆さんだが、三粒だけ小豆が足らず泣き叫んだのだ。その時来ていた妖怪達と一緒にあちこち探し回ったが見付からず、しまいにはその場にしゃがみこんで小豆さんは大声で泣き出し始めてしまった。妖怪達が一生懸命宥めても、ますます大声で泣くばかり。私はふと、長い間台所の戸棚にしまいこんだままの小豆の事を思い出し急いで小豆さんの手に小豆を乗せると、今まで手がつけられない程大泣きしていた小豆さんはピョンピョン飛び跳ねて大喜びしたのだった。

 その時に手渡した小豆三粒を今、律儀に返してくれた上「ありがとう」と頭まで下げるなんて…と私は小豆を握りしめながら感動でいっぱいになり涙ぐむ。

「そうよ、そうなのよね。やっぱり妖怪だろうが人

 間だろうが『ありがとう』って言うのは大切なの

 。それに比べて他のボンクラ共といったら…腹立

 つわ!」

《それにしても小豆さんったらいつ見ても超可愛い‼︎ちっちゃくて、ちょこちょこ歩く姿や満面の笑顔で小豆を夢中で数えている様子とか見たら、思わず、もきゅつて抱きしめたくなっちゃう。お願いしたら抱っこさせてくれないかしら?あぁ、心が癒されるわぁ》

小豆さんのおかげでほくほく顔になった私は、シンプルな豆腐とわかめのお味噌汁とアジのみりん干し、炊きたてご飯、お稲荷さん達の油揚げ、あぶジィと自分のお茶をお盆に乗せて部屋に戻って来た。

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