第3話

巻物になった一反木綿を転がしたりつついたりして遊んでいる川兄弟の言葉に呆れる。そして、思わずあぶジィに妖怪達を指差しながら

「気分って・・・。あぶジィ、コイツらバカなの?

 ねぇ、バカなの⁉︎」

巻かれてもがいているふんどし妖怪に、寝っ転がってテレビを観ている鵺に、遊ぶのに飽きて体育座りでただ座っている川兄弟。

《オイオイ、首を傾げちゃったよ、あぶジィ...》

ガクッと肩を落とした私を見ながら一連の様子を笑って見ていたらしいお稲荷さん達は

「一反木綿をふんどし妖怪呼ばわりして、本気でケ

 ンカしたり妖怪達をバカなのかと言えるのは、や

 はり楓子しかおらんなぁ。妖怪にケンカを売れる

 人間は、そうそうおらんぞ。」

「楓子は、ほんに面白い人間よのぅ。ねぇ、お前

 様」

コロコロ笑い合う。しかし私は不服な顔をして言った。

「誤解だってば!私はいつも売られたケンカを買っ

 てるだけだよ。いつもケンカ売ってくるのは、こ

 の鬱陶しいふんどし妖怪の方なの。私だっていつ

 もは平和主義者で争い事は好きじゃないんだから

 ね。」

「ふふ、妖怪を見ても怖がったり驚いたりせず平然

 としておれる人間は楓子だけじゃぞ。わしらも見

 えとるしのう。楓子は、今までの人間達とはちと

 違うな。そこもまた気に入っとる所じゃがな。」

「最初は驚いてたよ。でももう慣れた。っていうか

 あぶジィか初めてウチに来た時から、皆んなよく

 来るようになったし、そこのふんどし妖怪なんて

 毎日来てるんだから。暇なのかやる事が無いのか

 知らないけど迷惑だわ。でもまさか妖怪だとは思

 わなかったのよね。」

「ほぅ」

「それでもビックリする事だっていっぱいあるんだ

 から。でもさ、あぶジィって全然妖怪っぽくない

 んだよ。人間より人間臭いし最近、より生活感が

 出てきてるもん。」

「まぁ、確かに妖怪っぽいとはあまり言えんのう」

「でしょう。ただ見えるモンは見える。だから驚く

 けど怖くないよ。だって幽霊とかじゃないんだ

 し」

横では、また川兄弟に遊ばれている巻物が何やら怒鳴っているが、あえて無視する。

「不思議な人間じゃな、楓子は。だからこそ油すま

 しがここに住みついておるだろうのう。他の妖怪

 達も楓子だから慕っておるんじゃなぁ。」

「私は別に妖怪が見えようが話せようが、自分が特

 別だとは思わない。慕われているのか分からない

 けど、お目当ては私じゃなくてあぶジィの方だ

 よ。」

「そうか?わしらには楓子を慕ってここに来とるよ

 うに見えるがのぅ。」

「それは無いって。しっかし、毎日日替わりランチ

 みたいにたくさん入れ替わり立ち替わりに妖怪達

 がウチに来るのは勘弁して欲しいわ。広いはずだ

 った部屋かすし詰め状態になるんだもの。」

「そんなにここへ?」

「うん。それに皆んなやりたい放題なんだから!こ

 の間なんてせこ達が走り回って障子に足を突っ込

 んで穴開けたんだよ。妖怪だろうが人間だろうが

 やっちゃいけない事はやっちゃダメって怒らなき

 ゃ。片付けだって同じ。使った物はあった所に戻

 す事!そして一番は『ありがとう』『ごめんなさ

 い』をきちんと言う事だよ。それって、とても大

 切なんだからね。」

真面目に話している私を見ながら、お稲荷さんご夫婦はとても優しそうに微笑んでいる。

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