第5話 つかの間の平和
つかの間の平和
エリーを保護する為の集合場所では、ヤマを張って先回りして詰めて居たエージェントと保護部隊の戦闘が始まっていた。
そこへ、エリーが到着した時には、大激戦が繰り広げられて居たのだった。
「何でよ、何でここまでするのよ!
もう誰も殺したく無いのに!」
既に、肉体から離れた私の脳は、罪悪感からは解放されて居たにも拘らず、それを認めたく無いからの言い訳でしか無い台詞が勝手に口を突く。
そして次の瞬間、常人の反応速度で対応し切れないスピードで戦場の真っただ中へ突っ込んだエリーは、その速度のままでエージェント達目掛けてタックルをして回る。
プロトタイプだけあって、全身義体の重量はエリーの身長でも100㎏は超えて居た為に、そこに速度も加わってとんでもない破壊力になって居る。
当然ながら時速300㎞を超える速度で100㎏超えの物体が突っ込んで来る異常事態、確実に十メートル単位で吹っ飛ばされる、内臓は破裂、全身骨折と言う状況、生きて居る者は一人も居ないだろう。
こうして、実力行使と言うか、強制的に自力で退路を確保した私は、20m上空の迎えに来たヘリに飛びつき、脱出に成功した。
誰だ?バイオ〇ックジェミーだとか言い出した失礼な奴は。
あれこそ私が全身義体を作るに当たって理想とした姿で有って、私の拙い技術はそこまでに至って居ないのだ、まだその領域には至って居ないので、そんな簡単に私如きの全身義体にその名を使うな、おこがましいにも程が有ると言う物だ。
ボリビアに停泊中の、夫の国のヘリ空母に乗艦させて頂いて、何とかエージェントを撒く事に成功した私は、彼の父、某王国の国王な訳だが、その人と謁見。
取り急ぎの謁見であったので人工皮膚は所々剥げ、かなり見苦しかったのでは無いかと思うが、そこはあまり触れられず、快く迎えられた。
こんなに暖かく穏やかに受け入れられたのは初めてだった私は、この国に尽くそうと考えた。
本来私は第一王太子妃になる筈だったが、全身義体なんて言うこんな体であったが故に、それは自ら辞退し、第三王太子妃と言う立場に収まる。
そして、研究室を頂き、全身義体の更なる高性能化、人工皮膚の高精度化を研究しながら、娘や夫と共に幸せな生活を、束の間であったが、満喫できた。
そして、事故等で欠損の出来てしまった人々への義手や義足と言った事業を立ち上げ、徐々に国家の新たな事業の為に貢献をするようになって行った。
それは、これまでの人生で最も平穏で、幸せな日々だった。
愛する娘と、愛する夫に囲まれ、好きな研究に没頭できる、こんな贅沢な時間がいつまでも続けば良いなと、本気で思って居た。
だが、そんな幸せな時間は長く続かなかったのであった。
研究所にエージェントを送り込んで来た、かの国が、殺人犯として私を引き渡せと、その銃口を突き付けて来たのである。
国王並びに、夫はこれを完全に拒否、他の戦争国に派遣して居た部隊をも呼び戻す事態に発展。
エリーは、全身義体の一個師団を作るべきだと国王へ進言するも、五体満足の20~30代の若者達で構成されて居る軍からの志願者は皆無だった。
それでも彼女は、40体を超える全身義体を作り上げ、何時でも手術が出来る状態を、地下研究施設で作り上げる事に尽力した。
実際に戦争がはじまると、欠損を補う為の義手や義足と言う形で数名の電脳化及び欠損補完を行いはしたが、まだ若い兵士達は、生殖機能を失いたくは無いと言う理由から、全身義体にはなろうとしなかったのだ、これは早々に全身義体になったエリーには理解できなかった。
そして王国軍は徐々に追い詰められ、ついにはチェックメイトとなる。
私は、夫さえ生きて居さえすれば復興できると考え、彼に全身義体化を進めるが、彼はそれを拒否した。
まぁ解らなくはない、彼もまた、まだ30代になったばかりの若者だったのだから。
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