第4話 脱出
脱出
目が覚めたエリーは、電脳とそれにリンクして居たスーパーコンピューターのログによって、瞬時に何があったのかを理解した、そして、吠えた。
と、同時に、世界中のメディア、SNS、動画サイトなどが一瞬エリーの電脳の性能をフル稼働した形になりハッキングされ、エリーの慟哭、悲鳴が世界中に配信された。
僅か2秒程度の事だったが、世界中が一斉同時に恐怖した初めての瞬間だった。
「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
教授の遺体を引きはがそうとして居たエージェントを、怒りに任せて手始めに殴りつけた。
するとそのエージェントは、頭を弾き飛ばされ、壁に脳漿をぶちまけて事切れる。
エリーは手術台から立ち上がりつつ、光学迷彩を発動し、サブマシンガンを持っていたエージェントの元へと飛び込み、回し蹴りを加えた、すると、サブマシンガンは拉げ、本人は胴体が上半身と下半身に引きちぎれ、帰らぬ人となった。
次に、コンピューターからデータを吸い出そうとして居たエージェントの背後に走り込んだエリーは、その後頭部に肘打ちを撃ち込む。
彼の頭蓋はその急激な圧迫により、はじけ飛んだ。
残りの3名は、撤退を開始したが逃げられる訳もなく、一人は先回りをされ、力任せに頬を叩かれ、首が720度回り、白目を剝いて泡を拭いてそのままに。
一人は肩甲骨の間に拳を食らい、脊椎と一緒に心臓を飛び出させて事切れた。
最後に逃げ損ねた突入班リーダーと思しき人物は、失禁をし、命乞いをしながら顔面を掴まれそのままグチャっと潰されて肉塊へと姿を変えた。
直後、全ての研究データを電脳へとコピーし、この建物に他にもエージェントが大勢いる事を、ハッキングしたセキュリティーシステムで認識して居たエリーは、次の行動に移った、この研究施設用に設置されて居る6機もの高出力原子炉、地下にあるそれを全て、大電力が必要な時にだけ1時間だけ使用可能となるオーバーブーストを全てオンにし、オーバーブースト時には最大出力で行わねば成らないとされて居る冷却をすべて停止した。
エリーの電脳で演算した、原子炉の暴走までは僅か6分しか無かった。
侵入者の数が著しく少ない屋上へと走るエリー。
屋上へとたどり着いた時には、炉心の溶融が始まって居る時間だった。
この研究施設は、地上20階、地下8階となって居り、1階から20階までは吹き抜けのフロアが設けられていて、それこそ宇宙ロケットの開発にも使用できるようになって居た、エレベーターを使う訳に行かなかった為に、全身義体のパワーに慣れていないエリーが屋上へと階段を、エリーの研究室の在った11階から屋上まで、侵入者に悟られないように秘かに登る為には、それだけの時間が必要だったのだ。
大爆発まであと50秒、屋上に辿り着いたエリーは、初めて冷静に敵の正体を確認した。
屋上にヘリ降下して居たエージェントは、この時代の軍事大国、旧ベトナムの工作員だった。
---------------------
ベトナムと言う国は既に、クーデターによって無くなって居たが、その後釜に収まった国主が悪かった。
まるで、カダフィー大佐のような、狡猾で凶暴な人物だったのだ。
元々、転覆以前のベトナムは、当時の最新地質調査で、アルミ原石埋蔵量世界第3位にして掘削率13%、原油純度世界一、原油埋蔵量世界第5位にして掘削率0%、ダイヤ原石埋蔵量世界第7位にして掘削率0%、プラチナ埋蔵量世界第2位にして掘削率1%と言う、資源大国であったのだ、それがクーデターにより乗っ取られ、その埋蔵資源に物を言わせて一気に軍事大国へと変貌を遂げたのだ。
この国が先ず、手に掛けたのは清仏海戦でこの地の覇権を争った、中国とフランスだった。
まるで、恨みを晴らしていくかのように、彼らは戦争を繰り返して行った。
暫くすると、フランスが陥落、中国はかなり抗っては居たが、それでも旗色はかなり悪い。
そして合衆国は、この国と、今まさに冷戦真っただ中だったのだ。
他の連合加盟国がどうして居たかと言えば、第三次大戦に成る事を恐れ、不介入を決め込んで居たのだった。
---------
エリーは屋上にいたエージェント3名を、瞬時に肉塊へと変えると、全力でジャンプした。
その行先は、海。
急いで飛び込んだエリーは、そのまま泳いで南へと向かった。
飛び込んだ直後、一瞬膨大な電力による空間の歪みが発生して消えかけた研究室の在った方向から、激しく巨大な火柱が上がったのを確認し、エリーは逃げたのだ。
研究施設は、海沿いの丘の上に立って居たので、こんな脱出方法が一番良い、そう電脳で演算して行動して居た。
深夜になって居たので尚更夜の海は好都合だった。
暫く泳いで、街の明かりが見えたのを確認したエリーは、何もまとわずにそのままで居た事を今更ながらに思い出し、その海岸沿いの街で、女性用の服を売る店に、電脳でセキュリティーを無効化して不法侵入し、カジュアルに揃えて人混みに溶け込むようにして、彼の特殊部隊との合流地点を目指すべく、行動を開始した。
電脳をフル活用し、ハッキングを繰り返して居る為、防犯カメラには彼女は映らなくなって居る。
恐らくエージェントの仕業と思うが、凍結されて居たエリーの口座を強制解除し、全額を彼の名義の非常用口座に移し、その取引履歴を抹消、彼のブラックカードを利用し、逃亡を始めた。
しかし、起動直後にかなり暴れた為にエネルギー不足であったので、海岸沿いの小さなバーで食事を済ませると、公共交通機関を使う訳には行かなかったエリーは、義体のパワーを生かして走る事にした、走った先は、合衆国から国境を越えた、メキシコの最大の貿易ビルの屋上、そこへ、ヘリを向かわせてくれると言う計画が既にできていた。
しかし、そうそうに逃がしてくれるエージェントでも無かった。
いったい何人のエージェントがこの地域に放たれて居るのだろう。
何処をどう移動して居ても数名のエージェントが現れるのだ。
エリーはその度に、死体の山を築きながら進む事になってしまって居た。
「もうヤダよぉ、来ないでよぉ~、もう殺したく無いんだってば~。」
第一号全身義体に、涙を流す機能は付いて居なかったが、泣いた、泣きながら進むしか無かった。
彼の元へ、娘の元へと、進むしか無かったのだ。
----------
車を手に入れたエリーは、更に逃走する。
しかし、ドローンによってエリーの行動は筒抜けになって居た。
但し、この時の主流であるネット通信タイプではなく、唯のレトロな無線式であった為、エリーの電脳では検知が難しかったのだ。
だが、流石にここまで執拗に追い回されて居れば誰でも気が付く。
少し冷静になって視野が広がったエリーは、ついにドローンを見つけ、処理する。
深夜の荒野で車から降りたエリーは、幾つかの石を拾うと、親指で弾いて、一機、又一機とドローンを落として行くのだった。
ハッキリ言って、この指弾は拳銃の弾丸よりも速く、ドローンに避けられるような物では無かった。
過去の遺物と言っても過言では無いようなレトロなドローンであると言う事は、少し離れて追跡して居る奴が必ず居る筈だった。今度はそいつを炙り出さなければいけないと思ったエリーは、車を急に反転させて、逆方向へと走る。
ただ普通に走ったのでは炙り出そうと言う此方の思惑を悟られてしまうだろう、アクセルは目いっぱい踏み込んだ。
これで慌ててくれれば、大急ぎで方向転換する奴が敵と言う訳だ。
エリーの思惑は、思って居るよりもすんなりと叶った。
直ぐに方向を変えようとする車を見つけ、それに向かって、残してあった石礫を弾いた。この礫で倒すつもりは無い、フロントガラスにダメージを与えられれば良かった。
案の定、フロントガラスには無数のひびが入り、相手の視界を奪う。
エリーには、この一瞬で十分だった。
乗っていた車を既に降りており、敵の車に向かってダッシュしたエリーは、丁度プロレスのドロップキックのような体制で飛び上がり、両腕を左右に広げた。
次の瞬間、エリーの義体はフロントガラスを突き抜け、運転席だけならず、助手席で恐らくドローンを操って居たと思われるエージェントも、纏めてラリアットで葬ったのだった。
コントロールを失った車は、自ずと道から外れ、崖下へと落ちて行った。
二人分の、グチャグチャに潰れた生首のみを残して。
こうして完全に尾行を巻く事に成功したエリーは、ようやく集合地点へと到達したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます