第2話 妊娠・出産
妊娠・出産
エリーと彼の営みは、空が白み始めるまで、何度も繰り返された。
そして、その朝、エリーは、彼の素性を初めて知る事になる。
もはや彼の国で産出する石油は、売れる物ではなくなって居たが、それでもまだ、彼の国は豊かな王国とされて居た。
金に糸目を付けずに強化した軍隊で、傭兵派遣をして、かの国は生計を立てていたのだった。
エリーは、一瞬、彼が自分に近付いた事を疑ったが、我に返ると、近付いたのは自分だと思い出した。
全くの偶然だったのだ。
だが、彼の国の事情とエリーの研究は、ある意味相性の良い物のように思えた。
しかし彼は、軍を強化する為にエリーの研究が欲しいとは、口が裂けても言わなかった。
それは本当に彼がエリーを愛してくれた証拠でもあった。
第14王子にして皇太子の彼は側近に連れられ、国へと帰って行った。
でもエリーは幸せだった。
彼はエリーの研究を応援してくれた、スポンサーになってくれることを約束してくれた、そして、自分の妃として、エリーに指輪をくれたのだ。
エリー第一皇太子妃の誕生だった、非公式ではあるが。
彼に抱かれ、心を解放した事で、エリーは思い切った飛躍の研究を始め、ついにそれを確立した、電脳技術だった。
しかしそれは、まだ公式に発表できるものでは無かった。
何故ならば、倫理的に疑問を持たざるを得ない内容であるからだ。
人の脳を弄って強制的に脳の使用して居ない部分を開放し、記憶容量も拡大、更には演算能力も向上する、何ならインターネットにすら接続が可能だと言うのだからそれはそれは学界に出せる物では無いとか、発表するべきであるとか学内で物議を醸し出した。
結果としてエリーは、自分の意思で発表しない旨を主張、大学内部のみでの研究と言う事で秘匿される事になった、が、某国寄りの留学生は、それを母国にこっそりと情報をリークして居た。
誰にも知られることなく・・・
彼との出来事があった後、電脳化技術が確立したのが凡そ3か月後だった、丁度その頃、エリーの体調に変化があった、悪阻である。
彼との子を身籠った証だった。
エリーはますます研究に力を入れる。
お腹の子の為にも、研究成果を出して彼に会いに行く為に。
電脳化技術の有用性を証明する為に、エリーは義手、義足の開発を始めた。
自分の意思で動かせる義手、義足は、それこそ歴史を動かせるだけの成果と成るだろう。
電脳自体にも幾つものアップデートが成され、当初、ボタン電池を動力とした電脳は、生体電気で十分に演算を可能とする程に進化した。ただし、全身を義体化する為には、まだ足りなかった。
何故ならば、全身義体となると、脳以外に生命反応を示している内臓は、皆無となる、従って生体電気が取り出せない。
そこで、人工血液を開発した。
人工血液が運んだエネルギーが発電をして電脳を稼働させる事が出来る。
そんな技術を作り出さなければならなかった。
人工血液にはもう一つの効果がある、当然ながら生体の体がなくなれば、脳も栄養を取る事が出来ない、それすらも人工血液の存在は解消するに至らしめる物だった。
当初は、ブドウ糖点滴からエネルギーを作り出すと言う方式が有用だとされたが、それではエリー自身が納得できるものでは無かった。
食品を普通の人間の様に食べ、それを電脳のエネルギーと脳を生かす為の栄養、その何方にも流用出来るような方法は無いかと試行錯誤した。
結局は、その研究は、逆転の発想から急速に進化した。
人の消化の機構にそのヒントがあったのだった。
胃液は、酸とアルカリの複合、だがしかし、大半の分解は微生物が行って居たのだから。
エリーの最も得意な分野だったナノマシン、これに、食物の全てを分解させてエネルギーとするのだ。
そのエネルギー量は、驚くなかれ、全身義体の電力すら賄う事の出来る十分な量に変換できたのだ。
エネルギー保存則を上書きせねば成らない程の成果であった。
こうして、全身義体の理論は、全ての面に置いてコンプリートしたのだ。
最大のネックだった義体のエネルギー問題も解消した事で、一気に義体の試作が進み、この2か月後には完成する事になる。
しかし、ここでエリーは研究を一時中断せざるを得なくなってしまう。
そう、間もなく臨月だったのだ。
SNSにて連絡を取り合って居た事もあり、彼はエリーに、迎えを寄こしたのだった。
そこで、エリーは、お腹の子を預ける乳母との対面を果たした。
エリーとしては是非自分で育てたかったのだが、それは国が許さなかった。
皇太子として既に確定して居たハムダン5世と、第一王妃の第一子、つまり、次期継承権第一位だったのだ。
エリーは泣く泣く、彼の国で出産した後、非公式の結婚式を執り行い、第一皇太子妃となったが、間もなく完成する研究に最後までかかわりたいと言うエリーの我儘を許したハムダンが、秘かに送り出してくれたのだった。
初めて自分の腹を痛めた第一子は、女の子だったが、それでも継承権は上位になったのだ。
それは、他に子が居なかったからに他ならない。
エリーは、自分のエゴの為に、身を引き裂かれる思いに駆られつつも、研究を取ったのだった。
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