創世の大賢者外伝【エリーの生涯】

赤い獅子舞のチャァ

第1話 エリー

            エリー

 西暦2786年4月

 エリーは誕生した。

 父は日本人、母は白系ロシア人、この組み合わせの子は、得てして将来美人になると良く言われる。

 エリーも例外なく、可愛らしい子だった。

 しかし、父は母を裏切り、浮気三昧。

 母は、耐え兼ねて躁鬱病、その母より暴力を受けて育った不憫な子であったが、彼女は生まれつき、普通の人よりも脳の発育が良く、理性的に耐え続けた。

 自らの生命維持を最優先に、ありとあらゆる方法を用いて、暴力から身を守った。

 そしてそのストレスは、三歳で初めて見た、アニメを見る事で解消して行く。

 元々、ある意味強い子だった。

 彼女のアニメ好きは、年々エスカレートし、出て言った父の書斎のPCは彼女のアニメ再生機のように使われ、時には6本のアニメを同時再生していた。

 そして彼女は、小学2年生で気が付いた。

 甲殻〇動隊の時代より、今の方が未来になってる筈なのに、電脳や義体なんか何処にも無いじゃない、ましてやこんなに発達して無いネット環境。

 エリーは思った。

 手塚治虫は預言者だったのでは無いかと。

 彼の代表作の一つ、鉄腕アトムに登場した機械、携帯電話は、その時代になるずっと前に再現された事、そして彼の漫画が確立した二足歩行ロボットも、彼の描いた時代を再現してやろうと言う情熱を持った人々によって、世界初の二足歩行ロボットは、平成時代には作られていた事実。

 なのに今の科学力はどうしたのだ、何でまだ全身義体が確立して居ないんだ。

 全身義体が確立してさえいれば、人間はもっとずっと遠い宇宙に出ている可能性が有ると言うのに、これでは宇宙戦艦や機動戦士は無理があり過ぎたのだ。

 この頃になると、母の病状はますます悪化しており、仕事も出来る状況では無い為、エリーを養うなど出来様も無く、更に暴力も激しくなり、母はキッチンドランカーにすらなってしまって居た。

 そうして彼女は、母から逃げるように、父の残した携帯端末を握りしめ、家を出た。

 何故なら幸いにも、その携帯端末には、お財布機能が付いて居ただけではなく、彼の口座との関連付けもされたままだったのだ。

 1年に2回程度帰って来る彼女の父親は、家出したエリーが持ち出した事に気付きはしたが、敢えて口座の関連付けは解除しなかった、せめてもの親心だったのだろうと思われる。

 だが彼女は行く当てが余り無かった、時には浮浪者に交じって、ガード下で眠った。

 インターネットカフェ等は、子供一人で利用出来なかった。

 カプセルホテルなども当然、そうだ。

 携帯端末の充電ならばコンビニ等でも出来るので、そう言う部分では問題無く暮らす事は出来たが、いつも彼女は飢えていた。

 食べ物にでは無い、愛に飢えていた。

 9歳になった頃、彼女の余りの可愛らしさに、いやらしそうな中年が声を掛けて来た。

 エリーの持つ父の携帯端末も、ソロソロ寿命だった事も手伝ったのかも知れない。

 嬉しかった、エリーは、人と関わらないように一人で生きて来たが、逆に愛情に飢えていた彼女は、簡単に付いて行った。

 そして、未だ初潮も来ていない彼女は、そのおじさんによって破瓜を迎えた。

 それでもエリーは、おじさんを怖いとは思わなかった。

 その人は、エリーを毎晩抱く代わりに、ちゃんとした衣食住と、教育を与えてくれた。

 一年ほど、そのおじさんのお世話になった彼女は、僅か一年間で、小中学校の修学過程と、高校2年生までの教育を修了して居た。

 そんな彼女は、10歳にして、高校生として留学を果たす。

 おじさんには感謝して居たが、やはり毎晩抱かれる事には苦痛を感じていた。

 そして、留学を果たすと同時に、彼女は初潮を迎えたのだ。

 ある意味、ではあるが、本当に運が良かったのかも知れない。

 普通より少しだけ遅い初潮は、普通よりずっと早い破瓜、その後の毎晩の営みでも、妊娠を許さなかったのだから。

 合衆国へと留学を果たした彼女は、全寮制の高校を僅か2カ月で飛び級し、彼女を大学生へと押し上げた。

 かの国の教育理念に助けられ、彼女は市民権、住居、奨学金、生活保護の全てを受ける事が出来た。

 こうして彼女は、やっと普通の生活が出来るようになったのだった。

 但し、一人だったが。

 2年で工科大の全修学過程を習得した彼女は、大学院へ進み、そこで教員免状を習得。

 僅か12歳で、大学より給与を頂ける身となった。

 そのまま、大学にて教鞭をとりつつ、大学院で研究の日々を送って居た。

 エリーは、割と高給取りになって居た。

 18の夏、研究に行き詰っていたエリーは、気分転換に、北欧の某港町に観光に出かける事にした。

 何もかもを一旦忘れようと、着の身着のままの一人旅だった。

 自炊の出来る安ホテルに泊まる事にしたエリーは、そこで運命の出会いを果たす。

 お忍びで、護衛すら撒いてはじけた外遊をして居た、某石油大国の第14王子だった。

 彼の名は、イェルクトゥ・ハムダン・ビン=ムハンマド-アール=マクトゥミリオン

 通称、ハムダン5世。

 一目惚れだった、こんなに美しい男性がこの世に居るのかと目を疑ったエリーは、ついフラフラと、まるで尾行をするかのように、一定の距離を保ちつつ、引き寄せられるように付いて行った。

 エリーのそんな行動を気付いた彼は、逆に曲がり角を利用して彼女の真正面に現れ、声を掛けて来た。

「お嬢さん、どうされました?」

「あ、あの、とても奇麗な御顔の男性だなぁと思って、つい、御免なさい、他意は無かったんです、その、一目惚れと言うか・・・」

 こんな経験が無かったエリーは、それはそれは真っ赤に赤面をしてそう答えたのだった。

「君は僕の事を知って居た訳じゃ無いのか、じゃあ、僕と今日一日、デートをしてくれないか?」

 何と驚いた事に、彼はエリーをデートに誘ったのだ。

「は、はい!喜んで!」

 もう、それはそれは、胸も張り裂けんばかりに心拍数は跳ね上がり、最高に幸せな、舞い上がる様な気分になったエリーだった。

 そして、お互いを詮索する事も無く、(と言うかむしろ、エリー的には舞い上がって居て相手の事を聞く事も忘れ、自分の事を伝える事も忘れて幸せの絶頂だった、まるで幼い子がパパ以外の男の子に初めて好意を寄せるかのように。)

 エリーが自分で作ったお弁当を、公園のベンチで二人で分け合って頂き、デートを楽しんだ。

 エリーは料理も、おじさんに作っていた経緯もあり、腕前はかなりの物であった為、ここで彼の胃袋を掴んでしまった。

 そして、エリーは、その彼にその晩、抱かれた。

 昔、おじさんに抱かれた時とは、まるで違う感情で抱かれた、幸せの絶頂だった、そして実際に、彼女は初めて、イった、実際にも絶頂に至った。

 まさに至福の時だった、何度も何度も彼を求めた。

 彼も、美しい女性へとなって居たエリーを、何度も求め、何度も繰り返し、抱いた。

「エリー、君に、僕の子を産んで欲しい。」

 その晩限りの筈の彼からのその言葉は、エリーにとって最高のスパイスだった。

 エリーは、涙を流しながら何度も彼と一緒に絶頂した。

 勿論その涙は、おじさんの時に流した涙とは違う、嬉しい涙だった。

 そしてそのわずか一日の出来事は、彼女の人生を大きく変えるのだった。

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