第6話

視界が晴れると同時に相手の悪魔が驚いたのも無理はないであろう。


なんせ先程まで命を狙っていたはずの男が自分と同じ悪魔になっているのだから。


とはいえ自身のような人間だった頃の面影など一切残っていない醜い容姿ではなく敵は、


右の頭にだけ生えている剣のように独特な形をした真っ黒な角


赤黒く光る右目


右の肩甲骨の下から生えている真っ黒で鋭い形をした片翼


という部分部分では悪魔らしさを感じるもの、その他は白髪から黒髪に変わったくらいで普通の人間となんら変わりないのだから。


「俺いっつも思うんですけど、隊長も社長にキスしたら悪魔の力を解放できるんじゃないかなーって思うんですよね」


「あー分かるそれ。俺も同じ事考えたことあるわ」


それどころかさっきまで劣勢だったはずの相手は完全にお開きモード。


いくら人間が悪魔化するとたった1人の例外を除いて皆自我をなくすとはいえ、そんな光景を目の前で見せられて怒りを覚えないはずもなく。


攻撃対象を直哉からかぐや達に切り替えた敵悪魔は伸縮する例の腕による攻撃スピードを格段に上げたにも関わらず、


「それじゃあそれを口実に隊長が社長にキスするっていうのはどうですか? そのままあの女からNTR返ししてやりましょうよ!」


「父さんと言い、アンタ達と言い余計なお世話よ‼」


そんなものお構いなしといった感じのAZ ITの社員一同。


―――それもそうであろう。


「メア! 敵の核を覆っているシールドごと破壊しろ‼」


「他の女を守るために私に指図とは相変わらずいいご身分だな。別に私は当人の目の前で寝取り作戦を企てているアイツらが死ぬまでお前の力を封印し直してもいいんだぞ?」


―――なんせこっちには人間界最強のシスターと。


なんて口では言いつつもかぐや以上に人間離れした動きで敵に近づき、そのまま直哉が壊せなかったシールドを一発で壊して見せたメア。


そんな彼女を横目に軽く口の端を吊り上げた直哉はすかさず両手で握った剣を敵悪魔の頭上へと勢いよく叩き込んだ。


すると敵悪魔の体は内部から勢いよく破裂し、物凄い衝撃波が吹き荒れた。


―――推定Aランク超えの悪魔が付いているのだから。


しかしかぐや達はあらかじめ先程と同じ方法で身の安全を確保していたため当然無傷。


メアに関しては爆発の寸前で直哉が床に押し倒し、覆いかぶさることで事なきを得ている。


まあ彼女に関してはそんなことをする必要はないような気もするのだが、そこはクズ男の本領発揮といったところであろうか。


それが止むと直哉はそのままメアと見つめ合える態勢へと変え、


「俺もお前と約束したはずだぞ。メアが俺の守りたい人達を守り続けてくれる限り、メアのことは俺が絶対に守り抜くって。まさか忘れたわけじゃないよな?」


生まれながらのつり目に加え、喋り方のせいで常に近寄りがたい雰囲気があるメア・フィレンツェ。


雰囲気があるだけでなく、彼女は相手や周囲の環境によって意図的にそれを出す出さないの基準を設けていたりもする。


だがやはり好きな男の前でだけは自身が置かれている状況など関係ないらしい。


「ああ、そうだったな」


メアは女を感じさせるそれを出しながらそっと目を閉じた。


するとそれを確認した直哉も同じように目を閉じ、先程のような強引なものではなく相手を気遣うような優しく柔らかな口づけを…ゆっくりと時間を掛けながら行っ


「ねぇ、今日の夜ご飯なに?」


たと見せかけての、この空気の読めなさすぎる質問である。


「さあ、なんだろうな。んっ、ちゅ、ちゅっ……ぅんっ」


このタイミングでそんなことをされて怒らない女性などこの世にいるはずもなく、メアは直哉の胸倉を掴むと同時にそのまま相手の口元を自分の口元へと強引に引っ張りよせた。


「んーーーんっ⁉ あぅ、ちゅ、あむむ…っぅ……。んっ‼」


―――Bランクなど相手ではない。

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