第5話

閃光が収まるまでに掛かった時間は5秒ほどといったところだろうか。


先程まで怒涛の勢いで直哉を狙っていた4本の腕は綺麗に全て切り落とされていたどころかかなり後ろまで吹き飛ばされていたらしく、攻撃された当人も一体何が起こったのか分からないといった感じである。


「やっと許してくれたか」


「しょうがないだろ。お前は私がいなくては何もできないのだから」


呆れ気味に、しかしどこか嬉しそうに顔だけ後ろを向きそう言ったのはロリータ風の軍服を着ているメアである。


「チッ」


「なんだ随分と不満そうだな、ショタコン女」


「ちょっ、勝手に人のことをショタコン呼ばわりしないでくれる⁉ あなただって私と同い年でしょうが‼ あと別になおのことは私一人でもちゃんと助けられたから!」


「勝手にも何も当時未成年だった直哉を年上の女の魅力でたぶらかし、全てにおいて初めての女になった奴が何を言っている? あと確かにお前とは同い年だが私がコイツと付き合いだした時には既に20歳だったのだから、一緒にしないでほしいのだが」


「ちょっと、ちょっと、ちょっと、君達出会って早々喧嘩しないで。まだ敵倒せてないからね? 時間稼ぎのためだろうけどアイツめっちゃ悪魔召喚しまくってるからね!」


壁にぶつかった際にどこかを痛めたのだろうか。


たまに変な動き方をしながらもなんとか立ち上がり2人の間に割り込もうとしているにも関わらず、お互い相手のことしか眼中にないのか言い合いはどんどんヒートアップしていき。


ついにはメアはメイン武器である日本刀を、かぐやは銃を使い本気の攻防を繰り広げながら、


「お前、私が食堂の厨房で直哉のお昼ご飯を作っているところを見ていたにも関わらず勝手に餌付けしただろ」


「何でもかんでも1人で欲張ろうとするからそういう隙が生まれるのよ! それが嫌なら少しはその独占欲をどうにかしたら?」


更には罵詈雑言を飛ばしあいつつ。


でもしっかりと召喚された悪魔は倒していたかと思えば、いきなりメアの怒りの矛先は壁へともたれ掛かっていた直哉へと移った。


もちろん怪我人が相手だろうと一切の手加減などなく、直哉の顔の真横すれすれに壁を突き破るほど強力な蹴りを決め込んだ。


すると必然直哉からしてみればスカートの裾から覗いていたガーターベルトが更に見える状態になったわけであり、その瞬間明らかに視線が下へと下がった。


「フッ」


「ちょっ、なにパンチラごときで勝ち誇ってるのよ、この淫乱シスター!」


そんなかぐやの言葉を聞いて満足したのかメアは蹴りを決め込んだ右足を静かに降ろし、今度は何かを待つかのようにジッと直哉のことを直視し始めた。


「あの女、相変わらず目の前の敵を相手にしながら私に対して軽口を叩いてはいるが…いくら実力が他の奴らと比べて突出しているからとはいえ明らかに一人だけ頑張りが違い過ぎる。まるで私達の助けなどいらないといった感じだが、実際はかなりキツイのだろうな」


「………………」


自分の同僚であり元カノでもあるかぐやが命懸けで戦っているにも関わらず、実に愉快そうに喋っているメアが気に食わないのだろうか。


直哉は一切の感情を見せずにただただ黙っている。


しかしメアには目の前の男の心情が手に取るかのように分かるらしい。


「でも絶対にそんなことを感じさせないようにと振舞いながら戦闘を続けている。これは私への当て付けなのか、はたまた誰かに何かをしてほしくないのか……。まあそんなもの本人にしか分からな―――ぅん⁉」


分かっていてなお相手を逆撫でするかのように言葉を続けていたメアだが、いきなり直哉の唇で自分のそれを塞がれてしまった。


「一々うるせえ女だな。いいから黙って俺に掛けてる封印を解けよ」


「ふふっ、私はそういう強引なお前も嫌いじゃないぞ」


直哉が何かに対して怒っているのは確かなはずなのだが、どうやらメアにとってはそんな態度の直哉のこともありらしい。


自身の言葉通りまんざらでもなさそうに頬を少し赤く染めつつ直哉の後頭部へと手をまわし、今度は自分から直哉の唇を塞いだ。


「んぅ⁉ ん~~ぅん! んーーー‼」


(舌! 舌入ってる! 誰がベロチューしろって言った‼)


「んちゅ、んんっ……ちゅ、ちゅっ、ん………んふっ。お前の私に対する好きという気持ち、しっかりと伝わったぞ」


ここまでに掛かった数十秒の間にこの2人が抱いた気持ちは間違いなく全くの別物であったであろう。


しかしそんなことお構いなしに一方通行もいいとことな感想をメアが口にした瞬間、直哉を中心とした爆風と砂煙が部屋全体に勢いよく広がった。


それと同時に事前にこの後何が起こるのかを知っていたかぐやをはじめとするAZ ITの隊員達は全員近くにあったテーブルなどの裏に隠れることで事なきを得たものの、敵悪魔はそうもいかなかったらしい。


「あー、やっぱこっちの状態になると体が軽くていいわ。今なら何でもできそうな気がするね」


依然爆風と砂煙が吹き荒れている部屋の中でも認識できるほどに赤黒い光を放っている紋章のようなものと、独特な形をした鋭いなにかが前後に振られているシルエット。


そしてそのシルエットと同じタイミングで前進する1つの球体に加え


コツ、コツ、コツ


という何者かが平然と前へ進み続け床を鳴らす靴音と、直哉によるそんな軽口。


「ほーう、ならば今日はお前1人であのCランク悪魔を倒してもらうとするかな」


それに負けず劣らずといった感じで普通に返すメアの声。


「あははは、それは無理すっよメアさん。だってアイツ」


そこで直哉が言葉を切った次の瞬間、2つの赤黒く光っている何かが左から右へ。


まるで空間を切り裂くかのような鋭さと速さで移動した。


すると一層強い爆風が横一線に勢いよく吹き荒られた。


しかし今度はそれが続くわけではなく、逆に驚くほどの静寂が訪れた。


とはいえそんな空間の中でも甲高い靴音はまだ鳴り続けている。


そしてその強者の音を鳴り響かせている人物の姿が露わになったことで、敵悪魔は何かに対して驚きを隠せないようだが当人はそんなことどうでもいいといった感じで、


「いくらメアが手抜きしたとはいえ、お前の攻撃を食らってるにも関わらず普通に全回復してる時点でBランク以上は確定だもん」


と軽口を続けた。

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