第6話 モテ男

 毎週月曜日と木曜日はボランティアのために休みをもらっていた。

 先生ではないが、子供達と遊ぶ役回りだった。

 一緒に運動したり、時には悩みを聞いたり。年代もバラバラだった。下は小学生から上は受験を控えた中学3年生まで色んな子がいた。

 ボランティアに行くたびに思春期の女の子達から歓声を浴びた。

 昔からどちらかと言えばモテた。だから調子にのってチャラチャラと遊んだ時期があった。

 でも、今は違う。どん底を経験して明日も危ういタダのフリーター。そんな人間を慕ってくれたからって心から喜べるはずがない。

 良い人にはなっていたと思う。今まで自分のことを最優先に考えて生きてきた。だけど、ここでは自分最優先では誰も近付いてきてくれない。

 みんな心のどこかに闇がある子達だった。それをほぐすためには積極的にその子たちのことを考えようとする必要があった。

 それでも少しは不純な気持ちがあったんだと思う。

 ユリコ店長がある時言っていた言葉がずっと心に刺さっていた。

 「私はね、チャラチャラしてる人が嫌いなの。だから実は君みたいな人ね、嫌なんだよね。消防士さんて真面目ー!っていう印象なのね。だから今のきみじゃ消防士にはなれないと思う。」

 確かにモテるために人が喜ぶ言葉を探すことが多々あった。孤独が友達とはいいながら心のどこかでは人に嫌われたくないと思っていた。だから嫌われないよう、異性には特にその気にさせるような発言をしていた。

 人のために生きることでユリコ店長は私を認めてくれると信じていた。

 そしてそんなユリコ店長の心を射止めた今の旦那はとてもいい人なんだろうと思った。

 ただ、この時は知る由もなかった。ユリコ店長がなぜ結婚したのか、その結婚の裏に隠された悲しい事実を。


 私はいつものようにボランティアでキャーキャーと歓声を受けた後、家路に着いた。


 どうすればユリコ店長を自分の「ユリコ」に出来るか、そんなことばかり考えるようになっていた。

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