第5話 絶望感

 私が靴屋で勤務をするようになってから数週間が経った。ここまでわかっているユリコ店長は私よりも15年上ということだけだった。

 そして久々にユリコ店長と朝番。朝から2人きり。胸の高鳴りを抑えられない。

 職場に向かう足取りが軽快だった。

 いつものように始業開始5分前到着、レジにはユリコ店長がいた。

「店長おはようございまーす!」

「おはようー」

いつもよりテンションが低く感じた。何かあったのだろうか。落ち込んでるなら私が笑わせなければ。そんなことを思いながら準備して始業時間ちょうどに勤務開始。するとユリコ店長が私を睨みつけた。

「あのさー、君さー、来るの遅くない?始業時間ちょうどに勤務って遅いよね?わかってる?もう少し早く来たら?他の人からも言われてるんだよね。君が来るの遅いって。社会人なんでしょ?それぐらいちゃんとやったら?」


初めてユリコ店長に怒られた。

だから私は「すいませんでした。」しか返せなかった。


確かに私は時間の感覚に疎い。マイペースに動くことが多く、待つのも嫌いだった。だから常に時間ぴったりか限りなくギリギリに活動した。

それをユリコ店長に怒られた。いつもは笑ってくれる店長。今日はもうちゃんと話せないという悲しみに呑まれた。


オープン後も声をかけにくい。それでも

「店長、朝はごめんなさい。もうしないですから。」

謝った。半分嘘泣き状態で。


するとユリコ店長は

「もう怒ってないよ!朝のことは他の人から聞いてたからっていうのもあったから言わなきゃって思ったの。気をつけてね!」

甘くて優しい声をかけてくれる店長が本当に好きで好きでたまらなかった。


この時なぜか、いつもは気にならなかったのにユリコ店長の左手が気になった。嫌な予感がしていた。

一瞬で絶望した。左手の薬指には指輪がはまっていた。その日一番の悲しみが私を襲った。

それでも自分に言い聞かせた。

(いや待て。左手の薬指だからって結婚と決めつけるのは早い!)と。


ユリコ店長が休憩に行ったタイミングで物知りおばさんの島田さんにそれとなく聞いてみた。


「桶谷店長って、あんな可愛いのに旦那さんとかいないんですかね?いないですよね!きっと。仕事に熱心な人だし。」


「あー、旦那さんいるよ。子供も2人いるわ。そんなの当たり前でしょ。子供は店長にそっくりだよ!あと旦那さんにも私会ったことあるわ。カッコよくはない。うん。店長にはもったいないかなー。なんで結婚したかは不明だわ。」


「あ、あはは。そうですよねー!あんな可愛いんだもん。家族いないわけないですよねー!そうだそうだ。うん。。」


この日久しぶりに絶望を味わった。

警察をダメになった後、久々の衝撃だったと思う。


「諦め」という2文字が浮かんだ。


そしてこの日、ユリコ店長が大好き過ぎて書いていたメモをレジに忘れてきた。


毎日している勉強が手につかないほど、動揺した。

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