第124話~カノンと一ノ瀬家~

カノンの容態が無事なのも確認でき、点滴が終わった頃、医師の判断で退院しても問題ないとの事で、カノン達は退院の準備に取り掛かった。


美桜の父は車の準備を、母は退院手続きの準備を、カノン達は着替えや私物の整理などをして帰宅準備が整った所で、病院を後にした。


カノン達が病院を出た後、買い物をする為に寄り道をして一ノ瀬家に向かった。

その頃には外は、陽が落ち始めていた。


「………。」

「思ったより買い物したなぁ…。母さん、これどこに置いたらいい?」

「……その袋の中のもの…すぐに使うから……台所にお願い…。」

「了解。(母さん…まださっきの話、受け入れられてないんだな…父さんも…まぁ…無理もねぇか。)」


一ノ瀬家に着き、美桜の父は人数分の飲み物を準備し、買い物の荷物を美桜の兄と母、二人が片し、カノン達は病院から持ち帰った荷物の片づけをしていた。


各々がしていた事を終え、ダイニングテーブルに集まった。

空気がいまだ重い中、呆れた様子で先に口を開いたのは美桜の兄だった。


「で、なんでお前達がまだいるんだ?」

「僕達も何かお手伝い出来るかと思いまして。」


美桜の兄は、向かい合わせに座っている峰岸君や原さんに視線を送りながら問いかけ、美桜の兄の言葉に峰岸君がにこやかに答えた。


「…まぁ、学校でフォローしなきゃなんない所もあるだろうから…良しとするか。」

「「ありがとうございます。」」


美桜の兄が、今後カノンが学校に通う上で、何かしらのフォローが必要な事を考え、渋々納得し、病院では出来なかった話し合いをする事にした。


「あー…今後の事についてだが…。病院でも言ったけど、美桜がもとに戻れるようにお前のやり残した事の協力はする。まずは自己紹介からだな。って言っても、今回で入れ替わったのは二回目だから、だいたいは知ってると思うが…俺はかなめだ。改めてよろしく。」


かなめお兄様ですね。こちらこそ、よろしくお願いします。」

かなめお兄様はやめろ、むずがゆい。かなめでいい。」


「……わかりました。かなめ様。」

「…そのかなめ様もやめろ。普通でいい。普通で。」


「…わたくし達の普通は、お相手の方に頼まれない限りは『様』の敬称を付けますのよ。」

「わたくし達の普通ってなんだよ!どこの貴族だよ!」

「あいにく、貴族出身ですわ。」


「お・ま・え・なぁ~~…負けず嫌いかよ!」

「負けず嫌いだけでなく、あきらめも悪いですわ。」


「美桜以上に頑固で負けず嫌いかよ!めんでくせぇ!つーか、今思えば最初の入れ替わった時もこんな感じの強気だったな!そういえば!」


かなめとカノンが静かに話していたが、いつの間にか会話に火が付き、ヒートアップした。

二人の様子を見ていた美桜の母や父が吹き出し、笑いをこらえていた。

それを見たかなめが啞然とした顔で父と母を見た。


「…え、なに…何に笑ってんだ?」


かなめの問いかけに、美桜の母と父は次第に落ちつきを取り戻した。


「ふふっ…ごめんなさい…なんだか…うじうじ考えてる事がバカみたいに思えて…ふふっ…。若いっていいわね、柔軟な思考…対応…見習わなきゃね。


……ごめんなさい。せっかく、美桜と前とは違って話すようになったから…目の前の事が受け入れられずにいたの。


美桜の姿なのに、他の人だなんて、受け入れるのにはもう少し時間がかかると思うけど…私も、協力するわ。本当の母親のように思って接してくれたら嬉しいわ。


私はゆい。わたしは~…呼びやすい方でいいからね。これからよろしくね、カノンちゃん。」


「よろしくお願いします、えっと……ゆいお母様。」

「本物のお嬢様に改めてそう呼ばれると、なんだか照れるわね。」


「……まんざらでもなさそうだね。…いつも、お兄ちゃんやお母さんに話を持っていかれるな。私は美桜の父、とおるだ。私も呼びやすい方で。改めてよろしくね、カノンさん。」


「よろしくお願いします、……とおるお父様。」

「……お母さんの気持ちがわかった気がする。」


「…父さんも、まんざらでもないのかよ。でも、話…少しはまとまったみたいだな。」


重かった空気も和やかなものに変わり、皆の表情も緊張から柔らかいものに変わっていた。

そんな中、原さんが口を開く。


「名前の呼び名なら、私達は今まで通りで呼んで欲しいな。あ、でも…大人びた雰囲気だから、カノンさん…でいいかな。」


「僕も…カノンさんと呼ばせて欲しいかな。」


「お二方…わかりました。では、今まで通り、いのりちゃんに雅君…とお呼びします。学校生活…何かと面倒をお掛けしますが、改めてよろしくお願いします。」


「「任せて!」」


皆が軽く改めた自己紹介も終わり、カノンのやり残した事の話しに進んだ。


「んで、カノンのやり残した事ってなんだ。」

「…それは。」

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