最後の異世界生活~カノン編~
第123話~わたくしは…~
現代日本。
おまじないを唱えた夜にみるいつもの夢とは違い、不安を覚える夢を見たカノン。
現実世界に意識が引き戻され、うっすらと目を開けると、見慣れない天井が目に入り、まだはっきりしない意識の中、頭を動かし、目に入る情報から今の状況を把握しようとした。
「……こ…こは…。…変わった匂い……しますわ。」
カノンが、
ドアが開いた先から、現れた見慣れた人と目が合い、カノンは勢いよく抱き着かれた。
「美桜!!良かった!!二日も目を覚まさないから心配したのよ!どこも痛いところはない?具合はどう?」
カノンに抱き着いた人物。
それは美桜の母だった。
美桜の母に続いて、美桜の父や兄、峰岸君や原さんが部屋に入ってきた。
「あの…ここは…。見た事もない器具ばかりですし…独特な匂いがしますわ。それに…この腕に付いているもの…。」
カノンに抱き着いていた美桜の母は、体を離し、目に浮かべていた涙を拭いながら説明をした。
ここは病院の個室で、二日も目を覚まさなかったのが栄養的にも心配だったので、栄養を補給するための点滴をしてもらうべく、検査入院をする事にしたそうだ。
峰岸君や原さんに関しては、美桜が学校を休んだので心配になり、家にお見舞いに来た所で、美桜の着替えを取りに来た美桜の母と家の前で会い、事の詳細を聞き病院に一緒に来たとの事だ。
説明を聞いたカノンは納得したような表情を浮かべた。
「そうでしたの…。ご心配お掛けして申し訳ありません。わたくしは、痛い所もないですし、具合の悪さもありませんわ。ご安心ください。」
「「「………。」」」
カノンが、皆に安心して欲しくて自分の状況を伝えるが、美桜の父と母、兄は目を丸くしてカノンを見た。
「美桜……口調…またお嬢様になっているわよ。」
「最近は貴族の真似事やめてたはずだけど…急にどうしたんだ…。」
美桜の母や兄の言葉に、後ろの方にいた峰岸君や原さんは顔を見合わせた。
二人は以前、美桜から聞いた話を思い出し、峰岸君がカノンに視線を戻して近づいた。
「……美桜ちゃん…じゃない?……もしかして…カノン…さん?」
「どうして…。」
峰岸君の問いに、今度はカノンが驚いた表情をした。
カノンの問いに、原さんが答えた。
「美桜ちゃんから聞きました…全部…。なので…知ってます。あなたがどこから来たのかも…。」
「なんだよ…どういうことだよ。美桜じゃないって言うのか?じゃぁ…誰なんだよ…美桜の姿をしているのに!いったい…お前は誰だよ!!」
原さんと峰岸君の言葉を聞き、話が見えず動揺を隠しきれない美桜の兄が、原さんや峰岸君、カノンを交互に見て、最後にカノンに視線を向けて問い詰めた。
美桜の母や父も、信じられないものを見るような目でカノンを見ている。
その場に緊張が走り、カノンは言うか言うまいか迷ったが、カノンを見る皆が、「ちゃんと聞かせてくれ」と言わんばかりの瞳を向けている。
視線負けをしたカノンは、俯き、拳を握り、深呼吸を一つして、意を決した表情を言葉を待つ皆に向けた。
「先に……謝罪致します。皆さんの大切な方のお体を…お借りしている事…申し訳ありません。わたくしは…別の世界から来ました、カノン・グレイス・フローライト…と申します。」
「美桜じゃ…ない?……そんな…どうして…。」
カノンの言葉に、気が抜けたような表情で膝から崩れ落ち、地面に座り込んだ美桜の母。
そんな美桜の母に、寄り添うように美桜の父も地面に膝立ちをした。
美桜の兄は拳を握り、唇を噛み、キッとカノンを
峰岸君や原さんは寂しそうな表情でカノンを見ている。
そんな中で口を開いたのは、美桜の兄だった。
「……カノン…と言ったな。こんな事になった理由とか…原因とか…なんかあるんだろ。どうしてこうなった。美桜はどこに行ったんだ。……もとに…戻るのか。」
「……全て…お話致しますわ。」
カノンは事の全てをその場にいる皆に話した。
「……俺らの…せいで…。」
美桜の兄の言葉に、カノンは伏し目になった。
「……たしかに…。最初の『つまらない』…は、そうかもしれません。ですが、二回目の『つまらない』は、わたくし達のやり残した事をしたいという意志ですわ。誰のせいでもありません。」
「……やり残した事をやり遂げたら…お前は自分の国に帰って、美桜は帰って来るんだな。……なら…そのやり残しが終えるまで…協力してやる。」
美桜の兄の言葉に、カノンは伏し目だった顔を上げ、驚いた表情見せた。
地面に座り込んでいた母や、母の隣にいる父、峰岸君や原さんも驚いた表情をしている。
「…よろしいのですか…。」
「にわかに信じられないが…受け入れるしかないし、実際、美桜と口調とか違うし…お前を責めても仕方ないだろ。二人が決めた事で今、目の前の事が起きてるなら…俺らにはどうしようも出来ねえし…。その代わり…無茶はするな…。」
美桜の兄はため息を一つ吐き、「とりあえず、これからよろしく」と、ぶっきらぼうながらに手を差し伸べてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます