第125話~美桜さんはすごいですわ~

「わたくしのやり残した事…それは…空手で初段に昇格、知識の蓄え、技術向上、ですわ。この世界は…わたくしの国よりもすごく発展しているので、学んで自分の国をもっと良くしたいのです。」


「他国留学と言う訳か…なるほどな。」


カノンの言葉に、何が出来るものかと考え込む皆にカノンは慌てた様子を見せた。


「あ、あの…皆さんが深刻なお顔になる必要はありませんわ。わたくしの問題です。協力…それはとても心強い事ですが、わたくしにも今現在、自分で何が出来るか、何が必要かまだ詳細ははっきり決まっていないのです。…なので、この世界を無双して見つけますわ。」


「無双って……何か間違った知識を入れてないか…。」


カノンが拳をグッと握り、意気込む様子を見て呆れた表情を浮かべたかなめ


「本人がまだ決まってないなら…今は具体的に動けないな。…では、カノンさん、どこかへ行きたいとか、どういった事を知りたいとか、あればまた教えて欲しい。そういう事の相談を受け入れたのち、助言や行動の協力は出来ると思うから。」

「わかりましたわ、とおるお父様。その際はよろしくお願いします。」


「うん、任せなさい。さて、そろそろ夕食の時間だ。峰岸君や原さんも良かったらご馳走するよ。」


「「ぜひ頂きます!」」


とおるの言葉に峰岸君や原さんが、戸惑いながらも勢いよく答えた。

その返事にとおるは満足そうに笑顔で頷き、夕食の準備に取り掛かった。


峰岸君や原さんが手伝う事を申し出たが、お客人という事で手伝いを見送られた。

その様子を見ていたカノンが、料理を学びたいと勢いよく手伝いを申し出て、圧倒されたとおるは一瞬目を丸くしたが、すぐに表情が戻り、「よろしく頼む」とカノンと台所に入って行った。



カノンととおるが夕食を作り終え、お皿に盛り付けて運んでいると、峰岸君や原さん、かなめゆいが手伝いに入り、全員で夕食をダイニングテーブルに並べた。


夕食を食べる準備を終え、皆が席に着き、箸を進めた。


「…そういえば、カノンさん、お箸の持ち方キレイだよね。」


箸を動かしながら原さんがふと思ったのか、カノンに問いかけた。


「えぇ、美桜さんが時をかけて身につけた技術は感触として残っているようです。文字の読み書き、言葉、それに…お料理や絵を描く技術も…。」


「そっかぁ。美桜ちゃん、頑張り屋さんだもんねぇ。」


「そうなのですよ!美桜さんはすごいんです!わたくしの国に新しい服飾の形やお菓子の知識に作る技術、クリスマスを模した飾り付け等々…皆が目を見張るものばかり発案し、国を発展させていましたの!!美桜さんの行動力に負けないくらい、わたくしも頑張る所存ですわ!!」


「カノンちゃんの国で美桜がそんな事を…。そう…そうなの…。」


カノンの美桜を熱く語る様子にうっすら涙を浮かべるゆい

その様子を見たカノンが安心したような表情を浮かべた。


ゆいお母様のそのご様子…先ほどもお話に出ていましたが…。家族としての距離…縮まったのですね。とおるお父様や、かなめさんも…。良かったです。美桜さんも…一人ではなくなったのですね。」


「『も』って事は…お前にも…何かあったのか…。つまらないって思うくらいだもんな…。」


カノンの言葉に、かなめは疑問に思った事を直接ぶつけたが、踏み込み過ぎたとハッとし、気まずそうな表情を浮かべた。


「ふふっ…お気遣いは無用ですわ。…そうですわね…わたくし…以前は一人でしたの。周りのご令嬢達と少し価値観が違いまして…他の貴族達や屋敷の使用人達…それに父からも変わり者だと敬遠されまして…。ですが…美桜さんがそれを変えてくれましたの。今はもう…一人ではありませんわ。ご令嬢のお友達や…婚約を結んだ大切な方もいます。」


「そっか…悪い事聞いたな。けど、美桜…そっちの世界ですごい功績残したんだな。…無茶しなきゃいいけどな。」


「……美桜さんは、悪人相手に戦ったりする事はないと思うので、心配いらないと思いますわよ。わたくしはよく、殿下に…婚約者に無茶はするなと言われましたが…。」


カノンの言葉に、その場の皆の箸を動かしていた手が止まり、啞然とした顔でカノンを見た。


「……悪人相手に戦った…ってカノンさん何したの…。」


啞然とした顔で先にカノンに質問したのは峰岸君だった。


「…えぇっと~…いろいろな事情で誘拐…されまして…。逃げようと試みた所に悪人が来て、戦闘になった…ってところですわ。あ、ですが、すぐに殿下が助けに来てくれましたのよ、なので、大事に至らなかったですわ。(共闘した事は伏せましょう…ゆいお母様の表情が真っ青ですわ。)」


カノンの返事に皆が、呆れつつも安心したようにため息をついた。


「…つーか、何気なく殿下を婚約者と言い直さなかったか…。やっぱり貴族社会だから王族社会なんだな…。しかも…王族に嫁入り…はは…すげぇな。」


カノンの先ほどの言葉を思い出したように、かなめが何気なく言った言葉を聞いたその場のカノン以外の皆は現実味がない為、遠くを見るような目で箸を動かしていった。

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