第105話~定着してるお菓子~
美桜がカノンの日記を読み、情報を整理しきれていない中厨房へ足を向けた。
厨房の前に着いた美桜は深呼吸を一つして、ドアノブを握り緊張の顔立ちでドアを恐る恐るゆっくりと開けた。
美桜が少し開いたドアから中を覗くと、昼食後の厨房は少し落ち着いており、作業している人数は少なかった。
そんな中でドアが開き美桜が覗いている事に気付いた料理人の一人が美桜に声を掛けてきた。
「カ…いえ、美桜様、どうされましたか?」
「あ、作業中にすみません。またお菓子作りのために厨房を貸して頂けたらなと思いまして…。お邪魔でしたでしょうか。」
「そんな事はありません。どうぞ、好きにお使いください。何か手伝える事があれば何でも言ってください。」
「はい、ありがとうございます。お邪魔します。」
美桜はこの世界に戻ってきて、使用人達に自分の事を知られたうえで美桜として受け入れてもらえるか緊張していたがそれは不要だったようで、快く厨房へ招いてくれた。
美桜は安堵し料理人の言葉に甘え、材料や道具をそろえ、お菓子作りに取り掛かった。
「(誘拐…は、カノンさんお嬢様ですし…それにしてもリーデル子爵…元…でしたね。許せません。領地に住む人たちや自分の家族に対する扱い…女の敵です!)」
「あ、あの~美桜様?お顔が…怖いです…。何か不備…ありましたか?」
「い、いえ!すみません!考え事をしていたもので…。」
「そ、そうですか…。あの…自分もお菓子…作ってもいいですか?」
「はい!もちろんです!」
美桜は考え事が顔に出ていた事を反省しつつ、お菓子作りを再開した。
そんな中、料理人の一人が美桜の隣でお菓子を作り始めた。
「(アザレアの災害…私が夢に見た事が実際にあったなんて…。後でアザレアに行ってみましょう。それにしても…カノンさんが婚約…。おめでたい事です!……あ、でも…お相手は殿下なのですよね。距離には気を付けなければ…。)……え。」
美桜が百面相しながらも黙々と作業をしていき、状況も整理出来たところで作りたかったお菓子は出来上がった。
美桜は隣でお菓子を作っている料理人に視線を送ると黙々と作業をしていたのだが、出来上がっていくお菓子の数や種類に目を見張った。
今回、美桜が作ったお菓子は二種類で、プディングタルトとフライパンを使ってバームクーヘンもどきを作ったのだが、なんと、料理人もプディングタルトやマドレーヌ、市松模様のクッキー等を作り上げていた。
「あ、あの…この世界…こんなにお菓子の種類ありましたっけ…。」
「美桜様から頂いたレシピをもとに作ったお菓子や、応用したり組み合わせたり試行錯誤してお菓子が増えました。お菓子って可能性を秘めていて、作れば作るほど楽しいですよね。」
「(短期間でこんなに種類やお砂糖が充実してすごいです。見た目もさすがで完璧です。…あ!お時間も丁度3時でおやつの時間ですね。)」
「カ…美桜様、出来上がったお菓子はアフタヌーンティーにお出ししましょうか?」
「リリーさん!ありがとうございます。丁度アフタヌーンティーの時間だなと思いまして…。」
お菓子のいい匂いに誘われて侍女のリリーが厨房へ入ってきた。
出来上がったお菓子たちを見てリリーは提案を出し、美桜はその提案を受け入れ、アフタヌーンティーの準備をリリーにお願いした。
「そうしましたら、談話室に皆さんをお呼び致しますね。失礼します。」
リリーは嬉々とした様子で厨房を後にし、仕事をしているであろうオリヴァー達やドレスの調達をしているであろうサントリナを呼びに各部屋へ行った。
「リリーさんが呼びに行っている間にお菓子の盛り付けをしましょう。」
「あ、あの…カ…美桜様、お茶の準備、私達も手伝います!」
「…はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
美桜がお菓子をお皿に盛り付けていると、別の使用人達がポットや茶葉の用意の提案を持ち掛け、皆で準備に取り掛かる事にした。
お菓子を使用人用と、自分達用に取り分け、美桜は使用人達に皆で食べるように声を掛けた。
その言葉に皆は歓喜の声をあげており、その直後、リリーが戻り美桜と二人談話室に向かった。
美桜とリリーが談話室に着き中に入るとすでに皆が揃っており、美桜はサントリナの隣の空いてるソファに腰を掛けた。
「このお菓子は見たことないわねぇ。味は~…この間カノンが作ってくれたプリン?でもタルトの味もするわ。」
「そのお菓子はタルト生地の上にプリン生地を流し込んで焼き上げたお菓子で、プディングタルトと言います。」
「本当にお菓子っていろいろあるのね。面白いわ。こっちのお菓子は…見た目がキレイね。でもどこかで見た事あるような…。」
サントリナはお菓子を前に目を輝かせており、美桜の解説を聞きながら幸せそうな顔でお菓子をほお張っている。
サントリナの疑問に答えたのはフロックスだった。
「切り株じゃないかな?なんだか木を切った時の模様のように見えるよ。」
「そうなんです!私の国とは別の国のお菓子で、木を切った時の模様に見える事が名前の由来になっていたりします。」
「美桜ちゃんのお菓子は見た目も面白いし、美味しいし、最高だね!ところで、この後は何かするの?」
フロックスもお菓子を美味しそうにほお張りながら美桜に疑問を投げ掛けた。
「この後はアザレアに行こうと思っています。」
「アザレア…か…。目が覚めたばかりだから、今日は一日ゆっくりするのはどうだろうか。明日から本格的に動くって事で。」
「…ですが…。」
「僕もフロックス殿に同意するよ。美桜嬢の焦る気持ちもわからないでもないよ。だけど、無理は禁物だ。明日なら、僕やフロックス殿も一緒にアザレアに行けるから。」
フロックスやライラックは美桜が無理をしそうなのを止めに入った。
美桜はすぐに動けない事に寂しさを覚えるが、熟考した結果二人の言う通りこの日は屋敷内で過ごす事にした。
「それなら、この国の事、もっと勉強します!」
美桜は意気込みを入れて、アフタヌーンティーの後に書庫に行くのを楽しみにした。
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