第106話~新たな事業~

美桜がフローライト家で目が覚めた当日、アザレアに行きたい衝動があったが、目が覚めたばかりの美桜の容態を気遣うライラック達の言葉に従い、この日は屋敷内で過ごす事にし、明日から本格的に活動する事になった。


美桜はただ、屋敷内で過ごすだけでは時間がもったいないとの事で、再度この国の事を学び、雇用問題の解決や美桜の知識や技術で他に何か出来ないか試みる事にした。


「美桜ちゃん、書庫に行くなら私も一緒に行くわ。国の事、改めて勉強するのでしょう?私も何か力になりたいの。」

「サントリナが行くなら、僕も行くよ!」

「それなら僕も!」

「私も行こう」

「……結局皆さん…一緒に来てくれるのですね…。ふふっ…ありがとうございます。」


美桜は一人で書庫に向かおうとしていたのだが、サントリナやオリヴァー達を含め結局全員で書庫に向かった。


書庫に着いた一行は、美桜に歴史書や地図、現在の職一覧表などの資料になるような書物を選び抜き、書庫内にある円形のテーブルに積み上げた。

美桜は紙とペンを用意して、勉強出来る姿勢を取った。


「あの…そういえば…私も殿下やオリヴァーお父さん達のお仕事をお手伝いしなくてよかったのですか?」

「新たに領地となった場所の事業や手続きだからね。こればかりは美桜さんの力を借りることは出来なくて…申し訳ないね…。」


「い…いえ…。差し出がましい事を言いました。すみません。」

「そんな事はないよ。その代わり、他の事に力を発揮して欲しい。頼りにしているよ。」

「はい!ありがとうございます!あ!そういえば、自画像、書き上げなきゃ!」


美桜がオリヴァーと話し終わったのと同時に自画像の事を思い出し、スラスラとペンを走らせ書き終えた。その間、フロックス達の資料選びが終わったらしく、十数冊ほどの資料がそろい、サントリナを筆頭に美桜に指導していく事になった。


「それ、自画像かい!?やはり美桜ちゃんは天使だった!!可愛らしい!!!」

「良かったですわね、お兄様。こちらもさっそく始めましょう!」


自画像を見たフロックスは嬉しそうにしており、その傍らでサントリナによる指導が始まった。サントリナの教え方はとてもわかりやすく、美桜の頭にすんなりと入り、美桜はペンを走らせ教えをまとめていった。


一通りサントリナから国の事を習ったうえで美桜は疑問に思った事をたずねた。


「あの…。この国…貧しい…って訳でもなければ、裕福…と言う訳でもないですよね。でもせっかくなら、他の国の方々にも訪れてもらえるような国に…したいなと…。」

「うーん…たしかに…。この国のいい所…と言われると、皇太子の僕でも困る質問だなぁ。今でこそお菓子がある国だが…それだけでは…。」


「少し…疑問なのですが、サントリナお姉ちゃんの説明の中に、この国の土は上質ではなく、普通の土で、だけども砂糖の実やチョコレートの実はどこでも育つ…とありました。私もこの二つの実はどこでも育つのでアザレアの特産品にと以前は考えたのですが、いっそ、国の特産物にしませんか?私がこの世界に来た時よりお菓子が定着し始めていますし、この先も需要が見込めますし、広いとはいえアザレアだけでは補えないかもしれません。」


「…なるほど…国をあげての栽培。」


「それだけではないです。土も、少し工夫するだけで質が良くなって育つ作物の品質が上がります。時間はかかりますが、試す価値はあると思います。土を良くするための…肥料と言います。それに、お菓子の材料になるものの生産…これらを雇用問題に活かせないでしょうか。」


美桜の発案に一行は唖然とするが実現すると国にとってとんでもない利益を生むと考え込んだ。

そんな中、サントリナが美桜に疑問を投げ掛けた。


「ねぇ、美桜ちゃん、土を工夫したら、作物の質が上がるという事は、花にも影響するのかしら?私…年中咲いて欲しい花があるの…。」

「…それは…花の品種改良…花を人の手によって交配させて好みの花に仕上げる方法や咲く時期を遅らせたりなどあります。」

「あるには…あるのね。それが成功したら…この国の名物にもなるわね。」


美桜は今の話の中から雇用につながる物を紙にまとめていった。


お菓子作りに欠かせない卵などの畜産物、砂糖の実、チョコレートの実、肥料。

これらを国をあげて生産、加工をして販売。

夢を現実なものへとするべく、美桜は計画書のように細かくまとめ始めた。


その出来上がった書類から目を通していくサントリナやオリヴァー、ライラックにフロックスは目を見開いた。

その中で書類に驚いたフロックスが呟いた。


「時間はかかるが、無理な事ではない…。こんなにわかりやすく…。美桜ちゃんすごいな…。」

「これ…今から僕が王宮に持って行って次の会議の議題にあげるよ。国をあげての政策…こんなにワクワクするのは女神祭以来だ!!」


ライラックの言葉に皆が笑顔で頷き、ライラックは王宮に軽い足取りで向かって行った。

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