第104話~カノンの手紙~

美桜達が和やかに談笑を交え昼食を終えたのち、執事のカクタスが仕事の手順を伝えに来たので、カノンの父オリヴァーとカノンの兄フロックス、ライラックは書斎に向かった。

カノンの姉、サントリナはドレスの新調があるらしく、仕立て屋が来るとの事で自室に戻って行った。

一人になった美桜はどうしたものか考えたのち、カノンの部屋に戻り、日記を読む事にした。


「(久しぶりにこの世界に来て、カノンさんと入れ替わった事を知られて…改めてこの世界で生活できるか不安がありましたが…皆さん良い人達で本当に良かったです。カノンさんのお兄さん…ものすごく明るい方で驚きました。要お兄ちゃんとは正反対ですね。)」


美桜が考えながらカノンの部屋へ足を向けているといつの間にか部屋の前まで来ていた。

カノンの部屋に入り、本棚にあるだろう日記を探す。

だが、本棚にはなく、部屋の中を探しているとベッドを探していない事に気付きベッドの方も確認した。

カノンは寝る直前におまじないを唱えた事もあり、美桜の探していた本は枕元にあった。


「(見つけました。カノンさん、すみません。中…見させていただきます。)」


美桜が日記を開くと、中から封が落ちた。

美桜はその封を拾い、裏や表を確認した。

封の表の方に『美桜さんへ』とキレイな字で書かれていた。


「(キレイな字です…それに日本語…カノンさんですね。)」


美桜は封の中から紙を取り出し読み上げた。


『美桜さんへ


こうしてお手紙を直接書くのは初めてですわね。


夢では二度お会いしましたが、何故だか今回はお手紙を書いてみたくなりましたの。


単刀直入に申し上げます。


わたくし、美桜さんの世界でやり残した事がありますの。


それをやり遂げたくて、わたくしの国のお仕事…半端になってしまいました。


二兎を追う者は一兎をも得ず…そういう言葉があると美桜さんの国で学びました。


ですが、時には致し方ない事もあるのも学びました。


正直、苦渋の決断でした。


距離があった家族と和解し、和気あいあいし始めた生活に婚約を結んだ殿下との離別。


様々な事が光を浴び始めましたのに、わたくしはどうしてもやり遂げたい事が頭から…心から離れないのです。


勝手を承知で申し上げます。


美桜さんのお身体…もう一度お借り致します。


殿下には全てお話し致しました。


きっと…わたくしを恨んでいるかと思います。


美桜さんも…こんな身勝手なわたくしを許してくれないでしょう。


本当に申し訳ございません。


そして…身勝手なお願いを聞いて頂けないでしょうか。


アザレアの事をお任せしたいのです。


美桜さんは美桜さんらしく…ですが必要な時はわたくしの名前を使ってくださいまし。


圧になったなら申し訳ありません。


ですが、わたくしの大切なお友達で…出来ると信じているからこそ伝えます。


わたくしの大切な国を……もう一度お任せします。


直接会えずとも心より応援…致しております。


追伸、とある占い師さんに力が消えかかっていると伺いました。


もし、具合が悪くなったりいつもと感覚が違うと感じた際は無理はせず、おまじないを唱えてくださいまし。


カノンより』


カノンの手紙を読み終えた美桜は手紙を持つ手に力が入り、少し小刻みに震えていた。

美桜の目には涙がうっすらと浮かんでいた。

夢で話す事は出来なかった。

だが手紙を残してくれていた為、間接的に話をしている気持ちになり美桜は嬉しさが込み上げ、また、自分と同じ事をまたしてもしている事にも嬉しくなり笑顔がこぼれた。


美桜は手紙を封に戻し、日記の最初のページにはさんだ。


「(カノンさん…お手紙…ありがとうございます。託してくれて…ありがとうございます。応えてみせます。絶対。……私…いつのまに…こんなに多くの人に…。)」


美桜は再度意を決した。

さらに、美桜が知らない間のカノンの生活を把握しようと前回入れ替わった所からの日記を読んでいった。


「………(カ、カノンさん…誘拐に殿下との共闘…領地拡大に…新たな事業…アザレアの災害に婚約……この数か月でいろいろ起こり過ぎなのでは?!)」


カノンの日記を読み終えた美桜は、思考と感情が追い付かないでいた。

思考処理が追い付かず、今にも気を失いそうなのをどうにか持ちこたえていた。


「………とりあえず、落ち着くためにお菓子を作りましょう。」


美桜はワンピースタイプの制服に着替え、少し呆けた状態で厨房へと向かった。

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