第101話~不穏のち晴れ~

美桜は緊張の顔を浮かべ、時には首を動かし、静かに話を聞いている皆に視線を送りながら一つ一つ、事の全てを話した。

美桜が伝え終わった頃、緊張と皆の反応の恐怖で目には涙をうっすらと浮かべており、ドレスを握る手にまた少し力が加わりその手は震えていた。


「「「「………。」」」」


皆が美桜の話を聞き終わり、しばしの沈黙が続いた中、先に口を開いたのはカノンの父、オリヴァーで額に手を当てながら話した。

彼の表情は手に隠れており読み取る事は出来なかった。


「……カノンが活発になった頃と時期が一致している……。そうか…お菓子や衣類の発案、ステンドグラス風のツリーは…君の国の技術だった訳か。それにカノンの心持がそのような……。まさかあの時…入れ替わっていたとは…。」


「……君は…やり残しがあると言っていたね。話を聞く限り…正直、君がそれをやる必要性を僕は感じない。だってそうだろう?僕たちの国の事だ。自分達の国くらい、自分達で守る。妹の人格と入れ替わってまでやる事ではないだろう。君が出る幕ではないよ。」


オリヴァーの次に口を開いたのはカノンの兄、フロックスだった。

言い回しはきつく、表情は読み取れず「無」そのものだ。

美桜はフロックスの表情や言葉に圧倒され、ゴクッと喉を鳴らした。

そのやり取りを見ていた姉のサントリナが兄に声を掛けた。


「お兄様……さすがに言い過ぎでは…。」

「悪いけど…サントリナは少し、口を閉じていてくれるかい?」

「………。(…お兄様…今まで言われた事のない言葉…。)」


「さて…話を戻そう。国の事は僕達に任せて、君は帰れる日が来るまでおまじないを唱えているといい。君の世界にいるカノンとおまじないをする都合が合えば、帰れるのだろう?それまでは客室を使ってくれて構わないし、衣食住の保証はするよ。屋敷内なら中庭や書庫に出入りしてもいいし、何も問題はないと思うがね。」


フロックスの突き放すような言葉。

それは以前、美桜が家族から受けたものに近く、努力をしても実らなかった過去が頭をよぎり悔しさが込み上げた。

美桜のドレスを握る手にこれ以上出ないであろう力がこもる。

フロックスの言葉はもっともで、異世界から来た美桜が口をはさむような事ではない。

こちらにはこちらのやり方がある。

わかってはいるが、それでも納得が出来ず美桜は諦めなかった。


「……嫌です…。問題は…あります。たしかに私は…この国に関係ないかもしれないです…。それでも…関わった以上、最後までやり遂げたいです!自信のなかった私に!変わるきっかけをくれた国の人達で!…街の人達で!私にとって、その人達との出来事は大切なんです!だから!その人達が困っているなら手を差し伸べたいんです!『幸せ』だと…笑顔になるのを最後まで見届けたいんです!…半端な気持ちや覚悟で、今ここにいません!!!」


美桜はいつの間にか立ち上がり、声を震わせ、精一杯の気持ちをその場にいる皆に声を張り上げ伝えた。

美桜の目にはうっすら浮かんでいたはずの涙がいっぱいに溜まっており、伝え終わったのと同時にぽろぽろとこぼれ出した。


「……ふっ…あっははははははは!。」


美桜の言葉を聞いたフロックスは突然笑い出し、美桜はその様子に涙をぬぐい困惑の表情を見せ、笑い続けているフロックスに疑問を投げかけた。


「あ、あの~…?笑う…所ですか?」

「あはははは!いやぁ、ごめんね。柄にもなく演技をしてしまって、そんな自分に耐え切れずに笑ってしまったよ。」

「え…演技?」


フロックスの言葉に困惑の表情を浮かべ続ける美桜。

そんな美桜にフロックスは先程とは違い、優しい表情を浮かべた。


「そう…父も、僕も演技だったんだよ…。サントリナは素だったけどね。……君も自分の国に大切な人達がいるだろうに、その人達との生活を蹴ってまでこの国に戻って来るなんて、どんな覚悟を持っているのかなと試させてもらったよ。怖い思いをさせてしまってごめんね。君の気持ち…受け取ったよ。この国の為にありがとう。改めまして、ようこそ!アルストロメリア王国へ!そしてフローライト家へ!君を歓迎します!君が今後やりたい事に微力ながらに協力させてもらうよ!」


フロックスは手を広げ歓迎の意を込めて、満面の笑顔で美桜に伝えた。

その様子に美桜は張り詰めていた緊張が解け、体の力が一気に抜け落ち、椅子に吸い込まれるように座り込んだ。


「サントリナもごめんね。冷たい言い方をしたね。」

「…いいえ。普段、妹に対して激甘なのであれくらいがちょうどいいですわ。」

「えぇ?!それはそれで、僕が納得いかないよ!」


その場の空気が変わり、様子をずっと見守っていたオリヴァーとライラックは、安心したような表情で顔を見合わせた。

ライラックも寂しそうな表情が消え、優しい笑みを美桜に向ける。


「フロックス殿に僕の思っていた事、全部言われてしまったよ。これじゃぁ、皇太子としての立場がないね。…ほんと、フローライト家には敵わないなぁ。僕からも一言…改めて、ようこそ我が国へ。以前、街の復興や街おこしに尽力してくれた事…感謝するよ。」

「い…いえ…私は何も…。」


先程とは打って変わった空気に美桜は呆然としており、力の入ってない言葉がこぼれた。

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