第102話~美桜とフローライト家~

フロックスとやり取りをしていたサントリナが一段落したのか立ち上がり、美桜の隣の空いている席に着き、優しい笑みを浮かべ、美桜の頭を優しくなでた。


「私からも改めて、お兄様の言葉…ごめんなさいね。怖い思い…したでしょ?実は…あなたが二日も目を覚まさなかったから、殿下から話は聞いていたの。カノンが殿下に話していた内容…とても信じがたい事だけれど、妹とは違う雰囲気を持つあなたを前にして、夢じゃないって思えたの。それに話を聞いてから少し時間があったから、受け入れる覚悟はしていたわ。」

「そ…そうだったんですか…。」


「ふふっ…あなたの口から全部話してくれてありがとう。私もしばらくここに滞在するから何でも相談してちょうだい。本当の姉のように思ってもらえたら嬉しいわ。あ!そうだ!あなたの国では姉の事をなんと呼ぶのかしら?やっぱりお姉様?」


「えっと…一部お姉様と呼ぶ人もいるとは思いますが…一般的にはお姉ちゃん…って呼びます。」

「まぁ!お姉ちゃん!その響きいいわね!あなたさえ良かったらサントリナお姉ちゃんって呼んでくれないかしら?」


「は、はい…サントリナお姉ちゃん…。」

「んまぁ~可愛い!今からよろしくね!美桜ちゃんと呼んでいいかしら?」

「はい…よろしくお願いします…。」


美桜はサントリナの提案に恥ずかしさで顔を赤くして、俯きながらもじもじとし、サントリナは嬉々とした様子でいる。


そのやり取りを見ていたフロックスが美桜が座っている席の向こうから声をあげて話に入ってきた。


「あ!サントリナだけずるいよ!僕も美桜ちゃんと呼びたい!いいかな?!それに、姉をお姉ちゃんと呼ぶなら兄はお兄ちゃんと呼ぶのだろう?!僕も呼ばれたい!」

「ダメですわよ。さっき美桜ちゃんに意地悪な事を言ったのですから、お兄様はお兄様ですわ!ね、美桜ちゃん。」


「え…えぇっとぉ…。」

「そんな!ひどい!演技なのに!最初から美桜ちゃんを受け入れる予定だった事をサントリナは知っていただろう?!あんまりだ!」


フロックスとサントリナのやり取りに美桜はこの日初めての笑みを浮かべた。


「…ふっ…ふふっ…。」

「やっと笑ってくれたわね。」

「へ…。」

「ずっと…緊張や不安そうな顔してたもの…よかったわ。」


美桜はサントリナの優しい笑みや言葉に今度は安心から涙がこぼれ落ちた。

それをサントリナは優しい手つきで涙をぬぐった。


「あらあら、今度は私が泣かせてしまったわ。」

「ご、ごめんなさい……皆さん…ありがとうございます。私…私に出来る事、精一杯やります…受け入れてくれた皆さんの気持ちに応えます…。」


美桜はこぼれた涙をぬぐい、再度意を決した表情で皆に言い切り、皆は優しい表情で頷いた。


その後、フローライト家の使用人を全員食堂に集め、当主のオリヴァーから美桜の事を話した。

美桜の知識や技術を考慮したうえで、屋敷の外では他言無用という事も話しに加えた。

皆は戸惑いを見せながらも頷いてくれた。

それと同時に改めてカノンとは違う雰囲気や発想にどこか納得した様子も見せており、美桜の素性を守る事も了承し決意した。



ところ変わりカノンの父、オリヴァーの書斎。

美桜達は今後の方針を話し合うべく書斎に集まっていた。

方針について、真面目な顔つきで先に口を開いたのはフロックスだった。


「さて…今後の方針なんだが……僕はお兄ちゃんと呼ばれたい。」

「…まだ言ってますの…。いい加減しつこいですわよ。」


「だって!僕だって美桜ちゃんって呼びたいし、もう呼んでるけど!仲良くなりたい!それにはまず、お兄ちゃんって呼ばれるのが必須条件だろう?!ね、美桜ちゃん。」

「やめてくださいまし。美桜ちゃんを泣かせておいて図々しいですわ。ね、美桜ちゃん。」

「あ…あの~…えぇ~っと…。(ど、どうしてこうなってるのでしょう…。)」


美桜はフロックスとサントリナ二人に挟まれる形でソファに座っていた。

事の発端は美桜がソファに座った隣にサントリナが座り、それを羨んだフロックスまでも美桜の空いてる隣に座ったのだ。


「確かに泣かせてしまったが謝っただろう?!それに泣かせたのはサントリナもじゃないか!」

「あら、私のは嬉し泣きですわ。お兄様のは恐怖からの涙でしょう?」

「…そんなぁ…。美桜ちゃんは僕の事お兄ちゃんって呼ぶのは嫌かい?」


美桜を間にして言い合いをしている二人を交互に見ながらたじろいでいた美桜だが、フロックスのしょんぼりした眼差しに応えるために、恥ずかしそうにはにかんだ笑顔を見せた。


「嫌では…ないです。よろしくお願いします…フロックスお兄ちゃん。」

「か、可愛い!姿はカノンだが、カノンに見えない!可愛い過ぎる!!!カノンが女神なら、美桜ちゃんは天使だ!!僕の第三の妹~~~!!!」

「きゃっ?!」

「ちょっとお兄様?!美桜ちゃんに抱き着かないでくださいまし!…あぁ…カノンの言っていた嵐の前の静けさ…おさまりましたわ。」

「オホンッ……二人とも…気は済んだかい?」

「「……すみません。」」


騒がしくしている二人の頃合いを見て制止したのはオリヴァーだった。

表情には話が進まない怒りを含んだ笑顔を浮かべており、二人をより一層畏怖いふさせた。

その様子をライラックは苦笑いで見守っていた。


「見苦しい所をみせてしまって悪かったね。本題に入ろう。今後の美桜さんの生活などだが…君さえよければ、部屋は今まで通りカノンの部屋を使って欲しい。客人は客人だが…それは…なんだか私が嫌でね。息子達がいろいろ言ってはいたが、私も君を本当の娘のように接したい。名前は…好きに呼びなさい。それと、君はやりたい事を好きにやりなさい。今までのように。それらに関する書類などは私達のほうでやるから君は君らしく動いて欲しい。」


「は、はい…お心遣いありがとうございます。お部屋…そのままお借りします。えっと…オリヴァーお父さん?…お父様?」

「…っ…(言い方、可愛い…)あ~私の場合…お父さん…がいいかな…。」

「「「(あ…こっちもやられた)」」」


オリヴァーの言葉を美桜は素直に受け取り、首をかしげながらしっくりくる名前を呼んでみた。

その言動にオリヴァーも心を奪われたようで、照れが生じ視線を斜めに落としながら答えた。

その様子を見ていたフロックス達三人の心の声が重なり、美桜一人だけがキョトンとした表情を浮かべていた。


そうして美桜達の話し合いは和やかな雰囲気の中着々と進んでいった。

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