最終章~最後の入れ替わり~

最後の異世界生活~美桜編~

第100話~改めまして…~

美桜は夢を見ていた。


ただただ白い世界。

おまじないをした日は必ず見る夢。

だが、今回の夢はいつもと違う。

目の前にはいつもカノンの姿があった。


だが今回は美桜ただ一人だ。


「私…一人?。いつもならカノンさんもいて、一緒にお話してくれるのに…。なんでしょう…この胸が締め付けられる感覚…。あんなにキレイに思えた世界が…寂しい。」


美桜は何もない白い空間でどうにか夢から覚めようと試みた。

だが、何も反応はない。

どうしたものか再度考えていると、どこからか声が聞こえ始めた。

美桜が辺りを見渡し声を探していると、美桜の正面の何もない空間から声が聞こえた。


数回しか会っていないが、どこか懐かしい声。

先程まで探していた人物、カノンの声だった。

美桜は声のする方に近づいてみるがカノンの姿はない。

ただ空間が広がっているだけ。


何もない所からカノンの声が聞こえるが、何を言っているのか雑音が酷く聞き取れない。

姿が見えない事に不安な表情を浮かべながらも、声を聞き取ろうと声のする方を見つめた。


だがやはり聞き取れない。

美桜は聞き取れない事を伝えようと何もない空間に向かって声を出した。


「カノンさん!全然ダメです!何を伝えたいのか、聞き取れないです!どうすればよいのか!」


美桜の声を聞き取ってくれたのか、カノンが空間の向こう側から応えてくれた。

だが、カノンの言葉は相変わらず雑音でかき消され、やはり聞き取れない。

美桜はどうにか聞き取ろうとカノンの声のする方にさらに近づいた。

その刹那、カノンの声が次第に遠くなっていく。

美桜は慌ててカノンの声を走り追いかけるが声は遠ざかるばかり。


美桜が手を伸ばしながらカノンの声を追いかけていると、カノンの力強い叫びが聞こえた。


「………わたくしに!!!(すぅ)……触れてくださいましーーー!!!!!!」


美桜も声に負けじと何もない空間に必死に手を伸ばした。

数秒…いや、一瞬、温かいものに触れた。

カノンの手だ。


美桜は安堵し、話をしたいと願うが、その願いは届かず辺りが揺らぎ始めた。

夢から覚めようとしている。


美桜は寂しさと不安、少しの恐怖を残して意識が現実世界へと戻っていった。



「……ん…ここ…は。」

美桜が夢から覚め、うっすらと目を開けるとどこか懐かしい天井が目に入ってきた。

美桜は体をゆっくり起こし辺りを見渡すと、見慣れた部屋に見慣れた人が数人、見慣れない人も数人。

その見慣れない一人が美桜に抱き着いてきた。


「よかった、目が覚めて!丸二日も目が覚めないからものすごく心配したよ!!今の気分はどうだい?どこか具合が悪いとか、どこか痛い所とかないかい?」


美桜に抱き着いてきたのはカノンの兄、フロックスだった。

突然の出来事に美桜は戸惑いを隠せないでいた。


「え…えっと…どちら様…でしょうか…。妹…って事は…カノンさんのお兄さんですか?」

「……あぁ…なんてことだ…まさか……本当に?僕の可愛い妹が…。」


美桜の戸惑う声にフロックスは美桜から離れ、美桜の顔をまじまじと見つめ、寂しそうな表情を浮かべ地面にうな垂れた。

その様子を見ていた見慣れた人の一人、ライラックが声を掛けてきた。


「…君が…カノン嬢の言っていた異世界のお友達?」

「え…どうして…。」


再度戸惑う美桜にライラックも寂しそうな顔を浮かべ、カノンから話は全部聞いた事を伝えた。

二人のやり取りを見ていたその場の皆が困惑の表情を浮かべた。


「…全部…お話しします…。私…(ぐ~~~きゅるるるる……)……す、すみません……(ひゃー…恥ずかしいです…皆さんの前でお腹が鳴ってしまいました…。)」


美桜が意を決して話そうとした刹那、空腹なお腹が鳴り、美桜は顔を赤らめお腹に手を当てた。

その様子を見ていたカノンの姉、サントリナがクスッと小さく笑い優しい笑みを浮かべた。


「二日も寝ていたもの…お腹が鳴るのは当然ね…。お話は朝食の後にしましょう。」

「……はい…ありがとうございます。」


サントリナの言葉に皆が頷き、侍女のリリーが支度を手伝うため部屋に残り、リリーとカノン以外の皆は先に食堂へ向かった。



美桜が支度を済ませ、リリーと食堂に足を運び、皆が固まって座っている一角が空いていたのでそこに腰を掛けた。


料理が運ばれ、皆が黙々と食事をする中、美桜はどう説明しようか考えながら銀食器を動かしていた。

皆の表情が沈み、誰一人として話そうとしない。

美桜もその空気にいたたまれない気持ちで食事を進める。


なかなか手が動かないながらもようやく食事が終わり、皆が美桜の言葉を静かに待つ。

美桜はテーブルの下でドレスをギュッと握りしめ、俯き意を決した表情で顔を上げた。


「……突然、何を言っているのだと思うかもしれません。……ですが、今からお話する事は事実です。…改めまして、私は……とある国から来ました…一ノ瀬美桜と申します。」

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