第62話~カノンが調べた本の秘密(後編)~

ライラック殿下とアイリス嬢がフローライト家に滞在をして三日後。

約束していた滞在期間が終わった為ライラックとアイリスは楽しかったと言って笑顔で帰っていった。

その帰る様子を見送ったあと、カノンは自室に戻り二人が滞在中の事やおまじないの本の秘密を思い返していた。



三日間の滞在中、三人は屋敷内でのんびりしつつもおまじないの本の調査をしていた。

カノンが途中さすがに滞在中ずっと調べ物は申し訳ないと伝えて他の事をしようかと提案したのだが、二人して調べ物の方が楽しいと言ったので調べ物を続行した。


――書庫。

「どう?少しは解読進んでる?」

「えぇ。アイリスさんのおかげでだいぶ進みました。あと少しで解読が終わります。その解読をした言葉を文章に並び替えたら終了ですわ。」

「そう。それはよかった。僕の方も本の…というより、そもそもおまじないについての歴史が書いてある本を見つけたよ。」

「ほんとですの!ありがとうございます!」

ライラックが進捗の様子が気になりカノンに問い、自分の方の進捗も伝えるとカノンが満面の笑みでお礼を伝える。

その笑みに不意にキュッと胸を掴まれる思いをするライラック。

ライラックは照れを見せまいと奥の歴史の本が集まっている所にもう一度行く事を伝えカノンに背を向けた。


カノンはそんなライラックの気持ちを知らず自分も行くと伝えライラックの後を追う。

その様子を見ていたアイリスはニヤニヤと楽しそうに見ていた。


「……書庫の本は全部読んだと思っていましたのに…。書庫に来ていない間に本が増えてますわ…。(きっとお父様ね…。こんなにいっぱい…。後でお礼を言わなくては。)」

自分が知らない間に本が増えており父が増やしてくれたのだと察し、まだ読んでいない本を手に取りながら嬉しくなり微笑むカノン。


「何か面白い本でも見つかったのかい?」

「いいえ、そうではありませんわ。っ……。」

「!っ……。」

カノンが本を見ながら微笑んでいるのを見たライラックはカノンに近づき声を掛け、カノンが手にしていた本を覗き込んだ。

カノンはライラックの問いに答えながら声のする方を振り返ると彼の顔が近い事に驚く。

その突然の顔の近さにライラックも驚き、二人は同時に顔をそらした。


「(か、顔が…近かったですわ…。以前にもそんな事がありました…。あの時のような…感覚ですわ…。わたくし…どうしてしまったのでしょう…。)」

「(この間は僕から顔を近づけたけど…。今回は不意打ちだな…。うわ…さすがにこれは……。)」

顔をそらした二人の顔は赤く気恥ずかしい空気が漂い、カノンが耐え切れなくなり、解読の続きをしてくると伝えてその場から離れてアイリスとまた解読の作業に入る。

二人の行動を見ていたアイリスは春だなぁとこれからも二人を見守っていく事を決める。



アイリスのおかげで文字の解読がようやく終わり文章にしていき、また、ライラックが調べていたおまじないの歴史や成り立ちをまとめていく。



『我、まじないを作りし者。我が作りしまじないをここに記す。―――。』

本の中の内容はその文言から始まり、いくつかおまじないとそのやり方が書かれていた。

その中にカノンが読み解けたおまじないの詳細も書かれていた。

『人生一番つまらないときに唱えると奇跡が起きる。

やり方はリアライズチェンジと唱えるだけだ。このおまじないに関しては使用回数に制限あり。その回数は3回まで。それが叶いし時――。』

続きは文字が消えかかっており読み解けなかった。


本の最後の方に著者の言葉が書いてあった。

『この本のまじないが叶うことわり。それは精霊が宿りし木で作られたこの紙と強い念が込められしインク。そして強き言霊ことだま。無論、精霊には断りを入れてある。一種の契約に等しい。これらが組み合わさり事が生じる。

精霊といえど、ここまでくると悪魔かもしれぬ。だが、精霊は気まぐれだと聞く。

命を取られないだけ良心的と言えるだろう。

だが、不思議な事に似た境遇の者と同じ時間に――――。


――――。』


途中までは読み解けたのだが、文字がかすれて読み解けなかったり、最後の数行は文字が難しくカノンやアイリスでもどうしても読み解けなかった。


ライラックの調べたおまじないの歴史をまとめた文はこうだ。

約800年ほど前、戦争や災害が人々を脅かし、女神信仰が著しかった頃、皆が安寧の地を願い藁にも縋るわらにもすがる思いで様々な祈りを試した。その一つがおまじないだ。

強い念があるほど叶う時がある。それは個の強き念だったり、個の数が多く強き念が集まったりした時だ。

必ず叶うという保証はない。偶然か必然か、叶う時があるというだけの事だ。――。


以上がカノン達が三日間、調べた結果だ。


カノンはおまじないの本の秘密がある程度わかった。

おそらく最後のかすれていた文字は『似た境遇の者と同じ時間に同じおまじないをすると入れ替わる』

と書かれているのだろう。

それに入れ替われるのは残り2回。

だが、それがわかったところで美桜と連絡が取れるわけでもないのでやはり偶然か必然か…という結果に至る。


本の事がわかり少しだけすっきりした顔立ちのカノン。

本を大切そうに抱え窓に体を向ける。



アルストロメリア王国と現代は四季があり月日は同じように流れる。

今はもう2月の後半だ。続いていた寒い日ももうすぐ終わり温かい春が来る。

カノンは美桜が今どう過ごしているのだろうと窓の外を見ながら彼女の事を考える。

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