~おまじないの本の秘密 カノン編~

第61話~カノンが調べた本の秘密(前編)~

判決後の事後処理の会議が無事に終わった日の夕方。

フローライト家の玄関。


「どうして…またあなた方がここにいますの…。」


カノンと父オリヴァーが会議から戻りそれぞれが屋敷内でくつろいでいた時、カノンは侍女のリリーに来客があるからと玄関まで連れてこられた。

玄関先には満面の笑顔で大きな荷物をもって立っているライラック殿下とアイリス嬢がいた。


「やぁ、カノン嬢。会議お疲れ様。手続きも無事に終わったから三日ほどここに滞在する事になったんだ。お世話になります。」

「ごきげんよう、カノン様。会議お疲れ様でした。会議の後ライラック殿下からフローライト家での滞在を聞きわたくしもぜひと思いお父様とフローライト侯爵にお許しを頂きましたの。お世話になりますわ。」

二人の言葉に唖然とするカノン。


「滞在…アイリスさんはともかくどうして殿下まで…。以前仰ってた手続きとはフローライト家に滞在する為のものだったのですね…。お二人には驚かされてばかりですわ…。」

「「カノン嬢(様)ほどではないよ(ありませんわ)。」」

カノンは唐突の事に呆れつつも、お泊り会だと思い楽しむことにした。


「せっかくの滞在ですもの!精一杯おもてなしさせて頂きますわ。心してくださいませ。」

カノンは二人に楽しそうに、少しいたずら気味に伝える。

二人はカノンの発言に笑顔で答えた。


それからは一人ずつ使用人が付き丁重にもてなし、来客用の部屋に案内されたりお風呂を済ませたり夕ご飯をオリヴァーを含め四人で談笑しながら済ませたり楽しく時間が過ぎていく。


――夕食も済み談話室に向かう途中。

「カノン様、この後はどう過ごされますの?」

お風呂もご飯も済み、残るは眠るだけなのだが眠るにはだいぶ早い時間だ。

カノンはアイリスからの質問に少し考える。

「そうですわね…。(アザレアからの報告書も目を通しましたし、新しい政策の計画書もまとまってますし…する事と言うとアレしかないですわ)

一つ、調べ物をしたいのです。…あ!せっかくのお泊りですのに失言ですわ。

気にしないでくださいな。」

「調べもの?いいんじゃない。眠るにはまだ早いし、カノン嬢の気になる事の調べもの僕も気になる!一人で調べるより三人で調べたほうが早いかもしれないし。カノン嬢が迷惑じゃなければだけど。」

「カノン様の調べものわたくしも気になります!ぜひお手伝いさせてください!」


カノンはせっかく泊りに来てくれた二人なのに個人的な調べ物を言葉にしてしまった事に失言だと思ったが、二人は思いのほか乗り気だ。

カノンは申し訳ないとも思ったが、二人の厚意に甘える事にした。

「そうしましたら…。お言葉に甘えさせていただきますね。ありがとうございます。さっそく書庫に行きましょう!」


三人は談話室ではなく書庫に向かって歩き出す。

途中でカノンの部屋を通るため、カノンは部屋からおまじないの本を取り書庫に向かった。


――書庫。

「調べ物とはこの本についてですの…。わたくしに変わるきっかけをくださり、大切な方と縁を結んでくれたとても大事な本ですわ。ただ…本の名前も著者の名前もなくとても古い本だとしかわからず…。中の文字も古い文字ですの…。」

「ふーむ。古代文字か…。この手はアイリス得意だよね。本の中にヒントがあるかもしれないね。」

「たしかに、この文字はわたくしの範囲内ですわ。ただ…文字が崩れ過ぎていて読み解くのに時間がかかりますわ。」

三人が書庫に着き、カノンが調べたいおまじないの本を二人に見せながら説明する。

その本を手に取りまじまじと見た二人がそれぞれ意見をだす。


「わたくしも古代文字は少しは解読できますの。ですが、アイリスさんと同意見ですわ。文字のせいで解読にお時間がかかります。」

「なら、本の内容は古代文字が得意な二人に任せるとして、僕は本の歴史を調べてみるよ。」

「ライラックにしては名案ね!その分担でいきましょう!」

「『にしては』ってひどいなぁ。アイリス、最近僕に冷たくないかい?」

「あら、そんな事はないわよ。いつも通りですわ。」

二人のやり取りを見ていたカノンが仲良さそうだなぁと眺めており、少し心のモヤモヤを覚える。

「(あら?何かしら、このモヤモヤ…。胸やけ?……先ほどのお料理に何か不具合があったのかしら…。でも二人とも何ともないようですし…。)

………。」


しばらく二人のやり取りを眺めているとアイリスが呆然と立つカノンに気付き、話し込んでしまった事を謝罪し、謝罪を受け取ったカノンは調べを始めようと声を掛けて各々が作業に入る。


「この本、裏表に文字が書かれていて全部で8枚の本になっているのですね。」

「えぇ…。そうですわね…。」

「……?カノン様?」

カノンは先ほどの胸のモヤモヤがちょっとだけ残り原因は何か考えており、アイリスの言葉に上の空だ。


「…ン様?…様!……カノン様!」

「えっ…あっ…ご、ごめんなさい。ボーっとしてましたわ…。」

「何かあったのですか?この書庫に来てからご様子が優れないようですわ。

具合が悪いのですか?」

「アイリスさんは胸やけなどはしていませんの?」

「胸やけ…ですか?……。とくにはありませんわ。お料理すごく美味しかったですわ。」

カノンの様子が変だという事に気付いたアイリスがカノンを心配そうに見る。

カノンから胸やけの質問をされたアイリスは胸に手を当てて考えるが特に違和感は感じないようだ。

「この書庫にきて、アイリスさんと殿下がお話しているのを見ていたあたりから胸に違和感を感じているのです……。何か夕食に不具合があったのかと…。」


「(カノン様…それはきっとヤキモチですわ…。それを夕食のせいだと思われているお姿…お可愛らしいです。ご自分の気持ちや感情に鈍い方なのですわ。

……はぁ…あのライラックにはもったいないくらいです…。お伝えしたいのですが…。わたくしの口から伝えるのは…。)」

カノンの言葉にピンときたアイリスは心の中でカノンの事を考えた。

そして彼女から相談をされるまでは気持ちを見守る事を決める。


カノンはモヤモヤについて考えていたが、気のせいですわねと考えを振り払いアイリスとまた解読の作業に入った。

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