第32話~アザレアの復興計画開始~
ハンプスからの予想外の申し出により契約は一度保留になり屋敷へ戻る準備をする美桜。使用人達も炊き出しの片づけを終えていたので一行は屋敷へ戻る。
契約は保留になったが契約内容は問題なく受け入れてもらえたので作業自体は予定通り次の日から行うことになった。
屋敷へ戻り急ぎ足でオリヴァーのもとへ行きアザレアでのことを話すと、ひどく驚かれた。
「まさか…。そんな提案が持ち込まれるとは…。だが、せっかくの申し出を無下にもできない…。この件は私が国王に報告する。現侯爵家の当主として今度改めて契約するときは私も付いて行くとしよう。他の契約内容は問題がないようだから予定通り明日から作業が始まるのだろう?あまり無理はしないようにな。それと、侯爵家の荷車や馬たちも存分に使うといい。お前の活躍、楽しみにしている。」
オリヴァーに激励を受け、この世界では自分の才能が認められることに嬉しさがこみ上げる美桜。内気な性格がだんだんと前向きになっていき自信を持ち始めていることに自分自身でもわかるくらいだ。前の世界の美桜ならば下を向いてばかりいたのだが今の美桜は常に前を向いている。
オリヴァーとの話もまとまり翌日の作業の手順書を紙に何枚も書いていく。
作業員用と使用人用にそれぞれ書き進める。気が付けば夜も更けていた。
―――翌日。午前9時。
オリヴァーは国王にアザレアの一件を報告する為、前日に準備をしていた書類を手に王宮へ出向く。
美桜は制服姿で屋敷の使用人数十名とともにアザレアに向かう。
一行がアザレアに着き作業をする人々が集まっているであろう広場に到着すると予想していた人数以上の街人とハンプスが集まっていた。今日から本格的に復興の計画を開始することに街の人達も気合が入っているのだ。
その街のようすに早速美桜は作業手順書を見ながら準備に取り掛かる。
農作業をするのは主に街の男性達だ。しかも数は数千といる。
ハンプスから街の案内図を受け取り話し合った結果、以前の災害の被害も少なく気候が安定している街の北側に栽培の為の農園を作ることになった。土地も十分に広い為そこに美桜も賛成する。
その事を作業する皆に伝え早速農具を持ち美桜と作業員たちは土地を整備するため北側に移動する。
その他にも集まっていた街の女性たちは屋敷の使用人達と一緒に作業員たちのご飯の準備をする。こちらも男性に負けないくらいの圧倒的な人数の女性達が集まってくれた。それから誰が労働に参加してくれたのかわかるようにテーブルに紙やペンなどを用意して作業が終わったときに書き留められるように準備もする。
北側の農園予定地。
「わぁ――!!すっごい広い土地ですね!!それに整備も思ったよりされているのですね!!これならすぐにでも作物が植えられそうです!!(ざっと計算するとよく日本で例えられるドームの約四個分と言ったところでしょうか)」
美桜が広さや綺麗さに感動しているとハンプスが、声を掛ける。
「この土地は以前の災害の時以来、皆が常に手分けして整備をしており作物もいくつか育てていました。ですが品質が悪いものばかりで…。この間ちょうど収穫が終えたばかりなのでまだ整えられている方だと思われます。今見えている手前から奥は良いのですがあちらの左右に関しては整備をしなくては…。」
「でしたら、この整備されている土地を中心に作物を植えましょう!左側にチョコレートの実を、右側に砂糖の実を植えて整備されていないところは加工場にするのです。これだけ整備されている畑があれば十分です。」
美桜たちは現場を実際に見て話し合い、美桜も道具を持ち作業を始めていく。
ご令嬢も整備に参加するのかと皆に驚かれ心配されたが「私も一緒にすると言ったはずですよ」とにこっと微笑み皆の心配を押し切った。皆はいっそう令嬢に負けずと気合が入る。
もともと土地の整備も大方できており作業人数も多い為、作業が思いのほか早く進んでいる。現場を見るまではひと月くらい土地の整備に時間がかかると思っていたがこの調子だと予想より早く終わりそうだ。そう考えた美桜は次の手順に入る事を考える。
作業開始から早4時間土地の整備も順調な中、昼食の時間が来たので街の女性たちや屋敷の使用人たちが作った料理を作業員達に振る舞いしばしの休憩時間に入る。
美桜は土地の整備をしていた作業員たちに休憩の後からは新たに作業を追加する事を伝える。
「作業員の皆さん、お疲れ様です。思ったよりも早く土地の整備が進んでいますので、ここで作業を分けたいと思います。作業員の半数は土地の残りの整備をお願いします。また、半数は侯爵家や至る所にある砂糖の実とチョコレートの実の植え替えをお願いしたいのです。
この二つの実は使い道がないのに実の成る速度が速い為、邪魔なのでどうにかしてほしいと以前より他の街の方や貴族の皆さんからお声があり度々王宮での会議の議題に上がっていたのです。今回の復興に欠かせない植物ですので話はすでに各地に通してあります。できる範囲の近場からで大丈夫ですので整備した土地に運び込んで頂きたいのです。」そう皆に伝えた。
美桜の言ったようにこの二つの実は需要の知らない者達からは邪険にされており、どうにかしてほしいと至る所から声が上がっていたが王宮も各貴族も費用が掛かるだけだと放置していた問題だ。
それを知った美桜はいっそ国中の砂糖の実とチョコレートの実を全部アザレアに持ってこようと考えたのだ。その考えはオリヴァーに相談したときに計画書に書いていたためオリヴァーがすぐに各地に通達しており王宮や他の貴族たちは邪魔と思っていた木がなくなるならとその日に二つ返事を返してくれた。
昼休憩の後、街の作業員達は土地の整備班と木の植え替え班の二つに分かれた。
砂糖の実もチョコレートの実も背丈は150センチくらいの低木に20個前後の実がなる。それも成長速度が速く三か月に一回は実がなるのだ。
その低木を侯爵家からの荷車を使って数人で運んでいく。これにはさすがに時間がかかりそうだ。
至る所に植えられているとはいえ数年前、国も使い道のない木をどうにかして欲しいと街人や貴族からの要請で渋々と国費から作業員を雇い数か所に集め植え替えた。
その場所はフローライト侯爵家の敷地と王宮の敷地、北の王都ダリアと西のアザレアの境界付近、そして南側にあるペオニーという街と西のアザレアの境界付近だ。
伐採することを選ばなかった理由は植え替え以上に処分費等がかかるために各貴族や国が渋々自分の領地の端に植え替える事を決めたのだ。
補足だが四方の街の北側は王宮や王宮が所有している王都ダリアが位置している。ちなみにフローライト家の領地は東側にあるフリージアという街を治めている。その他にもあるがそれはまた追々としよう。
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