第31話~アザレア復興前準備~
アザレア復興計画の話がまとまった翌日。フローライト家は朝から大忙しだ。
美桜とオリヴァーは契約書を話し合い確認しながら作成していく。
使用人たちは美桜の急な提案によりハンプスと約束した時間に間に合わせてとある準備をする。
契約書などの準備がすべて整い終わり約束の時間まで十分に余裕はあるがアザレアに向けて出発する準備を始める。
美桜を含め使用人達十数名が馬車に乗りアザレアを目指す。
今回はいろいろ持ち物が多い為、馬車をアザレアまで引き入れる。
広場に一行が着くとすでに多くの人たちが集まっていた。
美桜は使用人達と馬車から荷物を降ろし準備に取り掛かる。するとハンプスが美桜達のもとに来た。
「カノン様、お時間までまだ余裕がありますが何をなさるおつもりですか?私たちも何かお手伝いを致します。」そう言ったのだが美桜は断る。
「いえ、ここは私たちにおまかせください!」そうにこっと微笑む。
「お嬢様!準備が整いました。」リリーが声を掛ける。
「では!始めましょう!!アザレアの皆さん!!ここにある興味のあるテーブルの前に並んでください!!どなたでもお好きなものをどうぞ召し上がってください。」
美桜は街の人たちに聞こえるくらいの大きな声で呼びかけた。美桜たちが準備していたのは炊き出しだ。
「カノン様…このお料理の数々はいったい…」ハンプスが目を丸くしながら美桜に聞く。
「『腹が減っては戦はできぬ』ですよ!明日から皆さんには頑張って頂くので景気づけのお料理たちです。それに…この街の特産となる作物で作ったお料理もあるんですよ。ぜひ召し上がってください!」そう料理をすすめる。
皆は恐る恐る近づくが本当に食していいのか戸惑っていると小さな子どもが一人駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん!!このお料理本当に食べてもいいの?!」
「いいですよ!どうぞ!このお菓子も食べてみてください」そう言ってお料理が入ったお皿とお菓子が入ったお皿を子どもに差し出す美桜。
そうとう空腹だったのか勢いよく料理をほお張る。
「うんめーーー!!こんな美味しいのはじめてだーー!!」とその子は喜んですぐに完食してしまった。それからお菓子も食べた。
「なんだこのサクサクしたもの!甘くてすっごくおいしい!!もっと食べていい?」とさらに喜びおかわりをしてくれた。それを見た数人の子ども達も駆け寄り料理の並ぶテーブルに行く。戸惑っていた大人達もテーブルの前に並び料理を受け取り食べ始める。こんなちゃんとした料理を食べたのはいつ以来だろうと泣きながら食する人もいる。
また、初めてのお菓子に驚き手が止まらないと感動しながら皆食べていた。
ハンプスもいつのまにか泣きながら料理やお菓子を食していた。
そうして炊き出しによる食事会が終わり一段落したところで美桜が街の人たちの前でハンプスとの間で決まった事を話始める。
「皆さん。この度我が侯爵家が尽力してアザレアを復興させていきたいと思っております。今日のお料理に使われた砂糖の実とチョコレートの実をこの地で栽培から加工までして頂きたいのです。その為にはこの街に住む皆さんのご協力が必要不可欠です。どうかこの街の再建の為にお力を貸していただけませんか」そうまっすぐに皆を見て頭を下げる美桜。
その姿にまたも涙を流す人が現れ始め、お互い抱きしめあったり背中をさすりあったりしている。
「頭をあげてくれよ。頭を下げるのは自分達のほうだ。嬢ちゃんが初めてだ。ここまでこの街の事を思って行動してくれたのは。」
「俺たちこんな美味しい料理を振舞ってくれたり良くしてくれたの初めてだ。これからが大変だが、嬢ちゃんの為なら頑張るぜ!」「俺も!」
「私も!出来ることがあれば何でもします!」
「自分もだ!」
「私も!」
そう街の人達が次々と協力の声をあげていく。
美桜はその言葉に嬉しくなり「私の為ではなく、この街の為に私も出来ることを皆さんと一緒に精一杯行います!改めてよろしくお願いします。」と涙ぐみながら再び頭を下げた。
街の人からも「「「よろしくお願いします」」」と頭を下げられた。
その光景に使用人達は(以前誰もお嬢様の政策のお話に聞く耳を持たず冷遇していたのにこのように実現する日が来るなんて…)と感心を得ていた。
その後の広場での片付けは街の人達や使用人達に任せて美桜とハンプスはハンプスの自宅で契約に移ることにした。
書類を目の前にし再度確認事項を読み上げていく美桜。
全部の契約確認が終わったところでハンプスから契約内容について一つだけ良いですかと問われた。美桜は契約内容に何か不都合があったのかと思い内容によっては一部白紙になるだろうと不安に思っていた。
だが、ハンプスから出た言葉は美桜の思いを予想をはるかに裏切る。
「街の皆と話し合い決めたことでございます。この西側のアザレア全域をフローライト家の領地にしてほしいのです。その為ならばわたくしたちはどんな環境でも耐え忍んでみせます。どうかご検討いただけないでしょうか。」
その言葉と同時にハンプスは美桜の前に数千枚、いや、それ以上はあるだろう紙の束を持ってきた。美桜がその書類の一枚に目を通すと署名が書かれた嘆願書だった。
ハンプスの申し出と嘆願書の量に美桜は唖然とする。
この西側のアゼリアは国の中で二番目に大きい土地だ。
一番大きい土地は無論王家が有している。
その二番目に大きい土地を領土にとは思いもしなかった提案だ。
フローライト家は他にも領地を持っているが、アザレア全域ともなれば他の領地も併せて国の三分の一の規模の領地を持つことになる。
王家や他の貴族でさえもその大規模な領地は持っていない。
さすがに美桜一人では判断できない事だ。
それに他の貴族が見捨て国さえも放置していた街で領地権は誰も持っていないとは言えそれなりに手続きなどに時間がかかる。
契約の話は一度保留にし、再度改めた契約書を持ってくることを約束し、この日はお開きになった。
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