第30話~アザレアの復興相談~
屋敷の使用人達や他の貴族の令嬢達に高評価だったお菓子はやはり需要があると考えた美桜はアザレア復興のために砂糖の実とチョコレートの実の栽培計画を立てる。
そしてこの二つはアザレアの特産品として品種改良や加工までも行えるように計画書を作り始める。
もとの世界では高校生であり勉強ができ授業をノートにわかりやすくまとめるのが上手と周りの評価もあり、計画書もわかりやすくまとまっていく。
また絵が描けることもありイラスト入りで説明も加えながら順調に仕上げていく。
オリヴァーに渡す用と、アザレアの皆に説明する用を用意する。
そうして十何枚にも書きあがった計画書を先に相談するべき相手のオリヴァーのもとへ持っていく美桜。
オリヴァーが仕事をしているであろう書斎の前まで来て扉をノックして声を掛ける。
「お父様、カノンです。今よろしいでしょうか」
中から返事が聞こえ書斎に入る美桜。書類に目を通していたオリヴァーが顔をあげる。
「どうしたんだカノン。お前がここに来るのは珍しいな」
「お仕事中すみません。失礼致しますお父様。私なりに事業を起こしたいと思い計画書を書いてみました。この書類にも目を通して頂きたいのです。お父様のご協力もなくては成しえない事業だと思いましたので。」
美桜は書いてきた計画書を渡す。
「ご検討をお願いいたします。」
そう伝え部屋を出ようとする美桜だったが、オリヴァーに呼び止められた。
「今目を通すからそこのソファで待っててくれないか。」
オリヴァーは今まで部屋にこもりきりで家業に見向きもしなかった娘の持ってきた書類の中身が気になり話を詰めようと考えたのだ。そうして書類に目を通していくと次第に目を見開き驚く。
「これを…カノン…お前が考えまとめあげたというのか…」
「はい…お父様。書庫にこもりきりではいましたが、国の歴史を知り何かできないかと考えました。砂糖の実の事は夢で見て実際にしてみようと思ったのです。」
オリヴァーの問いに美桜は違和感のないように辻褄を合わせる。
「そうか…この事業内容すごくわかりやすくまとめてあり良い点と悪い点までも書かれている。申し分ない。この悪い点の事業費や人員だが…。事業費に関しては我々侯爵家で負担しよう。それから人員はアザレアの民にお願いし、労働として事業費から賃金を支払おう。あとの人員は私のほうで手配しておこう。この書類に書いてあるようにお前の提案をすべて採用しようではないか。この事業はすぐにでも始めよう。カノン、この事業はお前に任せる。途中何か不都合があれば相談に来なさい。また話し合おう。」
そうオリヴァーは承諾してくれた。
いくらわかりやすくまとめ上げたとはいえ何か突っ込まれるのでは、カノンの自伝にあったように「女が政策にかかわるなど」と言われるのではないかと不安や緊張を秘かに持っていた美桜は安堵した。
「計画の受け入れありがとうございます!そうしましたら、善は急げ!思い立ったら吉日です!今からアザレアに行ってまいります。」
そう勢いよく書斎を飛び出しアザレアに向かう美桜だった。
聞きなれない言葉にオリヴァーは啞然とするが久々の娘の笑顔に「娘も家業に…それもすばらしい案だ。」と嬉しくも思うのだった。
オリヴァーから承諾を得た美桜はアザレアの人達に説明するため計画書や白紙の用紙、ペンを持ち侯爵家らしい身なりに整え、リリーに護衛や侯爵家の馬車を手配してもらった。
準備が整いアザレアに出立する。
以前とは違い護衛の数も多く侯爵家の馬車だ。それなりに目立つ一行だが以前のように街近くの馬房に馬を預け美桜とリリー、護衛達は西側のアザレアに向かう。
アザレアに着き、アザレアの人々は物々しい雰囲気に警戒を強める。
そこに美桜が先頭に立ち、声を掛ける。
「皆様、こんにちは。このように騒々しくしてしまい申し訳ありません。私はフローライト家の物です。以前アザレアの歴史をお話ししてくださった長さんにお話があります。お目通り願えませんでしょうか。」そう伝えると以前、長と美桜のやり取りを見ていた街人の一人が警戒しつつも長のところへ案内すると言ってくれた。だが、妙な真似をしたらすぐに帰ってもらうことも念を押された。
長の家に着き街人が家の中にいた長に呼びかけ経緯を話した。美桜たちは家の中へ案内されるが美桜はリリーや護衛の皆を外に待機させた。家の中は長と美桜の2人だけだ。
「こんにちは。長さん。この間はちゃんと挨拶も出来ず申し訳ありません。私はカノン・グレイス・フローライトと申します。この度は以前お話ししたこの街を良くしていこうという計画をお持ちしました。」先に話し始めたのは美桜だ。
「侯爵家のお嬢様でしたか…。私も挨拶をせず失礼いたしました。私はハンプスと申します。何か計画をお持ちだとか…。お聞かせ願えますか。」
お互いに挨拶を終え美桜は計画書をハンプスに見せて説明していく。
「そのような一大事業を……しかも侯爵家のご負担で…このような政策が本当に…。本当ならば願ってもいない事……本当なのですか」そう言いながらハンプスは涙を流しながらいまだ信じられないと聞き返す。
「本当です。できればすぐにでも始めたいのです。いかがでしょうか。」
美桜のまっすぐな目に心を打たれたハンプスはさらに涙があふれ泣きながら頷き
「この街を…どうか…どうか…よろしくお願いします…どうか…」
前にも記したが、この街を良くしようと訪れた者はいた。だが現状があまりにもひどい為に口だけの者や街人を奴隷のように扱う者達ばかりで美桜のように真剣に向き合ってくれる者はいなかった。それ故に長のハンプスは何度も頭を下げ涙を流しながら美桜に懇願する。
「ではまた明日契約書などをお持ちします。アザレアの中心地に広い広場がありますよね。そこに街人全員集めてください。時間は午後12時におねがいします。契約はそれからです。」
「わかりました。カノン様の仰せのままに。」そう美桜の言葉に疑問に思いつつも承諾し話はまとまり終えた。
カノンは外で待機していた皆と屋敷へ戻り明日の事について使用人達と相談し計画を立てるのだった。
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