第7話「アメリカから来たニンジャ」
−成田空港·国際線ターミナル−
この日1人の男が日本にやって来た。
「やれやれ……やっと着いた……」
大きなキャリーケースを持ってスーツ姿の男が飛行機から降りて到着出口から出てきた。
「兄さーん!」
男を呼ぶ1人の女。
どうやらこの男の妹の様だ。
「おお!美桜(みお)じゃないか!」
「来人(らいと)兄さん!」
兄妹の感動の再会。
では無かった……。
いきなり兄の腹にパンチを叩き込む妹と美桜。
「うっ……な……何を……」
「だって来人兄さん3年前にアメリカに行ったっきり全然帰って来ないんだもん!」
「あ……相変わらずの性格だな……美桜は……」
この兄妹、橘 来人(たちばな らいと)22歳、橘 美桜(たちばな みお)18歳。
空港から出て自宅に向う2人はタクシーの車内で色々な事を話していた。
兄の来人は日本の文化を広める為に単身アメリカに渡っていた。
3年前に突然アメリカに渡ってから手紙のやり取りはしていたが、その間一度も帰って来ていない。
そんな兄が何故日本に戻って来たのか、それは……。
彼らの家に到着。
その玄関の上には看板が設置してあり、「橘流忍術道場」と書かれていた。
この道場は彼らの父が開いている物で表向きは忍者の様な身体能力を身に着け、精神と肉体の成長を促す為の物だが……。
「ただいまー」
来人が家に入る。
「ただいまじゃないわー!!」
いきなり父の怒鳴り声が聞こえた。
「あー……うるせー……」
「ったく……突然出て行ったと思ったら突然帰ってきおって……」
「しゃーねぇだろ……美桜からあんな手紙貰っちゃ……」
彼らの父、橘 信弘(たちばな のぶひろ)はため息をつきながら話始めた。
「仕方ない……事態が事態だからな……今回は大目に見てやる……」
そして話は本題に入る。
この信弘が開いている道場は忍者修行が出来ると子どもから大人そして外国人にも人気だが、それはあくまで表向きの商売で裏では先祖代々妖怪退治の為に動いていた忍者一族の末裔だった。
小十郎の復活と共に妖怪達も封印が解かれ暴れ回っている事態を重く見た信弘は先祖代々受け継がれて来た忍術を駆使し妖怪達と戦いを始める為に来人を呼び戻していた。
「既に美桜が巽 小十郎の姿を確認した。後はお前達兄妹が力を合わせて巽 小十郎と共に妖怪達を倒せればそれでいい……頼んだぞ」
そう言って信弘は2人にある物を渡した。
「てゆーか……え?私も!?」
美桜も戦う事になった事を今聞かされたらしい。
その頃、小十郎は……。
「あるばいと?」
「そっ!ウチのバイト先の店長に相談したら面接してくれるって!だから小十郎にもアルバイトして貰うわよ!」
雪菜にアルバイトを勧められていた。
「何故?」
「居候がタダメシ喰らいで済むと思ってんの!?ウチが小十郎にいくら使ったと思ってるのよ!!」
雪菜の物凄い勢いに押され小十郎は面接を受ける事にした。
翌日、学校帰りの雪菜と合流し、小十郎は雪菜のバイト先に面接に向う。
小十郎は敏也から借りたスーツを着て慣れないネクタイを絞める。
雪菜のバイト先のコンビニに着くと店長の鈴木が迎え入れた。
雪菜はそのままバイトに入る為に更衣室へ行き準備をする。
そして、小十郎の面接がスタート。
ある程度雪菜から事情を聞いていた鈴木は名前、年齢、住所以外殆ど空欄の履歴書を見ながらも小十郎の面接を進める。
住所は雪菜の家の住所になっており小十郎が雪菜の家に居候している事も承知の上だ。
30分程で面接は終わり鈴木は店の方に居る雪菜の元へ。
「門倉さん、中々礼儀正しい人じゃないか、ウチで働いて貰う事にしたよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「今日はもう帰っても良いって言ってるんだけど、門倉さんが終わるまで待つって言ってるよ?」
「あはは……帰れないのかも……」
小十郎はそのまま面接した部屋で鈴木から渡されたマニュアルを読んで雪菜を待った。
しかし……。
「……まったく分からん……」
大丈夫か?
そもそも江戸時代を生きた小十郎にとって現代のコンビニでレジの使い方等分かるはずは無かった。
小十郎がマニュアルで四苦八苦している頃、妖怪達は動き出そうとしていた。
「足らん!恐怖が足らん!」
鬼童丸はイラついていた。
「鬼童丸様、次は私が……」
次の出撃に名乗りを上げたのは雪女。
「雪女……何か策はあるのか?」
「現代の人間共は恵まれた環境故、飢えの恐怖を知りません……もしこの時代から人間共の食料が無くなったら……どうなるでしょう?」
「ほぅ……面白そうだ。やってみろ」
「御意……」
雪女は街へ出る。
「さぁ、行け餓鬼よ」
妖怪、餓鬼が街に溢れる食べ物を無作為に食べ尽くし始める。
餓鬼は飢え死にした人々の魂が生み出した妖怪。
食べ物を前にした時の食欲は計り知れない。
次々に人間の食べ物を奪い食らって行く。
餓鬼に食べ物を横取りされた人々は空腹に襲われ食べ物を求めてレストランやコンビニ、スーパー等に殺到した。
雪菜のバイト先のコンビニにも食べ物を求める客で溢れ返った。
「ちょっと!?何コレ!?急に超忙しいんですけど!?」
「ああ〜み……皆さん落ち着いて下さい順番にお会計致しますので……」
だが、飢えを覚えた人間は周りの言う事など聞き入れもしない。
自分の空腹を満たす為なら他人の物を奪い店の物に至っては金も払わずにむさぼり食う。
「!妖気!」
小十郎は妖気を感じ外に出た。
「な……何だコレは……いや……この現象……見た事が……」
そう、餓鬼は300年前の江戸時代でも同じ様に人々を空腹で苦しめた。
「餓鬼か……」
小十郎は急いで餓鬼を探す。
街は空腹の人々で溢れパニック状態だった。
無銭飲食として警察も出動するが、その警察官までもが、飢えに犯され食べ物を奪い合う始末。
その様子を橘兄妹も見ていた。
「チッ……酷い事するぜ……」
「早く妖怪を見つけないと……」
橘兄妹も妖気を追う。
小十郎がようやく餓鬼を発見。
「見つけたぞ餓鬼ー!!」
小十郎は『変身』し星影が餓鬼に斬りかかる。
「星影……参る!」
だが、食べ物が溢れた現代で大量の食べ物を食した餓鬼自身の力はかなり強くなっている。
餓鬼は星影を殴り飛ばす。
「うわっ!?くっ……これ程とは……」
そう、餓鬼は江戸時代とは比べ物にならない程力を増していた。
すると、突然冷気が星影を襲った。
「うわっ!?」
雪女が星影に奇襲を仕掛けて来た。
「雪女!貴様!」
星影は雪女に反撃しようとする。
しかし……星影の足は凍らされ地面と共に凍結し身動きが取れなくなっていた。
「何っ!?」
「フフッ……行け餓鬼!星影を殺せ!」
餓鬼は星影に接近し殴り続ける。
身動きの取れない星影はその攻撃を受け続けるしかない。
(くっ……このままでは……)
星影は大ピンチ……。
だがそこへ何かが、餓鬼を攻撃した。
「何だ?」
雪女が見ると餓鬼の背中に手裏剣が刺さっていた。
「手裏剣?まさか!?」
そう、その手裏剣は橘兄妹が放った物だった。
「影と共に闇を討つ……」
「光となり悪を討つ……」
「我ら橘流忍者……月丸(つきまる)!」
「同じく、光姫(みつひめ)!」
黒の忍者月丸と白の忍者光姫が現れた。
「貴様ら……橘一族か!?」
「ああ、お前ら妖怪をぶっ倒す!」
月丸は背中の刀を抜いて餓鬼に斬りかかる。
その速さに餓鬼も反応出来ず攻撃を喰らう。
『火遁·火炎舞の術』
光姫は火の術を使い星影の足の氷を溶かした。
「助かったぞ!まだこの時代に橘流忍者が居たとはな!」
「どういたしまして!」
光姫は星影にピースする。
「テメェは終わりだ!!」
月丸は荒々しい口調で怒涛の攻撃を繰り返す。
その攻撃に餓鬼は追い詰められる。
『橘流奥義·漆黒乱れ斬り』
影丸は刀を素早い剣捌きで振り餓鬼を斬り続ける。
餓鬼はその圧倒的な攻撃により倒された。
「何だと!?くっ……」
雪女もその攻撃に驚かさせる。
「次はお前だ!!」
月丸はそのまま雪女にも斬りかかる。
だが、雪女は吹雪を発生させ目眩まし。
その隙に姿を消す。
「チッ……逃したか……」
餓鬼が倒された事により人々の暴飲暴食は収まった。
「君達、橘流の忍者だな。助かったでござる!礼を申す」
「チッ……あんたがもっとしっかり封印しとけば妖怪達が復活する事も無かったんだ。何やってんだか……ったくよ……」
月丸は悪態をつき去って行ってしまった。
「ごめんなさいね……兄さんがあんなんで……じゃあ」
光姫も星影に謝ってから兄を追い掛ける。
「橘流忍者……拙者の事を良く思ってないようだな……」
小十郎は少し肩を落としながら雪菜の待つコンビニに戻る。
新たに戦いに加わった橘兄妹……彼らと小十郎は仲間として共に戦って行けるのだろうか?
続く……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます