歌舞伎のススメ1 ―異世界ファンタジーを書く時に―
2024年2月、新橋演舞場にて、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を観た。
歌舞伎は「四谷怪談」や「助六由縁江戸桜」など、有名どころを独身時代に何度か観た経験があるけれど、空飛ぶスーパーなやつ(宙乗りという、役者があたかも空を飛んでいるかのように宙吊りになる演出)は初体験である。
きっかけは加入しているクレジットカードの会員向けに、割引料金の案内が来たこと。普段は数百円の割引が関の山なのに、今回はなんと半額くらいになっている! こ、これはチャンス!!
子どもたちに一度は歌舞伎を見せてあげたい、入り口としてはきっとスーパー歌舞伎が楽しくて良かろう……と思っていたので、即刻チケットを購入。
当日、劇場内の売店で奮発し、幕の内弁当の一番高いやつを買う。歌舞伎は幕間に客席で食事をすることができる。
幕の内弁当の名の、諸説ある由来の一つに、「芝居の幕間に食べるから」というものがあるので、「これが! 本当の! 幕の内弁当!」と何度も言って子供たちに若干ウンザリされつつ、うきうきと開演を待つ。
舞台が始まり、そのあまりにわかりやすく洗練された演出の手法に、「これこれ、これが歌舞伎だよ!」と何度も頷いた。
もしかしたら、これを読んでいる方の中には、歌舞伎ってセリフ回しも独特だし動きもゆっくりで眠くなるし、作法がいろいろあってお高いんでしょ? と思っている方もいるかもしれない。
お高いのは確かだけれど、演目さえ選べば他の心配は皆無だから、良かったら入りやすいスーパー歌舞伎から、ぜひ観にいってみてほしい。
元々庶民の娯楽である。大抵の筋書きは荒唐無稽でお涙頂戴。時事ネタの笑いなんかもちょいちょい挟んでくるので、堅苦しさは全くない(もちろん演目によると思うがスーパー歌舞伎ならまず大丈夫)。
役者が一人二役をする早替わりや、あっという間に着物が変わる引抜といった演出は手品みたいで面白いし、女形の美しさにはウットリだし、舞台セットや衣装は豪華そのもの。おまけに役者は伝統に則った迫真の演技をサービス過剰なくらいに見せてくれるので、観ればお値段以上だとわかる。
その上、異世界ファンタジー小説の執筆にも役立ってくれるなんて!
もっとも、これは私が言っているだけだから、以下は話半分で聞いてほしい。というより、そんな斬新なことは言っておらず、巷では常識なのかもしれない。私以外の人には特に参考にならない話かもしれない。個人の感想ですというのを先にお断りしておく。
個人的に参考になるわあと思って、異世界ファンタジー小説を書く時に取り入れさせていただいている、「隈取」「見得」「大事なことは何度も言う」の三点について、それぞれざっくり紹介してみる。
1・隈取
歌舞伎役者が白塗りの顔の上から赤や青や茶などの線で書いている化粧のこと。これを見れば話を知らなくても一発で役柄がわかるという、大変便利なキャラクターガイド。赤は正義感や勇気のあるヒーロー、青は大物悪人、茶は人外。
これを小説に生かすとはどういうことか。
別に主人公は赤、敵は青、使い魔は茶の顔色にしろと言っているわけではない。それでは作品によっては完全ネタバレになってしまう。
役柄というより、そのキャラクターを印象付けるためのポイントとして、パッと見でわかる要素を取り入れるといいのではないかということ。
たぶん、主要人物の髪や目の色や持ち物に特徴を持たせて、それについてたびたび言及するという手法は、誰もがやっていることではないか。
ただ、これだと文字を見て、視覚情報を脳に送り、情報処理をして意味を理解するというプロセスが必要になる。
疲れた現代人にはそれすらも嫌になる日があるのではないか。もっと文面をひと目見て識別可能になる手法はないか。そう、あたかも隈取のように。
こんなことを考えたのは、現在連載中の古代中国風異世界ファンタジーを書き始めたのがきっかけである。世界観に従って登場人物の名前を漢字にすると、地の文に埋没してしまって見づらいなあと思ったのだ。
考えてみれば英語圏では、名前や固有名詞の頭文字を大文字にすると決まりがある。文面をパッと見て感覚的に「人の名前」を認識してもらえる。
日本語だと漢字・ひらがな・カタカナが同じサイズで並ぶ。
古代中国風だとカタカナはまず出さないから、漢字・ひらがなの羅列になる。
ここに熟語っぽい個人名、例えば宋玉や潘安や衛玠や蘭陵王なんかが並んでいたら、いくら四大美男子でも埋没するのはご覧の通りである。
どうにかならんかな?
そう思った私は閃いた。そうだ、「隈取」だ!
地の文が漢字・ひらがなだらけになるのなら、逆に主要なキャラ名をカタカナにしてしまえばいい。そしてカタカナであることに意味を持たせたら良いのだ。
ちょうど、王族が異民族由来であることを、なんか感覚的にわかってもらえるといいなあと思っていたので、そことくっつけることにした。
ついでに、名前の省略形を通称とする人物も、カタカナにしてしまえ。
そういうことをしている小説を他に見たことがないので、最初は「こんなことしていいのかなあ」と躊躇もあったけれど、やってみたら案外しっくりきて書きやすかったので、OKとした。
自分の中ではこれが「小説的隈取」として工夫してみた点である。
皆さんは何か主要キャラを識別・覚えてもらいやすくする工夫、されていますか?
教えても良いよ! という工夫があったら、ぜひ教えてください♪
長くなるので他の二つは次回へ続く!
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