観劇のススメ ―ある創作の視点から―
観劇が好きである。種類は問わないが、独身時代は帝劇ミュージカルを一番多く観ていた。特に『エリザベート』と『レ・ミゼラブル』はキャストごとに観に行ったりしていた。
次に宝塚、次に劇団四季、次に劇団☆新感線、次に歌舞伎、以下諸々の小劇場でちらほら、といったところ。
バレエも好きだが、プロの本格的な舞台を見に行ったことはなく、専らテレビやインターネット視聴だ。
プラハへ一人旅した時、どうしても現地の人形劇が観たくて、恐る恐るチケットを取った。チェコは人形劇が盛んな地で、操り人形専門店もある。
演目は『ドン・ジョヴァンニ』。モーツァルト作のオペラで、『ドン・ファン』という名前の方が通りがいいかもしれない。
劇場はとても小さくて、日本でいうと公民館のような感じ。
プレイボーイの主人公が夜這いをかけた娘の父親を殺して逃げだすという結構な内容な上に、開演時間が20時半くらいだったかな? 遅いにも関わらず、子連れファミリーが続々集まってきたのが印象的だった。人形劇もオペラもしっかり市民に根付いているとは、さすが音楽の都プラハ!
チェコ語なので何を言っているかはわからないが、冒頭にモーツァルトが出てきたりしてコメディチックで面白く、子供たちもゲラゲラ笑っている。
このオペラはプラハの劇場が制作を依頼し、プラハで初演されたものなので、その辺の歴史的事情もあって愛されているのだろう。モーツァルト自身、喜劇だと言っていたそうなので、笑ってもらえるのは作者の意図通りだ。
モーツァルトの時代から地続きのような光景に感心した。こういうのは現場に来てみないとわからないことだから、思い切ってチケットを取ってみて良かった。
二部制で、最後まで観ると宿に帰り着くのが22時くらいになってしまう。一人で夜中の街を歩くのは怖かったので、前半が終わったところで退席した。
プラハの後はハンガリーにも立ち寄った。どうしてもヨーロッパ圏の劇場の雰囲気を味わってみたくて、現地で学術研究をしていた先輩を頼り、ブダペスト国立歌劇場のチケットを取ってもらっていた。
演目は『オネーギン』。これがまあ、かなり現代的かつ斬新な演出である上にハンガリー語。やはり内容はさっぱりわからなかったが、劇場内の煌びやかさには圧倒され感動した。
ほら、映画でよく見るでしょう? 二階席から上は金色の柱で区切られた小部屋になっていて、それがずらっと数段重なって並んでいて、天井には荘厳な天使の絵とかが描かれている。あれあれ、あの赤い壁紙のバルコニー席から観たのよ!
日本だろうが海外だろうが、生の舞台はやはりいい。テレビや映画ももちろんいいのだけれど、なんといっても、演者と観客が同じ空間を共有するというのがいい。そこでは演者の息遣いや身体の動きが生々しく伝わってくる。それを観る側の息遣いや拍手のタイミングもまた、舞台を構成する一要素となっている。
そろそろタイトルを回収したいので強引に繋げるけれど、はっきり言って観劇は創作面でも大いに参考になると思う。
なんといっても、生身の人間が現実とかけ離れた物語に身を置いて、実際の振る舞いを見せてくれるというところが大きい。
大きく膨らんだドレスのスカートを揺らして、腰から長剣を吊るして、どう歩いてどう座るのか。実際にマントを翻すとどう見えてどんな音がするか。群衆の中に紛れた主人公が再び現れた時のスポットライトの当て方。一人の役者が少女から老女まで演じるとき、その歳月の変化をどう表現しているか。印象に残る場面転換、光と影の使い方、効果音と劇伴の鳴らし方。
アニメや映画を観た時とはまた違う、その世界に入り込んだような生々しい実感を伴って、そういうことを肌感覚で教えてくれるのが舞台の良さだと思う。
舞台には物語を効果的に見せる手法が詰まっているし、逆に、何をしたら大げさで「芝居がかっている」仕草や台詞になるのかということも教えてくれるのだ。
演出については、ファンタジー小説を書くときダイレクトに参考になるなあと感じているジャンルがあって、それが何かというと、歌舞伎である。
この考えは元々、最初に歌舞伎を一緒に観にいった友人が、「歌舞伎ってすごくラノベ的だと思う」というようなことを言っていたのを聞いて、感銘を受けたのをきっかけに考察を進めたものなので、その友人の慧眼には深く感謝したい。
では、歌舞伎の何が、ファンタジーを書く時の参考になるのか。
長くなりそうなので、次回へ続く!
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