ジブリアニメと私
あなたはジブリアニメが好きですか? 私は好きです。
と、ある時期まで疑いもせずにそう思い込んでいたのだが、よくよく考えてみると、私の好きなジブリアニメは結構限定され、しかも「好き」の程度が5段階くらいに分かれることに気が付いてしまった。ひとまず分けてみた。
※以下、ネタバレあるので気を付けてください。
1・幼少期から好きで超影響を受けていると思しき原風景的な作品
「風の谷のナウシカ」
「天空の城ラピュタ」
「火垂るの墓」(これは単純な好きとはちょっと違うけど)
2・好きだけど成長してから観たため原風景ではないなと思う作品
「もののけ姫」
「千と千尋の神隠し」
3・成長と共に作品の良さがわかり、より好きになった作品
「となりのトトロ」
「魔女の宅急便」
「紅の豚」
4・ギミックと音楽は好きな作品
「ハウルの動く城」
「ゲド戦記」
「借りぐらしのアリエッティ」
5・楽しく観たけどそこまでハマらなかった作品
「平成狸合戦ぽんぽこ」
「おもひでぽろぽろ」
「耳をすませば」
「ホーホケキョとなりの山田くん」
「猫の恩返し」
「崖の上のポニョ」
「コクリコ坂から」
「風立ちぬ」
「かぐや姫の物語」
「思い出のマーニー」
こうして並べてみると、私がはっきり「好き!」と断言して語れるジブリアニメは、1~3あたりだろうか。
「ハウルの動く城」は久石譲氏の音楽がすごく好きだし、ストーリーも好みなのだが、本来秘めている深いテーマを描き切れていない感じで、「原作読んだ方が面白そうだな」と思ってしまったため、残念ながら4にさせて頂いた。「ゲド戦記」「アリエッティ」も同様の理由である。
あなたの1番好きなジブリ作品はなんですか?
そう訊かれた時の不動の1位は、なんといっても「風の谷のナウシカ」だ。
いつから好きかというと、幼稚園時代から。
当エッセイを追ってくださっている方はご承知の通り、私は幼稚園年長から鍵っ子となり、家で留守番している時間がとても長かった。
その有り余る時間、何をして過ごしていたか。
選択肢の一つに「ビデオを観る」というものがあった。今やほぼ絶滅してしまった、カセットテープを巨大化させたような形の、VHSの時代である。
金曜ロードショーで放映された子供向け映画を、父がいくつか録画してくれていた。その中にジブリアニメもあって、ラインナップは「となりのトトロ」「火垂るの墓」「天空の城ラピュタ」「風の谷のナウシカ」だった。
他にも、グリム童話のアニメが何本か入ったものや、ジュディ・ガーランド主演の「オズの魔法使い」、「ネバ―エンディングストーリー」、ディズニー映画の「不思議の国のアリス」や「ピノキオ」などがあったように思う。
どれも複数回観ていたが、断トツに回数多く観ていたのは「風の谷のナウシカ」だった。
というか、「ナウシカ」観たさに留守番時のビデオ視聴権をもぎ取り、デッキの操作方法を教えてもらった記憶がある。
一体、「ナウシカ」の何がそんなに私の心を掴んだのか。
「トトロ」では駄目だったのか。
駄目だった。あれは子どもが観るものだと幼心に思っていた。
たまには観たし、観れば面白かったし、トトロに会えるトンネルには憧れたけれど、メイが自分勝手な行動から迷子になって、ご近所さんたちが必死に捜索してくれているにも関わらず、無事に見つかったことを報告する前に猫バスに乗って、お母さんのいる病院に行ってしまうのが駄目だった。
その間も真剣に探してくれているだろうに、人の気持ちと時間を何だと思っているのだ……という義憤が、観るたびに幼き私の心をささくれ立たせた。
ところが、大人になってから観たら、ノスタルジーが過ぎてボロ泣きした。
非常にいい作品である。問題のシーンは、子供は大人のことなんか考えず、ファンタジーに浸っていていいのだ。これで大正解だという考えに変わっていたから不思議だ。別人の感想ぢゃないか。宇宙人に中身入れ替えられでもしたか。
では、「ラピュタ」では駄目だったのか。
駄目じゃない。大好きである。特に、ラピュタに不時着してサアッと雲が晴れ、木が建物の内部から突き出しているのを発見するシーンが最高。空賊たちの戦闘シーンも音楽と合わせてカッコ良すぎで、冒険万歳である!
だけど、そう何度も観なかった。あまりにきれいに纏まっているので、一回観たらしばらくいいやーとなっていた気がする。勧善懲悪に近い構成だし、わかりやすい展開だから、繰り返し観る必要がなかったのだろう。
それでは、「ナウシカ」は何が良くて、そんなに何度も観ていたのか。
説明し難い。何もかも、全てがクリーンヒットしたのだとしか言いようがない。
映像も音楽もストーリー展開も、登場人物の言動も全てが物語世界の中でしっかりと息づいていて、画面の外にいる私が我に返る隙を与えなかったし、話が複雑なので、観終わってからも「あれはどういうことだったんだろう。もう一度観よう」となったのだと思う。
この世のどこにも存在しない、毒々しくて恐ろしくて美しい、あの悲しい世界観にギュッと心を掴まれた。
超渋くてかっこいいユパ様がモヒカンなのでビックリした。
テト、キツネリスなるもの。ディズニーの白雪姫みたいに、いきなり野生動物と仲良くなるわけではないところがリアルに感じた。
ナウシカの温室。汚れているのは土なんです! 最初はよくわからなかったけれど、何度も観ているうちに、ああ、そういうことだったのか。腐海との繋がりがわかってきて、大きな物語なんだと震えた。
一番好きなのは流砂に呑み込まれた後、地下の大空洞に至って、金色の砂粒を指先でパキンと砕くシーン。あれが見たくて鬼リピしていたところもあった。
巨神兵が怖いのでいつも観るのを躊躇する。でも、他の好きが勝って、結局観てしまう。何度見てもやっぱりいい。最後の最後でガスマスクと木の芽が映し出されてエンドとなる。その、一番最後のカットが、これまで観てきたことの集大成って感じで、本当にいい。
長じてから漫画を全部揃えて読んで思った。
映画の方がいいな。
漫画にはナウシカの世界が全て描かれている。深くて面白い。でも、エンタメとしては映画の方が段違いに面白くて纏まっている。久石さんの音楽が奇跡みたいに作品世界を高める素晴らしいものであることも、大きな理由だけど。
創作において、その世界で設定したことを全て描けばいいってものじゃないということを、ここで学んだ気がする。
設定は深く難しく複雑なほどいい。でも、作品として人前に差し出すのは、その中でどうしても言っておかなければならないことを最小になるまで切り捨て選び抜いた、上澄みの結晶のような美しい欠片だけでいい。
物語が終わっても世界は続く。ハッピーエンドを迎えた主人公たちがその後もハッピーかどうかはわからないし、物語の結論がいつまでも支持されうるものかもわからない。実際には、一つの問題を解決したらまた一つの問題が持ち上がり、物語の終わりなんてものは、実は主人公が死んでもやって来ない。いつまでもどこまでも、誰かや何かに影響しながら、閉じることなく続いていく。
でも、それはただの現実だから、エンタメ作品はやはりどこかで結論を出して閉じた方がいい。考えさせられる結末は良いけれど、お客さんに結末を考えさせるのは、物語として美しいとは言えない。
そんな自分なりの創作哲学をも育ませてもらった。
「風の谷のナウシカ」は昔も今もこれからも、恐らくずっと私の中で、全てのアニメ映画作品の中で不動の1位を誇り続けることだろう。
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